5.成果が大きければ
見送られた二人は「めんどくさいな」という顔で研究室に入って行った。こうなったヒュースの話は長いことが多い。それでも、一旦聞こうという姿勢になっているのは彼の話はためになることが多いからである。
瓶を二人の目の前に置くと、楽しそうにしているヒュース。
レオノアが改良した上級身体回復ポーションを更に改良したということで、さすがに気になったのだろう。レオノアは瓶を持ち上げて軽く振る。
「ああ……『クラリッサに捧げる真実の愛』の白ね」
「なんだ、それは」
「数代前のオルコット辺境伯がバラを愛する妻のために品種改良した花よ。非常に枯れにくい花で、去年調べた時に、光属性の魔力を多く含むことがわかっていたけれど」
「そうだ。枯れにくくするために、何と掛け合わせたのかはわからないが、その光属性の魔力に着目した」
元々、光属性の魔力というのは結界術・癒しの魔法と相性が良い。それがポーションに良い影響を与えたのだろう。
「あまり魔力の種類に着目したことはなかったけれど」
「そもそも、君自身が火の力が強いようだしな。なかなかだったよ、あの岩石粉砕爆弾は」
魔導蒸気機関車を走らせるために、レールを引こうとしていた道の一部に地盤が固くて大変な場所があった。それを通すためにレオノアは爆弾を作り、使用した。
なお、レオノアには知らされていないが、兵器としての使用も検討されている。
「うれしくないわ」
溜息を吐くと、サミュエルに「あれ、結局カイル殿下が管理をしているのよね?」と尋ねる。
「いや、確かそこから皇太子殿下の管理下に移ったはずだ。危険性の高いものを自分が持っていても謀反を疑われる可能性があると考えたのだろう」
レオノアは火力を思い出して、少し嫌そうな顔をする。
途中から火力を落とすために努力を重ねたそれは、それでも皇太子に危険視された。火力を落としたからこその使い道があることを、彼女はまだ気付いていない。
「それで、この上級身体回復ポーションなのだが、失った四肢程度ならば治せることが判明した」
「……効果が本当に上がったな」
「うん。だから、困っている」
カイルには一応報告しているが、やはり効果が高すぎるものは疑いを招くものだ。
「迷惑をかけるのは本意ではないのだが」
「……けれど、材料が手に入りづらいものなのだから、あまり問題視されないかもしれないわ」
「まぁ、確かにあのバラはオルコット辺境伯領以外では育てるのが難しい」
「この宮で少量でも咲いているのは、ロイ爺様の腕があってこそだからな」
サミュエルは、庭師の師である人物の名前を出すと「俺には無理だけどな」と呟く。「早く引退をしたいもんじゃがなぁ」なんて言っているロイだが、一方で「まぁ、小僧がワシよりも上手く植物を育てられるようになってからじゃな!」とも言っている。引退はまだまだ遠そうである。
「レオノアの近くにいるためだけに庭師として潜り込んだそうだが、なかなかうまくやっているな」
「……俺もそう思う」
真面目に、言われたことをきっちりこなすサミュエルはロイに気に入られていた。理由なんて、仕事ができればどうでもいいとばかりにあれこれ仕込まれている。
「ロイさんも、殿下の婿入りの際に一緒に来そうよね」
「あの人も大概個性的だからな」
「というか、僕も含めて、紅玉宮にいる者のほとんどはあちこちで持ち余された者たちだ。今更、よそで普通に働けるなんて誰も思ってないだろうな」
ヒュースの言葉に、二人も頷くほかなかった。
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