54.喉飴を渡しただけなのに……
「はじめまして、レオノア様。わたくしは、ソフィア。ソフィア・レーヴェンと申します。どうぞ、ソフィアとお呼びください」
ケイトリンに呼び出されたと思ったら、銀髪で仮面を被った少女に腕を取られていた。
ハイネックのドレスに黒い手袋。髪で耳も隠している。必要以上に身体を見せぬようにしているようだ。
「その子は、ゼロル風邪で外に出られない状態だったのだけれど、あなたの化粧水と喉飴で城に来ることができるまでになったの」
「そうですか」
ソフィアを見るケイトリンの視線には安堵のようなものが滲んでいた。
一方で、レオノアはというと、「早く帰って、サミュエルとお茶でも飲みたいわ」なんて考えていた。
「わたくしが家から出ることができたのは、全てあなたのおかげです」
「いえ、新作ポーション作りに協力してくださった全ての皆様のおかげですね」
「まぁ、謙虚。そんなところも素敵ですわ」
ソフィアの語尾全てにハートが付いている気がする。
隙があればすぐにでも腕を引き抜きたいが、ソフィアは「絶対に離しませんわ!」とばかりにぎゅうぎゅう抱き着いている。たわわなものが触れて少し気まずい。
「本当はあなたに全てを晒したいのですが、まだ爛れた皮膚の全てが治ったとはいえませんの。許してくださいませ」
許すも何も、怒ってすらいない。
(公爵家からのお礼って、ソフィア様が考えたことなのかしら)
ソフィアが病による影響で苦しんでいるというのに、婿入りするはずだった男は彼女を嘲笑し、「こんな顔の女と結婚なんてできない」と彼女の従妹の肩を抱いていた。当然、一人娘を愛する公爵家は婚約を破棄したが、実際に彼女の状態を噂で知ったものは婚約に踏み切ることができず、親類からは従妹に婿を取るか養子を取ればいいなんて言われている。
「レオノア、彼女の顔を元に戻すことはできて?」
「実際を見ていないので何とも。それに、私はただの錬金術師であり、専門家ではありません。魔物による状態異常などを治す薬にはある程度詳しいと思いますがこれは『病』です。医師の領分かと」
ケイトリンの問に、偽ることなき本音で返すと、彼女はソフィアに向き直った。
「ソフィア」
「嫌です」
「ダメよ。このままでは、あの愚か者たちにどんな手を打たれるかわかったものではないわ」
ケイトリンの言葉に、ソフィアの様子が変わる。
公爵家の今後がかかっていることは彼女だって理解していた。それでも、メイドですら怖がる顔を、恩人に見せるのは躊躇する。
「いえ、私に見せたところで治るかはわかりませんが……」
レオノアはそう言うけれど、少しでも爛れがマシになったのは彼女の作った化粧品のおかげだ。治る可能性があるとすれば、彼女の今後のポーションなどだろう。
「無論、医師も後ほど紹介します。レオノア、あなたは彼女の老婆のようになった声を元に戻したの。だから、『次』も期待しているわ」
外交を司る家が関わっているからかもしれないが、ケイトリンの目は笑っていない。
(喉飴を渡しただけなのに……)
レオノアは、よくわからない薬作りに関わることになりそうで、少し遠い目をした。
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ソフィア・レーヴェン
公爵家の一人娘。信頼していた婚約者がカスだった。
現在、ゼロル風邪のせいで顔が爛れ、大変なことになっている。見えないところも変なあざみたいな痕になっており、動けるようにはなったものの、彼女が日々泣き暮らす原因となってしまっている。それでも、大分マシになったとか。
本来は銀髪青目の超絶美少女。
なお、レオノアに忘れ去られし乙女ゲーでは2の本編前に死んだ攻略対象の義姉として名前だけが出てくる模様。




