47.未来のための下心
「最近、殿下たちが忙しそうですね」
カイルたちの奮闘を知らないレオノアは資料室の窓に洗浄魔法をかけながらそう言うと、ライアンは本から目を離さないまま「レナちゃんの自動魔導車関連じゃない?」と返す。
様々な専門家が集まって、素材やどうやって走らせるか議論が進んでいる。そんな様子を見ながら、新しい設計図を引いているレオノアのことを、サミュエルはしっかりカイルに報告を入れていた。そうすることであまりに大きな案件は国家事業となり、多くの人が関わるようになって結果的にレオノアの存在をある程度隠せるからだ。
「アレですか?道路の整備が難しくて、危ないかもしれないと言われて難航しています。だから、別案の提案書と設計図を今作っているのですが、提出はもっと先の方がいいかもしれませんね」
「え。それはたぶん、さっさと出した方がいいよ。カイル殿下たちも心の準備がいると思う」
「そんなものですか?」
「そんなものだよ」
レオノアが「あったら便利そう」で作っているものは、彼女の前世の記憶の影響を無意識に受けている。それが生活を豊かにするものであると、見る者が見ればわかってしまうものだから、ライアンはそう提案した。
(レナちゃんが利用される結果になったら怒る人いっぱいいるもんなぁ)
カイルたちがレオノアを利用していない、なんて思わないが彼らの場合はあくまでも国のため、民のためであり、自分の利益のためではない。彼女を守るために囲い込んではいるが、それを強制もしていない。だから、見逃されている。
「これでここの掃除はよし」
「……わぁ、レナちゃん相変わらず全部魔法で片付けてる」
「便利なものは使わなくては。時間も短縮できますし」
そう言ったあとに、ポンと手を叩いた。
「うんうん。それも企画書出そうねー」
レオノアは「なんで……?」と面倒そうな顔をしているが、どんなものであろうといったんカイルに出しておけば、悪いようにはならないだろうという判断である。
レオノアの考えが想像できない以上、大したことではないかもしれないと思っても進めておく。
「掃除用の魔道具があれば、便利かしらって思っただけなのに」
そんなことを言いながら出ていくレオノアを見送って、ライアンは「殿下も大変そう~」と呟いた。
ケイトリン皇女も動いているところを見ると、いずれ来るかもしれない災害に備えていることは想定できる。
「まぁ、ボクができることは少しだけど」
ライアンはそう呟いて、本を閉じる。
レオノアに兵器を作らせようなんて考える人間は決して少なくない。それをなんとか押し止めているのはカイルだ。せっかく味方になっている彼女に無理やり望まぬものを作らせても、この国にとっていい結果になるはずがないと主張するカイルに、ケイトリンを含めた数名が賛同しているから、自由に研究ができている。それをレオノアが知る必要はないと本気で考えているあたり、カイルも人が良い。
「ボクはそこまでいい子じゃないけどね」
ほんの少し、下心があったところで、レオノアは気にしないだろう。
彼女がこの国で楽しく暮らすために、いつか噂に聞く聖女や邪竜を倒す手伝いをしてくれることを、期待しているだけだ。
ライアンは持っていた伝承をまとめた本を見て、表紙を撫でる。
そこには、金色の剣が竜を貫く絵が描かれていた。
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