21.選べなかった気持ち
カイルにルーカスたちからの依頼の話をすると、彼は意外そうな顔でサミュエルを見た。
「……お前がレオノアと男が話していて嫉妬しないというのは珍しいな」
「俺の方がレオノアを愛しており、世界よりもレオノアを選ぶことができる稀有な人間であり、なおかつ彼女に愛されたただ一人の男なので、国と愛を秤にかけて愛を選べないやつらに負ける道理がありません」
「そ、そうか……」
ドン引きしたカイルはその後、皇帝と皇太子にも了承を得てルーカスたちに協力する許可を出した。
その代わりに、ルーカスたちは皇帝たちに呼び出され、取引を持ち掛けられていたが、それはカイルのあずかり知らぬ話である。カイルに彼らを守る理由はない。むしろ、有能な部下を取られる可能性があるのだから、ある程度の枷をつけられるならばそれにこしたことはないと考えている。
そうやって上司の許可を得たレオノアはメリナと共にアストラの武器と宝石のように輝く大きな魔石を見てはしゃいでいた。
「こんな面白そうな仕事を取ってくるんだから、あんたの友達になった甲斐があるってもんよ!」
「仕事内容で友人であるかないかを決めるのはやめていただきたいけれど……、楽しいと思えることが同じなのは友人としてとても良いことよね!」
「ちがいない!!」
鑑定をしながら使われている鉱石の種類などを割り出して「それならば材料は……」とアクセサリーを選ぶように素材を選ぶ二人を、サミュエルは微笑まし気に眺めていた。
「あまりわからない感覚だな……」
ルーカスがそう呟くと、ゲイリーが「とても愛らしく思いますが」と無表情で告げた。
当事者であるルーカスとウィリアム、そして同僚であるゲイリーはサミュエルも一緒にいるという条件下において研究室の立ち入りが許されていた。ルーカスはゲイリーの発言を聞きながら「サミュエルが警戒をするわけだ」と呟いた。
(私には選ぶことができない、『他の何よりも、レオノアを選ぶことができる人間』だ)
レオノアと再会したことでかつての恋心が消えていないことをルーカスは感じていた。しかし、サミュエルの隣に立つ彼女があまりに幸せそうで。
だから、だろう。
彼女が求めていたことを、ルーカスは思い知らされてしまった。
家族に愛されることはなく、求められることもなく、捨てられた彼女が『自分だけを愛する人』に惹かれてしまうのは納得するものがあった。
そして、それは国のために生きる使命を持って生まれてきた彼には選ぶことのできない選択肢だった。国を追われても、かつて愛した人々を諦められない彼には、選べないものだった。
(いっそ、全てを捨てることができたならば、彼女に愛を乞うこともできただろうに)
そんなことを考えて、ルーカスは苦笑した。
『もし』なんて考えても仕方がないということは嫌というほど知っている。
「こっちの大剣にはこれが合うはずだ」
「こちらの合金はどうかしら」
「おお!いいじゃないか!!」
ジッとレオノアを見つめるルーカスの肩を、ウィリアムは軽く叩く。
「自分の使命はわかっているよ」
「まぁ、お前だけが背負うことじゃないとは思ってるんだがな」
「だが、できるのは私だけだろう?」
皇帝の提案を受け入れた時に、ルーカスも選んだのだ。
だから、彼が気持ちを告げることは一生ないだろう。
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