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16.試験勉強


 汗ばむような夏の日が増えたころ、学園での試験期間が発表された。レオノアもその少し前から腰を入れて勉強をしていた。

 それなりの金額はその前に稼いでいることもあって、集中できる。



(点数はそれなりに取れそうね)



 図書室の参考書を見ながら、そんなことを考えていると、にわかに騒がしくなってきていた。

 どうせマリアだろうと溜息を吐く。図書室の司書もなぜか彼女には注意をしない。それどころか、娘ほどの年ごろの少女に情熱的な視線を送っていた。『ヒロイン』という立場を羨ましく思ったことはないが、きっと彼女は周囲に愛されて満足なのだろう。そう考えていたレオノアだけれど、これにはさすがに眉間にしわを寄せた。周囲の目を惹くというのは存外大変らしい。

 再び、参考書に目を落としてペンを取る。授業内容を書いたノートに一部注釈を入れた。



(集中が途切れてしまったわ)



 悪役令嬢アマーリアのスペックが高いおかげか、知識を詰め込めば、詰め込むだけそれを吸収する。うっすらと覚えているだけの前世ではもっと苦労をしたはずだ、と苦笑する。

 気晴らしに、と錬金術の本を開いた。初級魔法薬のレシピを見ながら、作れそうなものをメモしていく。

 友人とワイワイ遊んでいる分には騒がしくても楽しいだけだが、興味のない人間の騒ぐ声というのはどうしてこんなにも耳障りなのか。レオノアは深い溜息を吐く。

 そもそも、図書室というのは騒ぐ場所ではない。この場所に来るだけで頭がよくなるならば話は変わるけれど、現実にそんな仕様はない。騒ぐというのになぜ図書室に来るというのか。



(攻略対象、というのがこの場所に現れるのかしら……?ふふ、攻略……ねぇ?)



 レオノアは酷薄な笑みを浮かべる。



「まるで、遊戯みたいね」



 そう口に出してから、はっとしたような顔をした。それから、心底楽しそうな表情へと変わる。彼女は、本当に『遊び』の世界観と似ていることに気が付いたのだ。

 本当にそうだとは思っていない。もしまるっきり一緒だったならば、レオノアは今ここに、このような立場で存在してはいない。ただ、似ているだけに過ぎないのだ。


 そこまで考えて、「さぁ、そろそろ頑張ろうかしら」と教科書の内容に目を向けた。正直なところ、学べる事をありがたいとは思うけれど、興味のない物に関してはひたすらに面倒だと感じてしまう。

 けれど、学んだ内容は無駄にならないだろう。



(薬師になれなくてもうまく高賃金の仕事に就ければ、家族も安心するでしょうし)



 学園を卒業した後の貴族女性は、基本的に家庭に入る。家を取り仕切るようになっていくものだ。そして、高位貴族になるほど、それには相応の能力を求められる。

 それは商家の妻などでも同様で、大きな商会を抱えていれば相応の能力を求められる。

 就職するにも、嫁ぐにも、ある程度文字が理解でき、教養があり、計算ができるというのは悪いことではないのだ。

 だから、学ぶ機会があるということ自体は歓迎するべきだろう。

 レオノアはつまらなさそうに肘をついて、溜息を吐いた。


 学ぶ機会に感謝をするのと、試験勉強が面倒なのはまた別の話だった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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