49.ケイトリンの予告
レオノアは申請していた申請書が通ったため、作ろうと思っているもののミニチュア版を作成しようとしていた。
今回、彼女が作ろうと思っていたのは蒸気機関車っぽいものである。サミュエルが探してくれていた資料と魔石を使用して、とりあえず小さな装置を設計していた。
積み上げた資料を見ながら悩んでいると、「レオノア、あなたまたカイルに仕事を増やしたのですって?」と少し面白そうに声をかけられた。
「お久しぶりです、ケイトリン皇女殿下。どうしてこちらへ?」
「ふふ、可愛い弟たちがわたくしの研究に興味があるというので、少し協力しにきてあげているのよ」
後ろに数名の侍女が控えており、笑顔で手を振ってくる。それに軽く頭を下げた。
「鍛冶師にも無茶を言っているそうね」
「そうですねぇ……。ところでどちらからそれを?」
レオノアの問に、ケイトリンは意味ありげに微笑んで見せた。それを見て、レオノアはこれが忠告であることを理解して「……対策を取ります」と返した。
カイルから聞いたのであれば、彼女は素直に教えてくれただろう。そうでないということは、どこかから漏れているのだ。雇った鍛冶師か、それとも事業に関わっている誰かか。それを調べて対処しなければいけない、と面倒に思う。
「それはまだわたくしの知らないものかしら」
「そうですね。また鍛冶師が悲鳴を上げるかもしれませんわ」
「悲鳴が聞こえないように気をつけなさいね」
扇で口元を隠しながら、ケイトリンは「また大きな事業になりそうね」と楽しそうに目を細めた。
レオノアのおかげで、ケイトリンもまた、古代魔法の研究が進んでいた。たまたま、レオノアが新作ポーションを作る際に生まれた失敗作が古代魔法の魔法陣に使われていたインクと同じ成分だった。それを「何かおかしな薬液が生まれてしまったわ」と鑑定して、効果を確かめたあと、上司に確認を取ったうえでレオノアはケイトリンに譲渡した。
今、行われているカイルへの協力だって、その礼もある。浮気性の婚約者の相手をしているくらいならば彼らと協力して国の危機への準備に勤しんでいる方がいいという理由もあるが。
「また、わたくしからレオノアに用を申し付けることもあるかもしれないわ」
「カイル殿下がいいと言うのでしたら……」
レオノアの雇い主はカイルなのでそう言うと、ケイトリンは満足そうに頷いた。
他の王族に言われたからと勝手にホイホイ仕事を引き受けるような危機管理のなっていない人物ならば、たとえ才能があったとしても側に置くべきではない。
少なくとも助けてくれたカイルへの、少しばかりの忠誠心はあるようだ。
(まぁ、ゲイリーと結ばれなかったのは残念だったけれど)
愛情深く、しかし執着と嫉妬心も深いオルコット辺境伯とその息子ゲイリー。それに多少の問題があったとしても優秀なことには変わりない。特にゲイリーに関してはまだ若いというのにスタンピードも一人で治めるような埒外の存在だ。レオノアが彼を選んでいたならば彼の忠誠も得られただろう。
それを考えれば、乗り換えてほしい気持ちもなくはない。
(それを言えば、彼女はわたくしに協力してはくれなくなるでしょうね)
レオノアもまた特異な人種だ。何となく、としか言えないが、ケイトリンはこの件に触れてはいけない気がした。
協力してくれなくなる、というのが理由ではない。レオノアと相手を引き離したときに、彼女が何をするかを考えるのが怖かったからだ。
あまり『戦い』に特化した才能ではないかもしれない。だが、何をするかわからず恐ろしい。それがレオノアへ感じるものだった。
「それでは、何かあればカイルに言うわね」
「かしこまりました」
ケイトリンが背を向けて出ていくと、レオノアはホッと一息吐いた。
久しぶりのケイトリンに、レオノアも緊張をしていた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
レオノアも割と皇族に合うと緊張はしてる。顔にはあんまりでない。
あと、ケイトリンの勘は割と正しい。