15.錬金釜のおねだり
「ねぇ、ダメ……?」
サミュエルは真剣に頭を抱えていた。
目の前にいるのは、両手を組み、上目遣いで愛らしく自分を見つめるレオノア。
(君、どこでこんなあざとい手を覚えてきた……!?)
もちろん、異母妹である。
身の回りで常に繰り広げられている、マリアをめぐる攻防戦、そして彼らにプレゼントをねだる様子を見て、彼女は単純に「男の子って、ああいうのが好きなのかしら?」と思った。高位貴族のふるまいではないし、正直嫌いよりの女ではあるが、効果があるなら試してみたいと思ういたずら心も持っていた。
これが、「買ってほしいの」というお願いであれば、変な影響を受けるなと頭を一発叩いて終わりだったが、レオノアはあくまで「声かけと取り置きのお願い」をしていた。妙なところが真面目だった。
「わかった、わかったからその目をやめろ!!」
「ふふ、ありがとう」
髪を耳にかけ、満足そうに笑う姿を見て、どでかい溜息を吐きたくなったが、サミュエルは我慢した。なんだか少し、負けた気がした。
「よかったわ。誰にお願いをすればいいのか、悩んでいたの」
「俺でよかったよ、本当に……」
サミュエルは、そうでなくては異性に欲しいものを買わせる悪女が誕生する気がした。
ただでさえレオノアは自覚のない美少女だ。彼女のおねだりに負けて、「自分が買ってあげるよ」なんて言う男がいないとも限らない。
「本当に中古でいいのかい?」
「ええ。だって、高いものは手に入れるのに時間がかかってしまいそうだもの。それならば、中古品でもさっさと手に入れて薬なり鉱物なりを作って販売していた方がきっと新しいものを手に入れられるまでの道のりは短いわ」
レオノアはそう言って肩をすくめた。
それに納得したのか、サミュエルも「君がいいなら手配はするよ」と頷いた。
「けれど、私も戦えるスキルがほしかったわ」
「勘弁してくれ……」
レオノアはその方が手っ取り早く冒険者として大成するだろうな、という単純な考えで口に出した。けれど、サミュエルはそんなことになれば心配で胃が痛いだろう、と頭が痛いとでもいうようにこめかみをおさえた。
目の前にいる少女は外見に似合わずお転婆だ。見た目だけは生まれのせいか極上だというのに、平民として生きてきたからか大人しく実験室にこもるような性格ではなかった。
「君は一人なんだろう?あまり無茶をするものではないよ」
「あら、一人ではないわ?」
レオノアがそう言って首を傾げると、サミュエルは思わず「は?」と低い声を出した。
そして、彼女はくすくすと笑いながら「お友達ができたの。同い年の男の子がふたぁり」と答えた。
「何でよりにもよって異性!」
「不思議なことをいうのねぇ?あなただって男の子なのに」
レオノアの言葉に、彼は言葉を失った。
(確かに、なんで俺はそんなことを……いや、この子が危なっかしいからだ。絶対そうだ)
サミュエルは不服そうにレオノアの額にデコピンをした。「女の子の友達も作りなさい」と言ったサミュエルに、彼女は理不尽なことでも言われたかのような顔をした。
別に異性を狙って友人を作ったわけではなく、身の回りにいなかっただけである。最近近づいた同い年の女の子は異母妹だった。彼女とは友人になるつもりはない。学園の人は貴族しかいないため、話しかけることすらできない。
「冒険者活動で出会えたらね」
レオノアだって同性の友人は欲しいのだ。
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