13.錬金術師への道のり
レオノアは学園の休みの日、依頼で採ったものとは別に置いておいた薬草を植えていた。彼女は非常に優秀な魔法使いだけれど、その本来の才能は錬金術師だ。そして、村に住む薬師に習って簡単な薬学も習っていた。
学園が始まってからは学園の図書室にある本で錬金術を学び、冒険者活動で資金を集めると同時に実践のための素材集めも行っていた。
(錬金術のスキルがあるとわかったら、試してみたくなるもの……よね!)
スキルがあるからといって、努力を怠れば何も得られるものはない。ただ「初級の薬が作れる……かも?」という程度の実力しかなくなってしまう。何事も勉強が必要なのだ。
極めれば薬だけでなく、特殊合金、武器、果ては黄金までも作れるなんて言われているが、初めからそれらすべての知恵、技術があるわけではない。
問題は、平民が得られる知識には限りがあるということだろうか。
「それでも、田舎でのんびり薬師として暮らす分には支障ないものね」
残念には思うけれど、あまり多くを求めすぎても良くないだろうと思いなおす。この学園に通うことができている時点で普通の平民よりは恵まれている。身の程、というものはあるだろう。
そして、もう一つ残念に思うのは、錬金釜の入手が難しい点である。錬金術師というのは、錬金釜をオーダーメイドで作るものらしい。中古品なんてめったに出回ることがなく、中古品を手に入れたとしても、オーダーメイド品を使う方が品質のいいものができる。
(錬金術って、お金がかかるのねぇ)
頬に手を当てて、溜息を吐く。
レオノアは本のページをめくりながら、錬金釜が必要ない薬を探す。錬金術でわざわざ作る必要はないかもしれないが、ないものねだりはよくない。
「そういえば、サミュエルに頼めば中古品が手に入ったときに声をかけてもらえるかしら?」
中古品があまり出回らないのは、錬金術師自身が『売れない』ことを知っているからだ。誰が効果の落ちる他人用にカスタマイズされた錬金釜を買うというのだろう。
だが、そう考えるのは多くの錬金術師が貴族出身であるからだ。レオノアには全くそのあたりのこだわりがなかった。自分用の錬金釜なんて、お金がたまってからで構わないのだ。
とりあえず、初級ポーションから作ろうと、工程を指でなぞる。
初級の身体回復ポーション、魔力回復ポーションならば今持っている材料でなんとかなりそうだった。それはイコール、錬金術師でなくても作ることができる代物であるということだ。けれど、十分だ。できることから初めて、金を稼ぐ。それが何よりの近道である。そして、リスクが少ない方法だ。
人によっては、身体を使ったもっと簡単に金銭を得る方法もあるだろう。けれど、レオノアはその手段を取ることを選ばなかった。長期的に考えた際にそれで病や子を得ることで人生設計が狂うことを危惧した。何より、その方法を取れば両親が悲しむであろうことを彼女はよく知っていた。
「えーっと……風鳴き草とセレニ草を細かく刻み……」
本を見ながら下準備を行い、鍋を火にかける。
グラグラと煮立った湯の中にすり潰した材料を入れる。かき混ぜていた杓子につたわせるように魔力を湯に注ぐ。すると、一瞬で鮮やかなライトグリーンへと色を変えた。それと同時に火を消す。
ゆっくりと冷ましたそれを瓶の中に移し終わったころには、日が落ち始めていた。
薬草の香りが充満する部屋の窓を開く。下を覗けば、不機嫌そうな女の姿が見えた。
「便利ねぇ、この魔導コンロというものは」
魔導コンロはシュバルツ商会で現在売り出し中の魔道具らしい。レオノアの前世の知識はそれをカセットコンロだと言っている。魔物や一定の鉱山から採れる火の魔石を使った装置は全てを一つの部屋で済ませるのにちょうどよかった。プチ研究室のようなものだ。
元々、冒険者の多くがダンジョンや野外で活動するときに少しでも楽になるようにと作られた品である。それをFランクからEランクに上がった祝いにと配っているのだからシュバルツ商会は気前がいい。新人冒険者のランクアップに対する祝い品はその年の商会によってまちまちだが、今年は大当たりであったと考えていいだろう。
その機能を羨んだ上のランクの冒険者が買いに来ることも見越して用意しているらしい。サミュエルは「元はとれているんだよ」と笑っていた。
あの話し合いの後もサミュエルとは連絡を取っていた。彼は『魔物使い』であるらしい。大きな黒い犬に乗って移動している姿は存外かわいらしかった。
読んでいただき、ありがとうございます。