表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/161

14.マリアとの邂逅


 サミュエルに会いに行くのは今度で良いだろう、とレオノアは図書室に来ていた。授業の質問とその返答をノートにまとめる。紙が普通に手に入る世界でよかった、とレオノアは頭の片隅で考える。

 図書室でゆっくりと過ごす時間が、レオノアは嫌いではなかった。

 本の匂いと、静かな部屋。ページをめくる音が耳を打つ。



(平和だ……ずっとこうならいいのだけれど)



 魔法の発達によって作られた筆記具もファンタジーだからなのか、乙女ゲームの世界であるからか、前世と同じくインクが早く乾く。前世の記憶があるレオノアからしてもストレスが少ない。

 そうして、勉強をしていると騒がしい連中が図書室に踏み入ってきた。レオノアは思わず、苛立った。けれど、それを悟られないように視線を本に落とす。


 その集団の中心にいたのはマリア・ハーバーだった。

 美しくきらめくような淡い桃色の髪がうっすらと見える。周囲を囲む少年たちは皆、恍惚とした表情をしていた。



(……あら、はしたない)



 我先に寵を得ようと一人の少女に、必死に話しかける。

 ハーレム、というのだろうか。その光景はどうにも不快だ。

 どうしようか、と考えてそれから彼らを視界に入れずに勉強を続けることにした。どうせ彼らはレオノアに興味がない。集中すればあまり気にならないだろうと教科書の文字を指で辿る。



「あら、先客がいたのね?」



 おっとりとした言葉が頭上から降り注ぐ。ゆっくりと顔を上げると、愛らしく「ふふ」と声を漏らす。その姿は愛らしいが、レオノアはなぜか非常に不快に感じた。胸がザワザワする感覚に不安な気分になる。



「私に何か御用でしょうか?ハーバー侯爵令嬢様」

「そういうわけではないのよ。必死に努力する姿が可愛いなと思っただけ」



 悪意は感じない。なのに、冷や汗が止まらない。

 恐怖すら感じた。



(目の前にいるのは、ただのお嬢様……のはずなのに)



 戸惑うように視線を彷徨わせる。すると、彼女はレオノアの頬を両手で包んで「ふふ、きれいな瞳ね」とまっすぐに視線を合わせる。



「何をしている」



 厳しい声が聞こえて、マリアが動きを止める。不快そうに声の方を向くと、群青の髪の少年がいた。その瞳は美しい蒼。鋭い瞳で睨みつける彼を、マリアの周囲にいる少年たちは「アスールくん、そう睨むことはないだろう」と彼女を守るように間に立った。



「こんな場所で騒がしくしているのが悪いのでは……?遊びに来たのならば早々に立ち去れ」

「ひどいわ。わたくし、何をしたわけでもないのに」

「何もしないから悪いのだ。せめて、周囲のけたたましい取り巻きを注意していれば言うことはないが」



 言葉の端から嫌悪感がにじみ出ている。レオノアは素直に「巻き込まないでほしい……」と思った。


 しばらく睨みあったのち、マリアは「あなたと言い合っても楽しくもなんともないわ」と吐き捨てて、取り巻きと一緒に去っていった。



「君、あの女に目を付けられないように振る舞った方が賢いぞ」



 アスール伯爵令息ウィリアムはそう言って背中を向ける。



(ウィルの声にそっくり)



 助けてくれたのだろうか、と首を傾げて、それからゆっくりと左右に首を振る。

 そもそも、目を付けられるような動きなんてしていないのだ。なんとも言えない。



(やっぱり、貴族じゃなくなってよかったのかもしれないわ。面倒だし、私には向いていない)



 なんだか無性に、癒しがほしかった。長期休暇を待たず、早く家族に会いたくなったレオノアだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ