8.伝説の武器?
無作法にも宮殿の前で婚約破棄を叫ぶバレット・ターナーは第二皇子エリアスの連れて行った人間によって馬車に押し込まれ、強制送還された。
ケイトリンはその後、会議にて今の彼の様子を全て話し、また、ケイトリンについていた影の者もそれを肯定した。
そのことで、バレット有責での婚約破棄が認められることとなった。
「ついでに、侯爵家の継承権も剥奪され、領地に閉じ込められることとなったようだ。あと数年で病死するんじゃないか?」
カイルが肘をつきながら呆れたように言う。
皇女にどのような対応をしてきたか、どんな状況で婚約破棄を叫んだか、普段の行いはどういったものであったか。
それらすべてを知った侯爵家は頭を抱えた。彼らはバレットに対し、本当にきちんと教育を施したし、国に対して叛意があったわけではない。少し考えは足りないところがあるかもしれないが、それは周囲が補うことのできる範囲だと考えていた。ところが、こんなことをやらかしたのだ。それはもう酷い憔悴具合であったらしい。
即座に息子を切り捨てる判断ができたのはまだマシだっただろう。家がなくなることだけは避けることができた。とはいえ、このままお咎めなし、というわけにもいかないだろう。
結果的に、弟の息子の一人を養子とすることになった。
「姉上の嫁ぎ先を探すことにはなりそうだが、ターナー侯爵家はあんな愚物を跡取りにせずにすんでよかったかもしれぬな」
「そのままスライドはできなかったのですか?」
「まだ五歳の子ども故な」
カイルはレオノアの疑問に答えると、苦笑しながら「本人は歴史書や伝説の武器を調べられるのを喜んでいるが」と続ける。
「伝説の武器、ですか?」
「そうだ」
かつて、邪竜と戦う際にこの国の勇士が持っていたと言われる剣がある。
それを、この国で信仰されているアストラ教では『聖剣』と呼ぶ。
魔を打ち、祓う剣。
それがあれば、復活も間近だという邪竜を今度こそ滅ぼすこともできるだろう。
扱う人間に関しても、エデルヴァード帝国には天才と言われるゲイリー・オルコットがいる。二つが合わさり、邪竜を滅ぼした後でならば、その力を弱める『聖女』は不要であろう。
「女神に愛された女であろうと、そんなものは知らん。害にしかなっていない。大体、わが国では女神アウローラを信仰してはいないしな」
「しかし、そんなものが本当に存在するのですか?」
ゲイリーが疑うようにそう問うと、「なければ作ればいいだろう」とカイルは肩を竦めた。
「それに、存在するかどうかの話を始めるとあのマリアもそうだが、レオノアやサミュエルたち、六色の魔法使いの存在だって今までは眉唾物でしかなかっただろう」
多くの人たちより強い魔力と才能を持っていたがために迫害され、自分たちで国を建てた魔法使いたち。その存在が同列になるのか、とレオノアは苦笑する。
その彼らが、再び国を追われたというのだから笑いごとでも何でもないが。
金と蒼は行方不明。
赤と黒はこのエデルヴァード帝国。
碧は隣国、緑豊かなベルデ王国。
橙はベルデ王国を越えた先、砂漠の国オランチア。
ロンゴディア王国に残ったのは、邪竜の力を弱めるとされる聖女だけで、戦う手段はない。
「私たちがいたところで、解決できたかはわかりませんが……。今が異常なのは確かでしょう」
幸いにも、マリア・ハーバーは婚約者である男とほぼずっと一緒にいる。彼女たちが要らぬこと考えぬうちに物事を解決できればそれに越したことはないのだ。
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