55.話し合い
レオノアはカイルに報告したところ、「それは、今でないといけないのか……」と頭を抱えてしまった。
「ただでさえ、ゼロル風邪の蔓延を防ぐためにと医師・薬師を総動員している状況で薬草も少なくなっている状態なのだが」
「それは私ではなく、ケイトリン殿下に言っていただけますと……」
「わかっている。わかっているのだが」
わかっていても、愚痴が止まらないことはあるものだ。
確かに、つまらない理由で公爵家の乗っ取りが起きそうな案件にもなっている。それは解決するべき案件だ。
しかし、それよりも優先すべきことがあるのではないかと思ってしまうだけだ。
「レオノアはどう考えている?」
「正直、専門ではありませんので何とも……。身分的にも少し断りにくいです」
表情も変わらないまま、さらりと言うレオノアに「そうだよなぁ」と背面に思いきり背を預けた。
「できない、とは言わなかったのか?」
「できるかわからない、とは申しました」
「……まぁ、それで聞く姉上ではないか」
公爵家の今後が心配なのは確かだ。だからこそ、「サミュエル付でいいなら、と条件をつけるか」と仕方なく同意した。
「嫌になったらすぐに帰ってこい。争いになろうが構わない」
「それを言うのはどうかと思います」
「今ならば勝てる」
そういう問題ではないだろう、とレオノアは眉を顰める。
「材料に関しても制限はかかる。それは納得させる」
「まぁ、よほどのことがない限りは一人よりも、大多数ですよねぇ」
「広まれば、我々とて無事に済むかわからないものだ。姉上のことだから、深い考えがあってのことかもしれぬしな」
実際に、ゼロル風邪罹患後に残った障害で苦しむ者は存在する。それを癒す薬というのもこれまで存在しなかったのだ。ソフィアのように、声だけでも戻った人間がどれだけいただろうか。それを考えると期待してしまう気持ちもわからなくはない。
(しかも、医師までつけるか。後遺症を治すため『だけ』に)
もう国内に病が持ち込まれていることから、すでに奔走している者が多い中、引っ張ってくるというのだからカイルが「病そのものをなんとかさせようとしているのでは」なんて考えても無理のない話だろう。
目の前のレオノアは「護身用の魔道具でも作ろうと思っていたのに」なんて言っている。
(錬金術師の中には医学に精通した者もいると聞く。こいつにその知識が備われば……と考えているのかもしれない)
カイルにとって、目の前にいるレオノアという女はただの駒ではない。駒、というには大きすぎる何かを持っている。
それを感じ取っているからこそ、ある程度勝手にさせているのだ。出ていかれてはそれこそ損失でしかない。
「まぁ、ゼロル風邪に詳しくなることは悪いことだけでもないだろう。私やサミュエル、おまえの家族が罹る可能性もあるわけだしな」
カイルがそう言うと、レオノアの表情が変わった。
「た、確かに……!伝染病である以上、その可能性もあるのでした。家族が罹っては私も平静ではいられないでしょう」
恐ろしいことに気づいたとばかりにレオノアはフルフルと震えている。カイルはちょっとだけ「余計なことを言ったかもしれん」と思った。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
サミュエル「レオノアは家族ガチ勢だからな……」