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45.休暇が台無し


 なんとかヴァーノンを追い返して、二人は溜息を吐いた。

 せっかくの休暇が台無しである。



「今度はゆっくり過ごしましょうね」

「そうだな」



 いっそ、仕事をしていた方が気楽だったかもしれないなんて二人が考えていたころ、目の前にいい香りのするお茶が置かれた。しっかりと結ばれたラベンダーグレイの髪が揺れる。



「お疲れ様。あの方、最近しつこく来ていたから、トトが怒っていたの。もう少しで惨事になるところだったわ」



 コロコロと愛らしい声で笑うのは、サミュエルの兄、サルバトーレの妻であるカロリーナだ。ロンゴディア王国のテイル男爵令嬢だった彼女は、駆け落ちを装って国を出た。その後、テイル男爵家も「娘が出て行ったことによって精神を病んだ」として爵位を欲しがっていた親類に男爵位を譲って国を出てきている。現在はエデルヴァード帝国にて、シュヴァルツ商会で働きながら楽しく暮らしている。



「しつこい……?やっぱり、嫌いだわ。あのおうちの人たち」



 的確にレオノアの嫌だと思うことをやっていくのは血筋だろうか。渋い表情を隠そうともしないレオノアを見て、カロリーナは苦笑する。

 大切な人の、大切な家族に迷惑をかけられたことに、レオノアは苛立っていた。



「今日は泊っていけるの?」

「いえ……。カイル殿下に『未婚の者が軽々と男の家に泊まるものではない』と外泊申請を却下されました」



 カイルの真似をしながら話すレオノアは「親かしら?」と素直な感想を零した。カイルもサミュエルが結婚前に何かするとは思っていないものの、親元から預かっている娘という認識なので許可は出さなかった。



「そう。レオノアちゃんから恋バナが聞けると思って楽しみにしていたのだけど」

「? 特別なことは何もありませんけど……」



 サミュエルの方を見て、同意を求めるように首を傾げる。そんなレオノアを見たサミュエルは遠くを見るような目をしていた。何事もないように、ムードもへったくれもなく、サラッと告白をしてきた彼女の様子を思い出すと、確かにどう話したものかなんて考えてしまう。

 恋バナができるような人間だとはどうしても思えない。



(どちらかと言えば、俺の話より錬金術の話をする方が楽しく話せる子だぞ)



 自虐などではなく、現実にそうである。

 久しぶりにレオノアと楽しそうに話しているカロリーナを見ながら、サミュエルは持って来てもらった紅茶に口を付けた。



「そういえば、レオノアちゃんが開発した馬車の生産が始まったみたいよ」

「まぁ!じゃあ、もっと気軽に帰省ができますね」



 まず一番に喜ぶところがそこである。本来、彼女の想定していた使い方である。



「それに、君の家族もこちらに来やすくなるな」

「それも嬉しいわ。最近、ずっと離れているもの。長期の休暇も取りにくいし」



 レオノアだけに仕事が集中しているわけではないが、重要な案件に関わることも多いので離れづらい面はある。

 一番大きな仕事は終えたが、やりたいことをやるには帝都にいる方がいいという面もある。今も、量産が可能で安価なポーション作りを研究している。最終的には平民でも手に取りやすい価格で販売することを目標にしている。今でも流通はしているが、少し割高だ。

 国から支援を受けてあれこれ研究できるのは楽しいことだ。

 レオノアがそう考えている時点で、カイルの思惑は成功していると考えてもいいかもしれない。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


カイルが(計算通り……)の顔をしているかもしれない。

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