26.偶然の合流
そして、割れた山肌を転げ落ちていたレオノアはケガを負いながらも生きていた。魔法で土砂を軽く吹き飛ばし、座り込む。
「今回はちょっとダメかと思ったわ……」
ケガの程度を確認して、動くことができると判断したレオノアは立ち上がって、溜息を吐いた。
振り返ると、ロンゴディア王国の兵士が複数名呻いているのを確認する。巻き込まれたのだろう。自国民の生死を気にしないやり方に、不快感を覚える。
(きっと、あの子にとってはどうでもいい人たちなのね)
けれど、襲い掛かってくるだろう相手を助けることはできない。
レオノアは彼らを放置することにして歩き出した。鞄に突っ込んでおいたポーションを取り出して呷るように飲む。カイルたちに声をかけて、さっさと帰るつもりが大変なことになってしまった。
「帰り道は……歩きしかないわね」
何度でも溜息を吐きたくなってしまう。騎乗する動物もいない状況で、宮殿までの距離を考えるとそうなっても仕方がないというものだ。
とはいえ、他に手段があるわけではない。
レオノアは黙って足を動かそうとした。その時だった。
「……なんで君がこんなところにいるんだ!?」
大きな影に覆われたかと思えば、聞きなれた声が降ってきた。レオノアの前にグリフォンが現れ、その背からサミュエルが飛び降りた。
「サミュエル!」
危険な場所であるため、来たことを注意しないといけないと思っていたサミュエルだったが、駆け寄ってきたレオノアがうるんだ瞳で上目遣いをすると、言葉が出なくなった。これも、惚れた弱みというものかもしれない。
「あのね」
服を掴んだレオノアが説明をしようと少し考えるように目線を下に向ける。
だが、その口から語られた経緯にサミュエルは「は?」ととても低い声を出した。
「……皇太子め。レオノアが優秀だからといってこんなところに送り込むとはどういうつもりだ。ライアンにしておけばいいものを」
「ライアンは別件で動いているみたい」
「それにあのクソ女。何してくれやがるんだ」
「それはそう。本当にそう」
全方位に怒りを向けるサミュエルだが、マリアへの怒りには全面的に同意せざるを得ない。
「サミュエルと会えてよかった。私、徒歩で帰る覚悟をするところだったわ」
「転移陣を持っていないのか?」
「……私、あれ嫌いなのよね。想定と違うところに飛ばされて殺されかけたことがあるから」
レオノアの言葉を聞いて、サミュエルは「やっぱり、あの女生きている価値がないな」なんて呟いた。彼にとって、レオノアの敵である時点でマリアはゴミ以下の存在である。
「さあ、俺たちも向こうと合流しよう」
「そうね」
「それにしても……。君に対する行いと、単純に周囲への被害を考えてあの女だけは邪竜にでも食われてしまえと思ってしまうな」
聖剣を奪ったところで、今のロンゴディア王国にそれをまともに扱える人間がいるとは思えなかった。かつて、女神の加護を得て邪竜の力を弱めたと言われている聖女の力もどこまで通用するかはわからない。ただ、レオノアの記憶では、マリア・ハーバーという人物は魔法の鍛錬が好きだというわけではなかった。むしろ、努力を嫌っていたのではないかと思う成績であったのはたしかだ。
魅了の力をメインに扱って、しかし、それ以外の力がどの程度なのかわからない。それが、レオノアから見たマリアだ。
(本当に、彼女の思い通りになるものなのかしら……ねぇ?)
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