17.好奇心
カイルへの報告を行い、ケイトリンに材料を届けたレオノアは、自室に戻って研究してきたノートや資料を机の上に重ね始めた。
聖剣作りにアリシアが関わっていたという情報から、錬金術師にも何かできることがあるのだ。集められた材料で、どれくらい効力が引き出せるのか。それを計算しなければ。
そんな彼女の瞳は好奇心で輝き、唇は弧を描いていた。
すでに女神の力に関する興味から、マリアの魅了を防ぐ魔道具開発の傍らで邪竜を封じるにあたって、彼女の魔力と通常の魔力の違いについて解析はしている。
確かに、マリアには他の人間とは違う質の魔力を持っていた。
(魔物の力を抑える効果が、彼女の魔力にはある……)
現在、魅了に全振りされている彼女の能力だが、邪竜の力を封じる方が本来の力なのかもしれない。
レオノアにしてみれば少し羨ましくもある能力だ。魔物の力が弱まれば、その分、錬金術に使う材料を集めるのが楽になるだろう。
光系統の魔法に使う魔力も同じような効力はあるが、マリアの魔力はその比ではない。
レオノアはその魔法を仮として『聖魔法』としている。聖なる魔法、というよりも『聖女』の魔法という意味で。
その力を扱うのが聖剣であるとすれば、先祖であるアリシアはどうやってあの材料でそれができるとわかったのだろうか。
かつてよりも知識が手に入りやすい世であるはずなのに、レオノアは物語で聞くアリシアという錬金術師の成果に底知れないものを感じてしまう。
「……負けてはいられないわねぇ」
聖魔法と、それを利用した剣。
興味は尽きることがない。
どうせ作るのであれば、アリシアを越えるものを作ってみたい。
レオノアの顔には笑みが浮かんでいた。
「そうなれば、さっそく」
レオノアは鼻歌混じりにすべての資料の見返しを始めた。ケイトリンの解読した古書以外でも他にも役に立ちそうな記述、新しく見つかった素材、知識をピックアップしていく。
別に、彼女に全てを知らせなくてもいいだろう。そんな考えが脳裏をよぎったが、少しだけ立ち止まる。
「よく考えれば、そういうことを面倒くさがって知らせなかった時のサミュエルやカイル殿下って怖いのよね」
うっかり研究に夢中になって知らせるのが遅れたときなど、名前を呼ばれた瞬間に思わず正座してしまうほどである。レオノアは意外と規則正しい生活をしているから余計にバレにくい。なので、見つけるのが遅くなると根回しが間に合わない。
「仕方ないわねぇ」
レオノアは。サラサラと手紙を書いて、それを乾かした。
窓を開いて、指を動かし夜空色の小鳥を招く。
「可愛い小鳥さん。サミュエルに手紙を書くから、届けてくださる?」
レオノアの言葉に応えるように、小鳥は一つ返事をする。小鳥の足に手紙を巻き付けると、それが飛んでいくのを見送った。
そして、何かを思い出したのか研究ノートを数冊抜き取って、空間魔法の中からいくつかの素材を取り出すと鑑定をしながら選別をしていく。
いくつかの鉱石を取り出して、素材と一緒に箱に入れてから再び空間魔法内に戻した。
「そういえば、もう遅いから寝ないといけないわ」
健康的な生活に慣れ切ったレオノアはすでに眠かった。あくびをして、目を擦る。すでに集中力も切れているので素直に寝た。
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