52.皇女殿下のおねだり
「なんでバレたのかしら」
薬草数種と薄めた身体回復ポーションを瓶ごと錬金釜にぶち込みながら、レオノアは真顔でボヤいていた。
サミュエルにハンドクリームを渡した三日後にはカイルとケイトリンに呼び出されていた。仲介に使われたカイルはすごく疲れた顔をしていたし、ケイトリンの瞳は爛々と輝いていた。
そのことで、レオノア自身はあまり興味のない美容品の開発を行うことになってしまったのは計算外だった。
「レオノアさんのお肌とかぁ、手が綺麗だからではありませんかぁ?」
見事に上腕二頭筋が素晴らしい騎士の婚約者をゲットしたアメリア・シャウタがそう言ってレオノアの頬を突く。ケイトリンの宮殿に勤めている侍女見習の彼女は、上司命令でレオノアの様子を見に来ていた。美にかける情熱が怖い。
「肌?手以外は何もしておりませんが」
「またまたぁ~」
そう言ってアメリアはレオノアの背を叩いて、顔を覗き込んだ。そこにあったのは、本当に不思議そうな表情のレオノアの姿だった。
「え。マジなんですかぁ?」
「こんなことで嘘を吐いてどうするんですか」
ハンドクリームは紙を触ることが増えて、少し乾燥するから作っただけであり、あまり特別なケアはしていない。たまにカロリーナが手入れをしてくれているがその程度である。
「まだ若いとはいえ……」
「アメリア様だって、まだ18でしょうに」
「3つ違うとお肌の調子だって違うんですよぉ!」
ぷくりと頬を膨らませるアメリアを見ながら、「私より、よほど可愛らしいと思いますが」なんて呟く。あまり違いはわからない。
錬金釜に魔力を注ぐと、魔法陣が現れて、強い光が放たれた。それが収まると、慣れたように手を突っ込んで瓶を取り出す。乳白色の液体が瓶に入っており、それを鑑定すると「化粧水」という文字が浮かんだ。
「肌を整え、保湿する効果がある……」
鑑定結果を見ながら紙に効果を書き記していく。使うなら洗顔後、や水分の蒸発を防ぐ役割のものと併用するとなお良いと出ている結果をそのまま書く。
(あら、もしかしてもう一種類いるの?)
面倒くさい、と明らかに思っている引きつった顔をする。今回の化粧水ですら使う薬草の選定に時間がかかった。それが、もう一種類別の何かがいる。
少ししてから、「まぁ、これだけでも多少の効果はあるでしょう」と考えるのをやめた。
「香りとかはつけないんですかぁ?」
「つけません。私が嫌なので」
そもそも、ハンドクリームの方だってほとんど薬草の香りである。華やかな香りなのは認めるが、別にそうしたくてなったわけではない。
「イザベラ様から買った薬草ってなぜかやたらといい香りなのですよねぇ」
現在、乾燥させたもの、煮だした液、粉末状にしたものなどで保存している。自分が研究用に使う分は確保していた。安く、良いものを提供してもらっているのだ。役立てない方が不義理というものだろう。
そこまで考えてから、イザベラが「いいものができたら融通してくださいな」なんて言っていたことを思い出した。
(これ、贈ったら喜ばれるかしら)
ケイトリンたちがあんなに熱望しているのだから、あり得ない話ではない。
次の手紙と一緒に送ってもいいかもしれない、とレオノアは少しおしゃれな瓶を探しにいった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。