表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/161

4.理想の職場


 面倒事が増えてしまった学園の時間を終えて紅玉宮に戻ると、珍しい人物が興奮した顔でレオノアたちを待っていた。



「待っていたぞ、レオノア!見てくれ!君が以前完成させたポーションを改造して、新しい上級身体回復ポーションを作成したんだ。まずは効果を……」



 ウキウキで説明を始めようとするのはこの宮で雇われている医師のヒュース・スペルビアだ。以前、ケイトリン第一皇女にソフィアの身体を治す薬を作るよう依頼された際に知り合った人物だ。優秀で、真面目な医師ではあったものの、あまり周囲と打ち解けることが得意ではなかったが、レオノアの勧めでカイルが自分の宮に雇い入れた。

 そんな彼だが、煩わしい宮中医師たちと距離を置いて研究に集中できるようになったことから、いくつかの薬を生み出し、医療についての論文を発表しそれが評価されるなどここでの生活をエンジョイしていた。「初めからここに来るべきだった」と言っているくらいだ。

 何しろ、紅玉宮にはレオノアが錬金術で作った薬剤や便利な魔道具があり、サミュエルがレオノアのために用意した多くの薬草が揃っている。

 カイルは国の役に立つ研究になら金は惜しまない。

 ヒュースはその環境に感謝して忠実に働いた。結果的にゼロル風邪や魔力欠乏症の薬も開発されてエデルヴァード帝国のためになっている。



「ヒュース」

「はい」



 説明を早口で始めようとしていたヒュースだったが、カイルに名前を呼ばれると姿勢を正した。

 今の環境を絶対に手放したくないヒュースは、カイルには絶対服従していた。ケイトリンになめた口を叩いていた人物と同じだと思えない態度である。



「必要時以外、薬剤を研究室外に持ち出すな」

「あ、自慢と早口説明はいいんですね」

「他者の害にはならないしな」



 個性的な部下たちに慣れているカイルは、レオノアに対して若干不服そうに答えた。

 真面目に、人の役に立つものを作っている以上、ある程度はいいかと考えているため、カイルは寛容だ。それに、結果的に説明を聞くのもレオノアとサミュエルなのでカイルにとってはそこまで大変でもない。



「レオノアたちのせいで我が宮の使用人たちは口が堅い者しかいないとはいえ、正直なところ、そういう話はしっかりと防音魔法のかかった部屋でしてほしいとは思っているが」

「……すみません。興奮のあまり」

「よい。上級身体回復ポーションがより良いものになれば、兵などの死者が減るだろう。民が死なずに済むのは良いことだ」



 カイルの言葉を聞いて、ヒュースはそっとレオノアやゲイリーに視線を送ると、頷きあった。

 結局のところ、カイルのこうした姿勢が全員好きだからこそ、ずっと彼の部下でいるのである。



「殿下、結婚してもなんとか雇ってくださいね」

「は?いや、ついて来るだろう、ゲイリー以外は。私ほどお前たちに都合のいい上司もいないだろう?」

「……?家督は相談の結果、弟が継ぐことになりそうなので俺もついていけますが」

「兄上が頭を抱えていそうだ」



 ゲイリーがサラッと言った言葉に、カイルは遠い目をした。しかし、どう考えてもゲイリーは人の言うことを聞かない。才能を引き継ぐ男子が必要などと言われて婚姻したところで、碌なことにならないのは察せられる。絶対に、白い結婚になる。カイルにはその光景が目に浮かぶようだった。ゲイリーはレオノア以外を女だとも思っていないだろう。

現オルコット辺境伯よりもゲイリーの方が厄介な性格をしていることを考えても、真面目で人当たりがよく、ほどほどに策略も弄せる彼の弟が辺境伯となった方が平和ではあるかもしれない。



「これでよかったのですよ。俺には向いていませんでした」



 本心でそう考えているのだろう。すっきりとした表情であった。

 ゲイリー個人としては、恋愛に夢中になって、愛しい一人以外がどうでもいいと考えている人間が爵位を継ぐべきではないと考えていたので、むしろ弟には感謝しているくらいだ。



「それよりも、レオノアもサミュエルも話を聞いてくれ。材料の選定から付き合ってもらったからな。説明を全て余すところなく聞いてほしい」



 ヒュースは二人の腕をつかむと、カイルに礼を取って研究室に引っ張って行った。

 それを見送りながら、カイルとゲイリーは手を振っていた。



いつも読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ