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32.邪竜討伐


 邪竜ファフニールも気づかぬ間に、内側からその身体を蝕んでいるころレオノアたちは動き始めた。

現れた獲物に、それは警戒の目を向ける。先ほどの獲物とは明らかに違う雰囲気であった。むしろ、それが己を『狩る』気でいるようだと察して鼻で嗤う。


 ファフニールはその中でも弱そうなレオノアに目を付けた。他の獲物より柔らかく美味そうに見えた。

 レオノアに前足を振り下ろそうとして、目の前にいるのが彼女ではなく、ルーカスであることに気が付いた。剣が目の前に突き出されると光の壁が現れる。体勢を崩したファフニールにウィリアムが切りかかる。それに顔を向けて、炎を吐く。ウィリアムは咄嗟に大剣に魔力を込めて振り払うと、付与された聖魔法の効果か一瞬炎が切り裂かれ、後ろに飛び退いた。



「げ……、直撃だったら死んでたな」

「油断していると言葉通り死ぬぞ」



 ウィリアムの後ろからゲイリーが飛び出してきた。不意を突かれる形で斬りかかられたファフニールは避けようとして目を奪われる。痛みと暗闇に襲われたファフニールはのたうち回る。



「尻尾が邪魔ね」



 周囲を破壊しているファフニールを見たレオノアは上空からそう呟く。



「本当に効くのか?」

「理論上はいけるはずよ。ヒュースとの実験の時はなかなかうまくいったわ」



 楽しそうに笑って、レオノアはグリフォンの背から乳白色の液体をかける。ジュッと焼けるような音がしたと思えば、尻尾の付け根が溶けており、身体を捩った拍子に千切れる。



「ほら!」

「……うわ」



 嬉しそうに振り返ってレオノアが指を差す先を見ながらサミュエルはドン引きしたような声を発した。あまりにもエグイ光景だった。



「これを上からかければいいんじゃないか?」

「コストが高すぎてたくさんは作れなかったの」



 あまりにも微妙な理由に、サミュエルは複雑そうな顔をした。

 ただ、レオノアが『できない』と判断したならば相応の何かがあったのだろうと口を噤む。

 呑気な顔をするレオノアと共に少し離れると、ファフニールは胸元を掻き毟り出す。それを見たレオノアは「マリアという毒が効いているみたいね」と呟いた。女神の加護を得たマリアの血肉は、ファフニールにとって毒以外の何物でもない。懐かしい(女神の)魔力(匂い)に釣られて彼女を食らったのがこんな結果になるなんて、考えてすらいなかっただろう。


 こうなってしまえば、討伐の難易度は格段に下がる。

 ルーカスとウィリアムの剣がファフニールの四肢を切り裂き、ゲイリーが首を取る。

 それは、驚くほどうまくいった。ファフニールは黒い粒子となって天に昇っていく。


 レオノアたちは集まって、無事に討伐が終わったことを喜ぼうとしていた。


 しかし、その時異変が起こる。

 周囲に一瞬、強く白い光が満ちた。



「どうして?なぜ、わたくしの可愛い子たちだけが死んでしまったの?」



 そこに突如として現れたのは長い桃色の髪の美女だった。緑色の瞳はファフニールとマリアの血があった場所を見つめ、涙に濡れていた。



「どうしても何も、自業自得でしかないだろう」



 彼女に言葉をかけることができたのは、たった一人――一柱だけだった。

 アストラが、そこに立っていた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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