12.強き者
レオノアたちは妖精たちが詰めてくれた鱗粉をありがたく受け取り、次の階層に異動した。
その瞬間、白いドラゴンが侵入者であるレオノアたちを見つけて、火を吹いてくる。レオノアはそれに対し結界を作って炎を防ぐ。すると、ゲイリーは空間魔法内から剣を取り出して鞘から剣を抜いた。
「レオノア嬢。あれはよいもので相違ないですか?」
「はい。斬ってよいものです」
レオノアに確認を取ると、彼は地を蹴り、一瞬でその首を捕らえた。その鮮やかな手腕には、驚きを禁じ得ない。風が鳴るような音と共に、コロリと首が落ちると、ゲイリーは剣に着いた血を薙ぎ払い、胴体を転がした。
「さて、早く素材を採取してしまいましょう」
周囲から他の魔物の気配も感じるが、今の戦闘がよほど恐ろしかったのか息を潜めている。
魔物にすら恐れられる同僚を見ながら、レオノアとサミュエルは少しばかり複雑な顔をしていた。前の階層では活躍の機会がなく、暇を持て余していたのだろう。イキイキしている。しかし、そのドラゴンも乱獲されては困る存在なので、一匹で収めてほしい二人だった。
「ゲイリー、もうこれ以上、この階層で剣を使うのは禁止な」
「全滅させそうで怖い」
「さすがにそんな真似は……」
ゲイリーは苦笑しているけれど、二人にはゲイリーがやりかねないという確信があった。襲い掛かられたら終わり。それも、レオノアに向かってきたら加減なしで全てを血の海に沈めるだろう。
「私、念のために気配を消す魔道具を起動させておくわ」
「そうしてくれ」
対人間での前科があるだけに、二人はそんな判断をした。
そして、三人で粛々と解体を済ませると、それをサミュエルの空間魔法内にしまい、次の階層に進むための階段を探すために歩き出した。
本当に、一切の魔物が顔を出さないあたり、よほどゲイリーが恐ろしかったのだろう。
「おかしいですね。聞いた話では、ここのトカ……ドラゴンたちは自分たちがあまり減らされては生態系が狂うと理解しているために人間を見ると襲い掛かってくると事前資料で見たのですが」
「そんなものが関係ないとばかりに剣を振るいそうなやつが来たせいだろう」
「俺もそこまで見境がない人間ではないのですが」
「あの戦闘を見れば、大抵のものは生物としての強さの差を思い知らされるというものですよ」
レオノアの言葉に、ゲイリーは「そういうものでしょうか」と少し納得のいかない顔をしている。強い魔物と戦うことができると考えていたために、消化不良的な気持ちだった。
「魔物があなたの相手をするのであれば、それこそ邪竜ファフニールなど伝説に残るものでなければいけないのではない?」
「ああ、戦えるとすれば実は少し楽しみなのです」
そういって微笑みかけるゲイリーにレオノアたちは少し引いていた。
そんなことを言う人間なんて、ゲイリーくらいのものである。
「次の階層は人魚でしたか。一匹捕まえて痛めつければ涙も流すでしょう」
「おまえには人の心がないのか」
半分人型の魔物に対しては、多くの冒険者がやりにくさを感じるものだ。それなのにゲイリーはそんな提案をしてきた。それに対するサミュエルの言葉にゲイリーは首を傾げた。
相手は魔物だ。辺境の地では、凶暴な魔物が多くの人の命を奪うことだってある。それを殺すことは彼にとって日常の一部でしかない。その姿がどんなものであろうとも。
感覚の差はある程度、育った環境の違いが出ているのだろう。
「そもそも、このダンジョンの魔物はホワイトドラゴン以外のほとんどが力か知恵を示すだけで素材をくれるのだけれど」
「示せずにいれば、すぐに命を奪いに来る連中でもあるけどな」
「少なくとも、武力を示すことだけは簡単だ」
確かにゲイリーがいるだけで武力は示すことができるだろう。
レオノアとサミュエルは同時にそう思った。
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