51.向けられるものは真っすぐ
サミュエルがグリフォンの羽の手入れをしている前で、レオノアは餌の入った籠を置いた。
サミュエルの自宅にある魔物の小屋にはメェちゃんやネロなど、彼が世話をしている魔物たちがいる。可愛がられているからか、毛並みもご機嫌もいい。
「グリフォンの羽で、抜けちゃったやつとかないかしら」
「何に使うつもりだ」
「今の所は別に何も。でも、素材になると聞くから……」
さすがに恋人が大切にしている存在から羽や毛皮を取ろうとは思わない。でも、抜けたものがあれば、やっぱり少し気になったりはするのである。ある種、錬金術師の性かもしれない。
「はぁ……。見つけたら置いておく」
「ありがとう、サミュエル」
ハートが語尾に付きそうな声を聞いて、サミュエルは思わずドキッとした。
ルンルンと掃除を始めたレオノアも可愛いと思ってしまうあたり、重症かもしれない。
「君はこういうところに興味ないんじゃないのか?」
「興味はないわね。でも、いいの。あなたと一緒だから」
そうやって微笑むレオノアを見ながら、サミュエルは胸を押さえた。恋人になってからのレオノアがあまりにもフルスロットルで愛を伝えてくる。今まで悩んできたのはなんだったのかと思うほど真っすぐだ。押されている現状に「どうしてこうなっているんだ」と思う時もある。しかし、現状に不満があるはずもない。
そんな彼をよそに、レオノアは「最近、サミュエルがなんだかおかしい気がするわ?」なんて思っていた。健康そうなので、心配はしていないし、注がれる愛情も感じているので安心もしている。しかし、急に胸を押さえだすのはちょっとびっくりする。
「そういえば、碧が見つかったというのは本当か?」
「あら、彼女……イザベラ様は初めから居場所がわかっていたわ。結婚したことも」
「さっさと逃げたと思っていたが」
「逃げたのは間違いないわ。だって、厄介じゃない」
碧の魔法使いイザベラ・アダムスはエデルヴァード帝国を越えた先の国に嫁いでいた。先日の研究の際に、薬草を買い付けにいった先で声をかけられ、手紙のやりとりも再開している。
「旦那様に愛されて幸せだと言っていたわ」
ロンゴディア王国やエデルヴァード帝国では早すぎる年齢での婚姻だったが、彼女を愛していた婚約者はイザベラを追い詰めようとする厄介な女がいる場所に、彼女を置いておこうとは思えず、必死に急かしたそうだ。
「結果として、わたくしが一番安全に逃げることができましたわ。旦那様には感謝をしないと」
そう言ってコロコロと愛らしい声で笑っていたイザベラを思い出して、レオノアは微笑んだ。無事で、元気でいてくれるならばそれに越したことはない。
そして、彼女との交流を再開したことで、薬草の取引も始まった。
「イザベラ様の薬草で作ったハンドクリームはとても良い効果なのよ」
そう言ってニコニコしているレオノアを「可愛いな」と思った後、サミュエルはいきなり真顔になった。
ハンドクリームの話は聞いていない。
「ハンドクリーム……?それ、報告に入れていたか?」
「自分用だから、何にも。広めなければいいかなって」
レオノアは「サミュエルには特別ね」とハンドクリームを分けてくれた。それを使用して、サミュエルは頭を抱えた。
柔らかい花の香り、あからさまにすべすべになる手。
「絶対売れる……」
そして、レオノアは気づかれていないと思っているが、女性の美に関するセンサーは鋭い。おそらく、すでに色々と探りをいれているはずだ。
少しだけ、「やりやがったな、イザベラ」という気持ちになったサミュエルだが、作ったのはレオノアの方である。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
全然関係ないけど、書きながら「許さないぞ、とこ〇てん〇すけ!」を思い出した。