表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/161

25.当然の権利


「あら、まだ生きていらしたのね?」



 撤退するための経路を確認しようとしていたレオノアたちは、その時、一番聞きたくなかった声を耳にする。

 その方向を見れば、柔らかな桃色の髪と瞳を持つ愛らしい女性がいた。その腰を抱いているのがロンゴディア王国第二王子のラファエル。彼らがいるということは、と気配を探る。



「囲まれていますね」

「だろうな」



 ゲイリーの声に、カイルが剣に手をかけながら彼らを睨む。



「盗人が堂々と顔を見せるとは」

「わたくしたちが困っているのよ?助けるのは当然というものでしょう」



 本心からそう言っているのだろう。レオノアたちには無邪気な笑顔が不気味に見えた。こんな太々しい言葉を聞くとも思っていなかっただけに、苛立ちが増す。

 そして、ラファエルの合図とともに矢の雨が降る。



「レオノア」

「はい!」



 カイルに名前を呼ばれて、即座に結界を作る。少しは慣れたものの、レオノアはあまり結界が得意ではない。たまに貫通しそうになるそれをゲイリーが払う。

 その切れ間に煙幕を投げようとした。

 しかし、周囲に膨大な魔力を感じて背中に冷や汗が走る。



「殿下!」



 レオノアは咄嗟にカイルを飛竜の背に投げる。瞬間、大地が裂けてバランスを崩す。



「レオノア!」



 カイルの叫ぶ声が響く。

 レオノアは舌打ちをすると、自分一人を結界で包む。一瞬、ゲイリーと目が合うが追いつかないと察したのだろう。彼は唇を噛んで飛竜に飛び乗る。



「また後ほど!」



 それは、レオノアを信じているがゆえの言葉だろう。

 ゲイリーの言葉に肯いて、自分の身を守ることに集中する。


 山が割れて、落ちていくレオノアの姿を見たマリアは満足そうに微笑む。



「本当にしつこいこと。あの時に死んだと思っていたのに、ピンピンしているのだもの」



 現在、レオノアと呼ばれている女を殺す機会は二度あった。

 一度目は子どもの時。五歳の、貴族の女の子が一体どうやって生き延びたのかはわからないが、当時アマーリア・ハーバーと呼ばれていた彼女は平民として姿を隠した。

 二度目は三年以上前。平民レオノアとして姿を現した彼女をルーカスと共に始末しようとした。結局、レオノアは逃げたうえにエデルヴァード帝国の庇護下に入った。

 一度目も、二度目も。普通の人間なら死んでいるはずなのに、生き残った。マリアにはそれがなんとも気持ちが悪いように思えた。



(でも、さすがにこの高さから転がり落ちれば死んでくれるわよね?)



 結局、『アマーリア(悪役令嬢)』は『マリア(ヒロイン)』より下の人間なのだ。

 そう確信した彼女は可憐に微笑んで、ラファエルの腕に抱き着いた。



「さぁ、お家に帰りましょう?」



 そして、『乙女ゲーム』のように、ラファエルと共に邪竜を倒してハッピーエンドを迎える。

 マリアの目には、そんな輝かしい未来しか映ってはいなかった。



いつも読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ