41.訪れし者たち
ルカとウィルが無事であるということしか知らないレオノアとサミュエルだったが、探そうとは思っていなかった。再会が彼らの命を危険に晒すのであれば、その時は『今』ではないと考えていた。
その考えは、まだ変わってはいない。
「現状、わからないことが多いのは仕方のないことだ。こちらでも調べさせよう。また、皆の力を借りることになるだろう。その時は頼む」
「いつだって協力は惜しまないよ、殿下」
ライアンがパチンとウインクをすると、カイルは苦笑した。
彼が本当に協力を惜しむことがないと知っているからだ。とはいえ、無理をしやすいライアンに全てを任せるわけにはいかないとも思っている。
カイルを含め、まだ十代も前半の子どもだ。それなりの能力があると認められているが故に、全て親に報告をしたうえでこういった重要な問題に関わることになっている。だが、それゆえの敵もいる。信頼できる仲間がいるという事実はカイルにとって頼もしくもあったが、同時に巻き込んでしまうという罪悪感も確かに抱えていた。
「まぁ、巻き込んでいるのは正直こちらですので……」
「君じゃなくて、君の異母妹だろう」
少し、申し訳ないという顔をしているレオノアに、サミュエルは訂正を入れる。
レオノアはどこからどう見たって被害者だ。家を追い出され、見捨てられ、手にするはずの全てを奪い取られた。もっと悲しみ、苦しみ、憎んでいてもカイルたちは疑問にすら感じなかっただろう。当のレオノアは「貴族の子女を追い出して殺そうとしたことには怒りを感じるけれど、むしろ私個人としては愛してくれる家族に出会えて幸運なのかもしれないわ」なんて考えているが。
「でも、あれが半分とはいえ血のつながった人間であるという事実は変わらないわ」
「本気で嫌なんだな……」
「それは仕方ないでしょう。殿下だって、周囲の男を侍らせるような不埒で淫らな妹がいれば片付けたくもなるでしょう」
「……確かに」
カイルには実際の妹がいるわけではないが、ゲイリーに言われて想像するだけで嫌だったようで眉間に皺が寄っていた。
「だが、レオノアは共に育ったわけではない。他人と言ってもいいだろう。あまり気にせずともいいだろう」
カイルの言葉にレオノアは「はい」と軽く頷いた。
レオノアもあまり、マリアと血のつながりがあることを考えたくなかったのもある。彼女はレオノアにとって、あまりいい思い出がある人物ではない。
「そういえば、ロンゴディア王国の伯爵家が貿易のためにこの国を訪れているそうだ。ガルシア家……確か、お前の母の生家だったか」
「まぁ、またややこしい方々が」
「何かあればシュヴァルツ商会からも釘をさす。……今の困窮したガルシア家になら少しくらい嫌がらせくらいはできるぞ」
ニッコリと笑うサミュエルの目は冷ややかだ。
彼は、ガルシア家嫡男エイダンの行いに対してまだ根に持っていた。レオノアを自分の都合で連れまわし、家から離れた場所で放置した。その行いが何を引き起こす可能性があるか、エイダンは何一つ考えなかった。レオノアは忘れているかもしれないが、サミュエルはこれっぽっちも忘れてなどいない。エイダンも必死だったのだろう。それは理解している。しかし、それが知り合い程度の少女を危険な目に遭わせる理由になってはいけない。
「過保護なやつらがいるから大丈夫だとは思うが」
「お気遣いいただきありがとうございます。気を付けておきますね」
カイルは、サミュエルを見ながら苦笑するレオノアから、チラリとゲイリーに視線を向けた。今もなお、レオノアのことが好きなゲイリーだって、彼女に何かあれば剣を持って敵対者を追いかけていくだろう。
(罪な女だな……)
そして、魅了等何も持っていない分、恐ろしくもある。
どこか人の懐に入り込むのが上手いのだ。
それは、レオノアもまた周囲のために力を尽くす人物だからだということを、カイルもまた知っている。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
レオノアは「近寄りたくないなぁ」って思ってる。