23.デレクの呼び出し
カイルが出撃した翌日、レオノアはエデルヴァード帝国第一皇子であり、皇太子であるデレクに呼び出されていた。
「……クローヒ侯爵子息から話は聞いているな?」
「はい」
単刀直入に問われた言葉に、レオノアは素直に頷いた。そもそもレオノアはロンゴディア王国出身者だ。ここで信用を失えばどうなるかくらい、理解ができる。嘘を吐く理由もない。
「わが父が短慮を起こしてな。……カイルはレーヴェン公爵家に婿入りする予定だ。王家がまとめた縁談がダメになった結果のこと。今度こそ信用を失ってはならない。それに加え、カイルがいることでなんとかまとまっている能力が優秀であるのに引き立てるには問題がある者たちのことを甘く見過ぎている」
その言葉から、カイルに何かあっては困るのだと読み取ったレオノアは困った顔をした。これは、皇帝からの命令なのだ。レオノアたちでどうにかできることではなかった。
「進めていた計画にもカイルは必要だ。……私は以前からあの連中を受け入れるのは反対だと伝えていたのだがな」
表情は笑みを形作っているのに、どうにも圧が強い。
レオノアは「そんなこと言われても……」という気持ちではあるが、それを言ったところでこの圧がより強くなるだけだろうということは想像がつく。
(皇太子殿下でも、愚痴を言いたいことがあるでしょうし……)
レオノアはそんなことを考えたあと、少し疑問に感じる。では、どうしてここに自分が呼ばれたのかがわからない。愚痴くらいであれば、デレクの側近や妻にでも話せただろう。少なくとも、直臣でも側室でもないレオノアを呼びつける理由はないはずだ。
そこでレオノアはようやく「もしかして、何か面倒を申し付けられようとしているのでは?」ということに思いいたった。
「ところでレオノア」
「……はい」
もう嫌な予感しかしなかった。しかし、反抗するという選択肢は与えられていない。
「君の異母妹だそうだね。あの化け物は」
(あ。これダメかもしれないわ。いろいろ)
レオノアの立場とすれば純粋に被害者でしかないのだが、半分とはいえ血がつながっていることは事実である。それを持ち出してくる時点でろくなことを言われないだろうというのは想像がついた。
「何も、責任を取れと言っているわけではないよ?だが、君にも彼女と敵対する理由は十分あるんじゃないかな」
その言葉が出てくる時点で『責任を取れ』と言っているようなものではないか。レオノアはそう訝しんだ。
とはいえ、デレクがずっとロンゴディア王国の者たちを送り返すべきだと主張していたことを知っているので、血縁関係者にそう言ってしまう気持ちも理解できなくはなかった。
「敵対する理由も何も、すでに敵対しているつもりですが」
「そう。よかったよ」
そう言って、デレクはレオノアの顔を覗き込んだ。
「それで、君は我が父と私。どちらについてくれるかな」
(あ。これ追い落とそうとしているやつね)
妙なことに巻き込まれたとは思うものの、主を捨て駒のように扱っているように感じられる現皇帝に与するのも抵抗がある。
「カイル殿下……ひいては我々の職場環境を守ってくださるのならば、あなたに」
「……本当に天才を引き込むのが上手いやつだな」
デレクは苦笑しつつ、頷いた。
そして、レオノアは彼から任務を与えられてそれを渋々引き受けた。
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