20.戦いの準備3
ルーカスとウィリアムは、アストラ神とかかわりがあるとされるダンジョンを渡り歩き、そこにあるアストラの試練を突破してこの武器を手に入れた。しかし、このままでは邪竜と戦うにはまだ足りないと考えていた。
そこで、悩んだ結果、錬金術師であるレオノアに武器を預けることにした。
「例の件ってもうすぐ終わったかしら」
「ああ、もうすぐ引き渡しで彼女の手も空くはずだ」
レオノアたちが自主制作聖剣のことを思い返しながらスケジュールの調整を行う。侍女の仕事もしているし、学園にも通っているので意外とレオノアは多忙だ。レオノアが姿を消して、ロンゴディア王国の人間に『何かしている』ことを勘付かれることをカイルたちは警戒していた。なので、工夫をする必要があった。
「少し時間がかかるかもしれないわ。それに、カイル殿下……この国の許可も必要ね」
「わかった」
ルーカスが頷くのを確認して、レオノアは大体の期間と計画書を作り出した。
「これはメリナ……鍛冶師の子の予定にもよるけど、彼女はたぶん確保できると思う」
「自分の仕事に集中しすぎて、周囲と合わせて行動ができないからな」
「才能は抜きんでていると思うのだけれど」
「カイル殿下の周囲に多いタイプだ」
「じゃあ、勧誘してもうまくやれそうね」
メリナは平民出身で騎士団の武器を鍛造する部署に勤めている女性鍛冶師だ。
腕がいいので招集されたが、ケイトリンと合わずにプロジェクトを外された。しかし、レオノアに頼まれて、意気投合した結果、聖剣を創り出した。
ウキウキで「見ろ!できたぞ!!」とカイルの執務室に飛び込んで、ゲイリーにあわや斬られかけた女性でもある。
「それは……大丈夫なのか?」
「本当に腕はいいわよ」
そう、腕自体は本当にいい。
レオノアが自分のために引き抜こうと思っているくらいにいい。
「だいたい、問題があるのはレオノアも同じだ。気にすることじゃない」
そこで、「君も人のことを言えないんじゃないかな」と言わなかったルーカスは優しいかもしれない。
「欲しい素材があったら取ってきてもらうかもしれないわ」
「わかった。腕っぷしには自信があるぜ」
ウィリアムがニッと笑ってそう言うと「じゃあ、さしあたっては~」とメモにスラスラと欲しい素材を書き出して、二人の前に差し出した。
その材料を見た二人は一瞬ピシリと固まる。そして、パッとサミュエルを見ると彼は平然と「いつものことだろ」と告げた。
「おまっ……いつもこれに付き合ってるのか!?明らかに悪化してるじゃねぇか」
「これに付き合えないと、ゲイリーに好感度を奪われる」
「……それくらいで好感度が変わることはないのだけど」
レオノアは本気でそう思っているし、伝えているけれど、ゲイリーがまだレオノアのことを好きでいることをサミュエルは嫌というほど知っているので警戒したままだ。
「それより、悪化って何かしら」
「前から薬の材料とか探すとき、目の色変わってただろうが!」
「そんなことはないわ。普通よ」
レオノアはそう言うが、彼女が薬草を選別するときは声をかけてはいけないと言われていたことを知っているルーカスとウィリアムは納得のいかない顔をしていた。
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