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2.こんなはずでは


 他国の王太子とその婚約者がやってくるというだけあって、学園の雰囲気は少しピリピリとしている。

 警戒している者、お近づきになれると思って浮ついている者など様々だ。もっとも、後者の人間たちをカイルたちが重用することはないだろう。他国に渡るのも手かもしれない。



「……一応は対策をするようにと周知しているのだがな」

「魔道具も国が買い上げ、配ったと聞いていますが」

「愚か者には薬はないということでしょう」



 ゲイリーの言葉に、カイルとサミュエルは何とも言えない顔をした。

 しれっと「愚か者」なんて言ったゲイリーの目線の先には第一皇女ケイトリンの婚約者の姿があった。

 公爵家の一人息子である男はマリアの隣に侍り、鼻の下を伸ばしている。最近では、元々そこまで仲が良くなかったケイトリンと、険悪な様子も見られている。



「アレはどうにかしないのですか?」

「どうにかすることも含めて、姉上に全てが委ねられている。私にできることはない」



 これは、別に姉弟間で諍いがあるというわけではなく、皇女としてどうふるまうかを見られているということだろう。手を出すことで、逆に足を引っ張ることになるだろうと察しての判断だった。

 実際、ケイトリンも決定的な『何か』を婚約者である男がしでかすのを待っているだけだ。助けてもらおうなんて、少しも考えてはいない。



「ケイトリン殿下でしたら、心配せずともよいかと思います。カイル殿下には、それよりソフィア様を何とかしてもらいませんと」



 レオノアの言葉に、ゲイリーは苦笑した。


 ソフィア・レーヴェン。

 レーヴェン公爵家の一人娘である彼女は、以前、ゼロル風邪という伝染病に罹り、皮膚や喉に大きな障害を抱えた。その後、レオノアの作った化粧水や喉飴でまさかの回復を見せて、現在でもレオノアのことを信望している。というか、悪化している。

 現在ではカイルの婚約者であり、将来的にカイルが婿入りするという話になっている。



「どうにもならない。私も驚くくらいソフィアはレオノアが大好きだ。部屋を見せてやりたいくらいだ」

「部屋?」



 サミュエルが怪訝そうな顔をすると、カイルは心底うんざりした声でソフィアの生態を話した。



「レオノアの絵と、彫刻が飾ってあり、お気に入りの手紙を額縁に入れ、レオノアを観察した内容だけが書いてある日記帳を置いてある……」

「は?レオノアの絵や彫刻を持っていていいのは俺だけなんだけど」

「サミュエル、なんだかそれもちょっとおかしい気がするわ」



 呆れたように言うレオノアに、サミュエルは「俺は家族になる、ソフィア嬢は他人。全然違う」と真顔で返す。



「サミュエルも、なんだか迷走しているような気がするな」

「俺たちがこんなに真剣に愛を誓い合っているというのに、いまだに茶々入れしてくる連中が悪いと思います」



 チラリとゲイリーに視線を向けたサミュエル。

 今でもレオノア一筋なゲイリーを知っているので、カイルもまた溜息を吐いた。


 ここ数年でまた美しくなったレオノアに愛を囁く男性は増えている。カイルが後ろ盾になっていること、レーヴェン公爵家がレオノアに危害を加える人間は許さないと公言していることで直接何かしてこようとする者は少なくなっている。サミュエルの方を害そうとする者は彼の友である魔物たちによって返り討ちにあっている。

 それでも、うっとうしいことに変わりはない。



「私は天使でもなければ、女神でもないのですが……」

「ソフィアにはそう見えるのだろう」



 ゼロル風邪以降ソフィアを助けたこともないのに、こんなに好かれている理由もわからず、レオノアは首を傾げた。

 こんなはずではなかったのに、としか思えなかった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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