3.ある種の因果応報
レオノアにはあまり自覚がないが、彼女は多くの女性から支持を集めていた。
美容アイテムを作る天才として。
レオノアには美容品に関心がない。だが、サミュエルの義姉カロリーナや、当時結婚が近かったアメリアのお願いでバージョンアップを重ねた結果、高品質になっていった。それを販売した結果、名が売れた。
そして、援助ですら役に立たないと知ったレオノアの伯父はちょっと泣いた。
移動手段におけるものは国の事業となったことで、レオノアの存在は覆い隠され、彼女の名前は有識者の間でしか出ることがない。
カイルの思惑は一先ず、成功したと考えていいだろう。
サミュエルは魔羊の家畜化に携わらされ、成功。
彼は彼でまた、畜産関連で名を上げていた。
魔馬の生産などもさせられて、これも成功しており、現在爵位を押し付けられる予定となっている。
先日、サミュエルの兄であるサルバトーレも爵位を得ており、「まぁ、貴族向けにも商売をするならば、自分も爵位を持っていた方がやりやすいしね」とにっこり笑っていた。それを見ながら、サミュエルは「兄さんだけで良いと思うんだけどな」と遠い目をしていた。
だからこそ、学園内で皇族と共にあっても、それが当然だというように受け入れられる。その席は、彼らが文字通り実力で勝ち得たものだと誰もが理解している。
「最近、うちの馬を譲れとうるさいやつらが増えたな……。なんでロンゴディアに売らないといけないんだ。絶対嫌だ」
そして、有名になったからこそ避けられぬものもあった。
最新の美容品を渡せと言われることもしばしばあるレオノアも苦笑している。
「それって魔馬?エデルヴァードの軍にしか卸していないのを知らないのかしら」
「いや、知ってはいるようだった。そのうえで、元々はロンゴディア王国民なのだから、このくらい当然だと考えているようだった。バカバカしい。俺たちを殺しにかかってきたのはそちらだろうに」
サミュエルは苛立ったようにそう言って、溜息を吐いた。
レオノアとしても、どこまでも傲慢な言い分に少し腹が立つ気持ちはわかる。稀にあるカイルの側を離れる時間を狙ってやってくるあたり、機を伺っているのがわかるのも嫌な点だろう。
そんな二人の話を聞きながら、カイルが「私に断りなく、直属の部下と取引をしようとしている件が不快だと使いを出しておくか?」と声に出した。
「あの女からの使いも来ているだろう?釘をさしておくべきだと思うぞ」
「カイル殿下……。そうですね、お願いできますか?」
サミュエルは、少し迷うように視線をさまよわせたあと、レオノアの方にもマリアの使いが来ていることを知っていたため頷いた。
マリアはこの国に来てから、数多くある美容品と魔羊から採れる糸で作られた美しいドレスの虜になっていた。しかし、ロンゴディア王国はシュヴァルツ商会から多くのものを無理やりに取り上げたことから、まるで相手にされていなかった。いざとなれば盗人のように奪いにくると知っているから、多くの人を介してしかそこで取り扱う商品を手に入れることができないという状態になっていた。
だからこそ、直接レオノアやサミュエルと繋がりを持とうとしていたのだが、それは悪手でしかない。
「奴らも、自分たちが消そうとした者たちがこれほどまでに優秀だとは思わなかっただろうな」
カイルがクク、と笑う。
彼らは己の行いが、己に返ってきているなんて考えてすらいない。
「正直なところ、魔馬はともかく、他のものに関しては、自国のためになることを考えて動くべきだと思うのだけれど」
レオノアは呆れたようにそんなことを言う。
もう少しで邪竜に滅ぼされるかもしれないのだから、もっと別のことに必死になるべきだと思ってしまうのは仕方のない話だろう。
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