18.戦いの準備1
レオノアは個人の興味を優先することを許された。その方が、成果が大きいだろうと判断されたのだ。ある意味、今まで成果を出してきた結果といえるだろう。
結果的に聖魔法を付与した金属が何種類かできた。そこから剣に相応しい金属がどれかを鍛冶師と話し合い、その強度が足りなければまた作り直した。結果的に二週間後に剣を打つに足る金属が完成した。
「楽しかったー」
「そうか……」
満面の笑みを浮かべるレオノアの前にいるカイルは少し疲れた顔だ。実際に新しい方法で金属を作り上げてしまった彼女と、たまたまケイトリンと合わずにプロジェクトを外された鍛冶師が意気投合してケイトリンが研究していた以上のものを作り出そうとしている。
「……実際に作れてしまいそうだからなぁ」
積極的に彼女に協力する実家の太い男たちの協力もあった。
それはそれとして、中身が厄介な人間がどうしてこうも優秀なのか。カイルはそんなことを思いながらレオノアたちの聖剣の完成が近いことを感じていた。
ケイトリンたちの再現したものはすでに国民たち向けにどう発表するか、誰に持たせるかを上部で話し合いをしている最中である。
レオノアたちの聖剣に関してはカイルに一任されてしまっており、「ゲイリーに渡しておくか」とすでに行き先が決まっている。
「そういえば、おまえたちの仲間から手紙が来ているぞ」
「よくカイル殿下まで届きましたね」
「……まぁ、ルーカス王子の印が付いていれば、話を聞く価値はあるかもしれないと考えてしまうものではないか?」
それは、レオノアたちの話を聞いて、信じてくれているカイルだからの言葉だろう。少なくとも、他の皇族や貴族でそう考えられる人間が何人いるか。
「とりあえず、冒険者として名を上げているようだな。他国でAランクにまで上り詰めた心意気はかうべきではないか?まぁ、そんな彼らでも、さすがに母国の現王太子がこの国にいることは想定外なようだが」
「早く返せないのですか?」
「迷惑ですよねぇ……」
本気で嫌そうな表情のゲイリーとレオノアに「交渉は続けているらしいのだがな」とカイルは溜息を吐いた。
「マリア・ハーバーの能力が厄介過ぎる。全力で魅了の力を振りまかれて手が出せない状況だ。交渉を任せている者たちにも魔道具は渡しているが、それでも一瞬意識を奪いそうになる程度には彼女の力が強い。あれで、ロンゴディア王国にいたときよりも能力が抑えられているというのだから恐ろしい」
「殺そうとしても、彼女に魅せられた者たちが文字通り命懸けで庇いますしね」
「みんな、笑顔で死んでいくのでしたか?気持ちが悪い」
カイルたちだって、問題を起こし、国を混乱させかねない彼女をさっさと始末してしまいたかった。しかし、どうにも上手くいかない。
「国力の差は明らかだ。さっさと潰してしまうに越したことはない。そうは思うが」
「まぁ、それができるならば苦労はしていませんよねぇ」
マリアやラファエル、そしてかの国を守る者たちには何か得体のしれない強化が加わっている。それがあるからこそ、彼らの命は今も守られている。これを女神の加護というのならばそうかもしれない。ロンゴディア王国は女神アウローラを信仰している。彼女の力が多くに影響してもおかしくはないだろう。
「アストラ神を信じ、我々の戦う準備を、粛々とすすめるしかないな」
神との約束を思い出した三人は、カイルの言葉に肯いた。
ロンゴディア王国の魔物の数は日々増え続けていると聞く。戦いのときが近付いているのだろうと、皆が理解していた。
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