40.未だ、疑問は多く
しかし、疑問が多い。
「魔道具を受け取っていたのなら、おそらく魅了は抑えられていたはずだ。受け継がれてはいないのか?」
「うん。マリア嬢のおばあさんが売りに出したんだって。先代の聖女はもう随分前に現れたきり、血も薄まって、現れないと踏んだらしい。それに、彼女は呪術の天才で、もし聖女なるものが復活しても御せると信じていたんだろうね」
しかし、実際はマリアが生まれた時点でも封じるのが困難だった。魔道具はすでにどこにあるのかもわからない状況で、手詰まりになった。やがて、魅了の影響を強く受け、祖母と母はマリアの都合がいいように動く存在になった。
ハーバー侯爵もまた、マリアにとっては駒にしか過ぎない存在だろう。
そんな話を聞きながら、レオノアは先祖が作ったとされる魔道具の方に気が向いていた。
「赤が作ったとされる装飾具は、本当に残っていないの?」
「あったよー!たまたま、この国に流れ着いていたみたい。今は国家錬金術師の皆様に見てもらってるところ。安全そうなら、レナちゃんが見れるように父上にお願いしとくね」
「まぁ。ありがとう存じます、ライアン様」
本当に嬉しそうに微笑むレオノアの姿を見たライアンが頬を染めると、二方向から殺気が飛んできた。すぐに青ざめた顔になったライアンは、救いを求めるようにカイルの方を見た。溜息を吐いたカイルが「落ち着け、二人とも」と口に出して、少しだけ圧が弱まる。
「魔道具の解明が進めば、あの女狐の力を本当に封じ込めることも不可能ではないだろう」
「あ、問題はそれだけじゃなさそうなんですけど、報告いいです?一応、父上にお願いして陛下とかにもお伝えしてるんですけど……」
気まずそうなライアンを見て、カイルは不思議そうな顔をする。
目下、懸案事項だった強力過ぎる魅了の使い手から身を守る方法がある程度できたことで、彼女の排除に向けてようやく動くことができる。それが何よりの朗報だと思っていたし、その報告は皇帝にもあがっている。これ以上、何があるのか、とカイルはライアンに話の続きを促した。
「なんか、邪竜ファフニールもガチで存在していて、封じられているだけでまだ生きてるらしいんですよねぇ」
そして、封印は弱まっていて、そのうちに復活する可能性も否定できないという。
「聖女がまだあの国に留まっているから、復活が遅れているだけで、六色の魔法使いが全員逃げだした段階で徐々に綻び始めてるみたいです。これは、数名の影に確認させています」
「なんで私たちが逃げ出したら封印が綻ぶのですか?」
不思議そうに首を傾げたレオノアに、サミュエルが苦虫を嚙み潰したような顔で答えた。
「俺たちの存在が封印の楔にでもなっていたんだろうな」
「楔……?」
「これは『おそらくこうだろう』としか言えない話だが、封印に使った術式の何かに俺たちの血筋が国内にいることで有効化される何かがあったんじゃないか?」
「明確に伝わってはいないのですか」
ゲイリーの問に、サミュエルは頷いた。
「爺様……うちの先代からはそういった話は聞いていない。唯一、言われているとすれば『絶対に他の色の魔法使いと敵対するな』くらいのものだ」
「あら、何故?」
「魔物が傷つくのが可哀想だと言っていた。俺たちはあまり自分自身の能力は高くないからな」
黒の一族はあくまでも魔物や動物と意思を通わせて協力してもらうことが得意な一族だ。他の一族よりも戦闘力は低い。
「うちはそんなこと聞く前に、お母さま?は死んでいるもの。……ルカたちなら詳しいかもしれないけれど」
「ルカ?」
名前らしきものを繰り返してから、それがレオノアに頼まれて探していた友人と同じ名前であることに気が付いたカイルは眉間に皺を寄せた。
「それも六色の魔法使いだったのか」
「そうです」
それも、ロンゴディア王国の第一王子である。今は追われる身であるが、本来は正式な王位継承者だ。
間違いなく、一番詳しいと思わしき存在だが、ルカは現在ウィルと共に身を隠すことを余儀なくされていた。死体を確認していないからだろう。彼らはまだ数多くの追手がかかっていた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ルカ&ウィル、まだ逃走中(秘密裏に匿われてはいる)。