34.飛ばされたレオノア
そして、当のレオノアはロンゴディア王国より南。砂漠の国に飛ばされていた。岩と砂しかない周囲を見て、溜息を吐く。
彼女が場所を飛ばされたのは、アウローラが最後の力でレオノアを道連れにしようとした余波だった。アストラが意図せず妨害してくれたおかげでこの世界から去るようなことにはならなかったが、それでも場所を移動することだけは避けられなかった。
しかし、そんなことを知らないレオノアは普通に誰もいない、見知らぬ土地にいることに大変困惑をしていた。
「……どこかしら、ここ」
地図はサミュエルに預けているし、周囲を見ても場所の手掛かりがない。
首を傾げていると、大きな蠍の魔物が現れてレオノアを見つける。それを「まぁ!」と嬉しそうな目で見たレオノアはそれに向かって魔法を使おうとした。
その時だった。
土で作られたゴーレムがレオノアと魔物の間に立ちふさがる。
「何でこんなところにいるんだ、赤」
「まぁ、あなたに言われたくはないわ。橙」
ゴーレムの肩に乗っているのはオレンジ色の髪の青年だった。
名をローガン・アウラ。
ロンゴディア王国の伯爵家出身であり、レオノアたちと同時期に逃げたと言われている男である。ロンゴディア王国の学校に通っていた際の先輩でもある。
疑問に答えるため、加えて話す相手も欲しかったレオノアによって、ローガンは今まであったことを簡単に、そして愚痴を少し混ぜて聞かされることになった。
全てを聞き終わったローガンはレオノアを不憫そうな目で見ていた。
「……状況を聞くと、女神アウローラのせいでここに飛ばされたんじゃないか?」
「やはりそうなのかしら。しぶとい方ね」
仮にも神に向けられる言葉ではない。しかし、彼女の立場であったならばそう考えても不思議はないだろう、とローガンは苦笑するにとどめた。
「ちなみにここはエデルヴァード、ベルデを越えた先にあるオランチアという国だよ。俺はここから別の国に移動しようと思っているけど悪い国じゃないよ」
「悪い国ではないなら、永住すればいいのではない?」
そう尋ねたレオノアに、ローガンは大変複雑そうな顔をした。
そして、レオノアはローガンに今まで起こったことを聞くことになる。
彼は、存外平民としての生活をエンジョイしていた。利用はするくせに虐げてくる親類や、魔法の力で感情を塗り替えてくる女がいない生活と比べれば、だいぶマシだった。そう考えてしまう時点で彼は貴族としての生活が向いていなかったのかもしれない。
「家族やあの女と関わるのに比べれば、肉体労働の何と気が楽なことか!」
「はぁ……」
「とはいえ、俺は字の読み書きができたし、それなりに学問も修めていた。だから、いろんなことを任せてもらえたし、人に認められるという経験が初めてだったからな。楽しくて色々とやった」
その結果、ローガンはうっかりこの国のお姫様と出会い、うっかり気にいられ、求婚されているのだという。
興味がないレオノアは「そうなの」と言いながらにこにこ笑顔を作るだけだった。
「わかるだろう!?貴族生活の息苦しさ、しんどさ、陰惨さが!!」
「残念ながらわかってしまうわねぇ……」
そんなわけで、ローガンはお姫様から逃げていた。国を移動しようとしていた際に偶然、レオノアが現れたのである。
「女ひとりでは危険もあるだろう。俺が送って行こう」
「いえ、このイヤリングがサミュエルに位置を知らせてくれるから、場所にもよるけれどそう待たずに迎えにきてもらえるわ」
「位置を……知らせる……?」
「そう。常にどこにいるか知りたいのですって。可愛い人よね」
ローガンがそれを『可愛い』と評していいのかわからなかった。というか、彼個人の感想で言えば「何それ怖い」である。
「それは……可愛いのか?」
「ええ。地獄の果てまで追いかけてくれるのだそうよ。愛よね」
うっとりとそう話すレオノアに、ローガンはドン引きしていた。
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次回最終話です。