25.当然の権利
「あら、まだ生きていらしたのね?」
撤退するための経路を確認しようとしていたレオノアたちは、その時、一番聞きたくなかった声を耳にする。
その方向を見れば、柔らかな桃色の髪と瞳を持つ愛らしい女性がいた。その腰を抱いているのがロンゴディア王国第二王子のラファエル。彼らがいるということは、と気配を探る。
「囲まれていますね」
「だろうな」
ゲイリーの声に、カイルが剣に手をかけながら彼らを睨む。
「盗人が堂々と顔を見せるとは」
「わたくしたちが困っているのよ?助けるのは当然というものでしょう」
本心からそう言っているのだろう。レオノアたちには無邪気な笑顔が不気味に見えた。こんな太々しい言葉を聞くとも思っていなかっただけに、苛立ちが増す。
そして、ラファエルの合図とともに矢の雨が降る。
「レオノア」
「はい!」
カイルに名前を呼ばれて、即座に結界を作る。少しは慣れたものの、レオノアはあまり結界が得意ではない。たまに貫通しそうになるそれをゲイリーが払う。
その切れ間に煙幕を投げようとした。
しかし、周囲に膨大な魔力を感じて背中に冷や汗が走る。
「殿下!」
レオノアは咄嗟にカイルを飛竜の背に投げる。瞬間、大地が裂けてバランスを崩す。
「レオノア!」
カイルの叫ぶ声が響く。
レオノアは舌打ちをすると、自分一人を結界で包む。一瞬、ゲイリーと目が合うが追いつかないと察したのだろう。彼は唇を噛んで飛竜に飛び乗る。
「また後ほど!」
それは、レオノアを信じているがゆえの言葉だろう。
ゲイリーの言葉に肯いて、自分の身を守ることに集中する。
山が割れて、落ちていくレオノアの姿を見たマリアは満足そうに微笑む。
「本当にしつこいこと。あの時に死んだと思っていたのに、ピンピンしているのだもの」
現在、レオノアと呼ばれている女を殺す機会は二度あった。
一度目は子どもの時。五歳の、貴族の女の子が一体どうやって生き延びたのかはわからないが、当時アマーリア・ハーバーと呼ばれていた彼女は平民として姿を隠した。
二度目は三年以上前。平民レオノアとして姿を現した彼女をルーカスと共に始末しようとした。結局、レオノアは逃げたうえにエデルヴァード帝国の庇護下に入った。
一度目も、二度目も。普通の人間なら死んでいるはずなのに、生き残った。マリアにはそれがなんとも気持ちが悪いように思えた。
(でも、さすがにこの高さから転がり落ちれば死んでくれるわよね?)
結局、『アマーリア』は『マリア』より下の人間なのだ。
そう確信した彼女は可憐に微笑んで、ラファエルの腕に抱き着いた。
「さぁ、お家に帰りましょう?」
そして、『乙女ゲーム』のように、ラファエルと共に邪竜を倒してハッピーエンドを迎える。
マリアの目には、そんな輝かしい未来しか映ってはいなかった。
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