27.マリアの影響
レオノアとサミュエルはグリフォンの背に乗って、カイルたちの滞在する野営地までたどり着いた。ケガをしている者や、唖然とした様子の者も多く、マリアが彼らに与えた恐怖がどれほどのものであったかを感じさせる。
「レオノア、無事だったか……!サミュエルもよく無事に戻ってきた」
「レオノア嬢ならば、必ず無事に戻ってくるとお伝えしたのですが……」
「それは心配をしない理由にならないだろう」
カイルのその言葉に、レオノアは少し温かい気持ちになるのを感じた。それと同時に、どこかこそばゆい気分だ。必要とされていることを嬉しく思うのは、きっと積み重ねてきた信頼があってこそ。
「サミュエルは兄……皇太子殿下へと報告へ向かうか?」
「いえ、それはもう同行をしていた者に任せております」
サミュエルと同行していた者たちも状況は変わらなかった。ある者はふらふらとマリアに近づこうとし、ある者は彼女のためになるのならと敵対しようとした。現場を離れて一発ずつぶん殴って正気に戻したサミュエルは無事だった人間に伝言を頼み、おかしくなった者たちは待機していた別の騎士たちに監視してもらっている。
「……は、そんな化け物相手に、どう戦えば」
カイルは投げやりにそう口に出した。
アストラがアウローラの加護を抑えることを約束してくれたとはいえ、それがいつ、どのように作用するものかなんて、誰にもわからないのだ。弱音を吐きたくなってしまう気持ちは皆、嫌でも理解できてしまう。
しかし、カイルが逃げることはできない。それで、民が傷つくことを許容できてしまう人間ではなかった。
「何か、方法があるはずだ。必ずそれを見つけなければ……」
操られ、死んだ者たちの命を無駄にすることは許されない。彼は爪が内に食い込むほど強く拳を握る。
「とりあえず、デレク殿下もお待ちですし、王宮に戻りましょう」
「……そうだな」
カイルはレオノアの言葉に肯くと、ゲイリーと共に動き出した。
「それで……実際、何か手はあるのか?」
「私にはあの超高級アミュレットをたくさん作る、とかしか思いつかないけれど、問題はそれだけではないと思うの」
「アレ以上の問題はあるか?」
サミュエルの問にレオノアは「そうねぇ」と考え込むような仕草を見せる。
「確かに彼女の力はすごいけれど、今回の件って、報酬に対して我が国だけでなく周辺国までも敵に回すリスクが大きすぎると思うの。マリア・ハーバーは男の子たちと楽しく遊んでいることが多かったと聞いているけれど、あのラファエル王子は違うでしょう?」
「……確かに。神話や竜について必死に学んでいたと報告されているな」
「切羽詰まっていたのではない?」
サミュエルは苦々しい表情で「邪竜ファフニールか」と呟く。
復活が近いということだけしか知らない『それ』の危機を、はっきりと彼らが理解していたとすれば、リスクを冒す理由にもなるかもしれない。だが、これはあくまでもまだ推論でしかない。
「実際の状況を把握しなくては判断ができないところだな」
「まぁ、あのデレク殿下のことだし、情報収集はきっちりやっているのではない?」
切羽詰まっていたとしてもやっていいことと悪いことはあるだろう。
邪竜がいなくなったところで、ロンゴディア王国の未来は明るくないことが想像できる。
(それとも、人間に対してはマリアがいるから大丈夫だとたかをくくっているのかしら)
だとすれば、大した自信だ、とレオノアはかすかに口角を上げた。
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