22.襲撃
メリナの協力を得たレオノアたちは無事に武器の強化を終えることができた。
しかし、そうしている間に、ケイトリンの研究していた施設では大きな事件が起こっていた。
武器の引き渡しが終わり、次はロンゴディア王国という面倒事を片付けるための手段が話し合われるはずだった日に研究施設が襲撃を受けた。
そして、『聖剣』が奪い取られたのである。
「な、なんで奪われるんですか。そんな大切なもの……」
「奪われたくて奪われたわけがないだろう。幸いにも、お前たちの作ったものは効果を調べるために別の施設に送られていたので、一振りは無事だ」
「しかし、これでは」
「ああ。泣きついてきたのを受け入れてやった我が国のメンツが丸つぶれだ」
カイルは苛立たし気に机を叩く。
そして、その返答で奪い取った相手を察したレオノアは「……被害は」と震える声で口に出した。
「現場の警備を担当していた数十名の騎士、残っていた研究員が全員。そして、貴族子息一名だよ」
執務室の扉が開いてライアンが現れる。厳しい表情でゲイリーの隣に並ぶと、「手引きした犯人はバレット・ターナー侯爵子息と見られており、現場で事切れていたのが発見されています」と続けた。
「……姉上との婚約破棄後、幽閉されていたはずだが」
「夫人が『可哀想だ』と密かに身代わりをたて、連れ出していたようです。その後、街でマリア・ハーバーと密会していたことが令嬢数名から確認されています」
そして、その場で死んでいた者の全てが幸せそうな顔で自刃していた。その報告を聞いたレオノアたちはゾッとする。
「魅了、ですね」
レオノアがそう口に出すと、ライアンは頷いた。
「関わった全員が自死していることもあって、後を追うのに難航しているようです。サミュエルはデレク殿下によって招集され、逃走経路を割り出しに向かっています」
「……あいつがいれば魔犬軍団の指揮が容易に取れるからな」
カイルは納得しつつも、ライアンの表情の暗さに気が付いて溜息を吐いた。
「それで、私にも何か命令が?」
「はい。兵を率いて、彼らを追えとのことです」
「父上か」
苦虫を嚙み潰したような顔でカイルが呟く。
「兄上ならばそんな命令は出さないからな」
何度目かもわからない溜息を吐いてカイルは立ち上がる。ゲイリーは準備のためだろう。すでに背を向けて扉に向かう。
「レオノア。お前は宮に残れ。デレク兄上……皇太子殿下から何か連絡があるかもしれない」
「はい」
「ライアン、皇太子殿下とエリアス兄上に伝令を。もし何かあれば私も切り捨ててもらわなくては」
「殿下、それは……!」
「相手が相手だ。これがあってもあり得ない話ではないだろう」
カイルの懸念が『あり得ること』だと知っているからだろう。ライアンは押し黙った。
そして、深呼吸をすると「かしこまりました」と言って首を垂れる。
「「ご武運を」」
二人の言葉に、カイルは無言で背を向け、ひらひらと手を振った。
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