33.女神の追放
アストラを見つけた美女……アウローラは先ほどまで涙を流していたのが嘘かのような満面の笑みで彼に駆け寄ろうとした。しかし、目の前にいるアストラが不快そうに眉を顰めているのを見て足を止める。
「アウローラ。どうしてお前はそうなんだ」
「そうって……わたくしはただ、あなたと治める世界が都合の良いものであればいいと」
「不必要な人界への干渉」
言い訳をするアウローラを見つめて、アストラが告げた言葉。それと同時に身体に鎖が巻き付いた。
「偽りの愛で聖なる乙女の人生を狂わせた。私の宝物を無断で利用し、あのファフニールを作成したな?私の力が落ちれば、私を自分の思うとおりにできると、世界よりも自らの欲を優先した。……もう、お前に神である資格はないよ」
鎖で身動きの取れないアウローラは不安そうな顔でアストラに手を伸ばす。しかし、彼がその手を取ることはない。
「アウローラ。お前がどれだけ私を、自分の子と定めた数名の女子を愛していたかは知っている。だが、度を越したそれは世界を歪め、多くの人の運命を大きく捻じ曲げた。ならば、永い時間をかけ、その代償を払わねばならない」
厳しい声でそう言ったアストラに、アウローラは信じられないというような顔をする。そして、周囲を見回して、彼女にとって『知っている』顔を見つけた。その瞬間、アウローラは憎悪に満ちた表情へと変わる。
「紅玉……!アリシア、お前はまたわたくしの邪魔をするの!!」
もういない人物の名でレオノアを呼んで、彼女はただでは終わらないとでもいうように強い力を発する。それを見たアストラは間に黒い門を召喚する。
「アストラ、わたくしはずっと、あなたのために……!!どうしてあの女ばかりを」
「私のため?自分のためだろう」
黒い門はアウローラを吸い込もうとするけれど、彼女は必死に抵抗している。ずっと
「あなたを愛しているのに」「アストラ」と叫ぶ姿はホラーでしかない。
独りよがりの愛を叫ぶアウローラに対して、アストラは無感情な瞳を向ける。多くの悲劇を振りまいた彼女に対してすでに情はない。
人が、人の力で不幸になるならば仕方がない。しかし、神の身勝手により現世を騒がすのはいけない。ずっとそれに気づかずに、何ならこの度のマリア・ハーバーに対しては今までもよりも強い力を与えていた。その邪悪さに気づいて、ファフニールが復活するだろうということもわかっていて。けれど、アストラに会うため、そして、かつて自分からアストラを奪ったと思いこんでいるアリシアに報復するために目を瞑った。
それが、アウローラ自身の欲望のため以外の何だったというのだろう。
「だから、お前を好きにさせるわけにはいかないんだよ」
アストラがそう言ったと同時に、悲鳴と共にアウローラが門へと吸い込まれていった。
そして、彼もまた人々に視線をやると、怪訝そうな顔をしたあとに姿を消した。
「何だったんだ」
「女神の後始末だろう。レオノアは……レオノア!?」
唖然としたルーカスに応えたサミュエルはレオノアに話しかけようとして、そこに彼女がいないことに気が付いた。
レオノアが勝手にどこかへ行く理由も、逃げる理由もないはずだ。だというのに、なぜ彼女がいないのか。そう考え込みながら、地図を取り出し、彼女に仕込んである魔道具の片割れをそこに置いた。対象の居場所を知らせるそれを見ながら、レオノアの現在位置を調べてサミュエルは眉間に皺を寄せた。
「なんでこんなに遠い国にいるんだ!?」
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