50.ロマンを感じる
「どうですか」
「すごい、な……」
カイルはレオノアにお披露目された魔導蒸気機関車のミニチュア版を見ながら頭を抱えていた。小さい乗り物が線路に沿って、火の魔石によって水の魔石で生み出した水を沸騰させ、その際に生じる蒸気の力で動いている。その魔石もチャージ式になっており、定期的に魔力を込めれば何度でも使えるという画期的なものになっている。
「ケイトリン皇女殿下が研究しておられた魔法陣で素体となる魔石……これはある程度大きなものが必要となりますが、それがあればそれに応じた魔力を注ぐことで繰り返し使用できる仕組みを生み出せたのはよかったです。何度も強い魔物を狩ったり、魔石鉱山にある純度が高く大きな魔石を見つけるというのは難しいことですからね」
エデルヴァード帝国に生まれた新技術のおかげだと満足そうに言うレオノアに、カイルは「そうか……」と絞り出すように返した。
深く考えなくてもわかる。これは、今紛糾している自動魔導車よりも大きな事業になる。
まず、構造が自動魔導車よりも簡単で、大きさの割におそらく安く済む。燃料は繰り返し使えるものであり、多くの荷物や人員を一度で運ぶことができる。線路を引く必要はあるものの、それをする価値はあるだろう。
「構造はあまり手を加える必要がないと思います。ただ、魔石の大きさや量の計算や鍛冶師の選定などはもう少し考えなければならないかもしれません」
「わかった」
安全性の確認なども加えると、やらなければならない業務は多いだろう。
しかし、説明された完成予想を見れば、やらないという選択肢はない。
ミニチュア魔導蒸気機関車が動くのを見ながら、呆れたように溜息を吐く。
「これだけでも売れそうだな」
「……まぁ、模型としてだけでも売れるでしょうね」
サミュエルがそう答えて頷く。実際、カイルも欲しい。蒸気を上げて走る小さな機関車には心弾むものがある。
「いや、本当にいいな……。試作などで模型とか作っていないのか?」
「ありますけど、走りませんよ?」
走らなくても、格好いい。
その場にいた男子数名はそんなことを考えながら、ジッとミニチュア版を見つめている。機関車事態に興味がないゲイリーは別として、何か男の子心を掻き立てる何かがそこにあった。
「レオノア、代金を払うから模型を譲ってほしいのだが」
「構いませんよ。一つしかないので、取り扱いには気を付けてくださいませ」
レオノアは移動手段が欲しかっただけで、特にそういったものに興味があるわけではなかったので、普通にあげてもかまわなかったが、周囲の雰囲気が独特だったので言葉を控えた。
「これの開通が決まった暁には、当商会で作らせていただいてもかまいませんか?」
「相談しておく。決まり次第文を出す」
レオノアの目の前で、何かが決まっていく。
それを「まぁ、楽しそうだしいいわ」と思いながら、レオノアはミニチュア版を止めた。
(家事用品系は好きにしていいと言われたし、こんな大物はもうあまり作る機会はないでしょうね)
レオノアは「さすがに、ここまですれば簡単に家族と会えるようになるでしょう」なんて思いながら、魔石を取り外した。
(これだけで爵位を与えてもいいくらいだな)
レオノアは家族と会いたいだけなので、カイルにそんな目で見られていたことには気が付いていなかった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
カイル「いや、正直魅了を封じるための魔道具段階で爵位くらい与えてもいいんじゃないかとは思っていたが……」
それはそう。