39.暇は苦痛?
「殿下に怒られた。なぜ」
「休みを取らせたのに、仕事をしているからでは?」
「仕事してない!ボクはただ面白そうだなって思ったことを調べて回っていただけなのに!!」
休み明けに出勤してきたライアンはしっかりとカイルに怒られた後、合流したレオノアたちの前で嘆いていた。ゲイリーの容赦ない返答に、「寝てるだけの生活でも送れって言うの!?」と床を叩く。
「いえ、仕事に関連することを過密スケジュールで詰め込むのが問題なのでは」
「過密スケジュール……」
「はい。ライアンは分刻みでやれ取材、図書館で資料集め、剣術の稽古、休暇後にやりたい仕事の準備……それらを詰め込んでいます。何度か倒れたことがあったので、カイル殿下に無理やり休暇を取らせているのです」
レオノアに応えるように、ゲイリーが過去のライアンのやらかしを話すと、流石に罰が悪そうな顔をした。
「そんなにバタバタ倒れているわけじゃないし……ボク、丈夫だし……」
「一年に一度は倒れているらしいぞ。ロイ爺様が言っていた」
サミュエルの暴露にレオノアがドン引きしていると、「レナちゃんだって人のこと言えないでしょ!」と吠えた。
しかし、レオノアは倒れたことがないので不思議そうに首を傾げた。
「私、倒れたことがありません」
時間が来たら灯りに使う魔石や燃料がもったいない、とさっさと寝ていたし、そもそもサミュエルが近くにいる時は無理をしないように見張られている。夢中になっても途中で眠気に負ける。サミュエルと出かけたり、物語の本を読むのも割と好きなので、そこまで過密スケジュールで動いたりはしていなかった。
「う、うそ……」
「そもそも、倒れるまで頑張ったら弟が心配して泣いてしまうわ」
同類だと思っていたレオノアにそう言われてしまって、ライアンは項垂れた。
レオノアは家族ファースト思考なので、心配をかけることは控えたいとは思っているのだ。巻き込まれたりして危険な目に遭うことはあるが。
「もっと言ってやれ。今年は夏にすでに一週間寝込んだ」
ずっと聞いていたカイルが苛立ちの籠った声でそう言うと、ライアンが「ボク史上最高に暇だった……」と疲れた顔で呟いた。彼にとって寝込んだ一週間はただただ暇な時間であった苦痛だけが記憶に残っているらしい。
「それで、無理をして集めた価値はあったのか?」
「もちろんですとも」
カイルに成果を聞かれたライアンは急に元気になった。パチンとウインクをして、用意していた資料を差し出す。その資料の厚さを見て、ゲイリーは眉間に皺を寄せた。
「……昔、七人の天才魔法使いがいた。彼らは才能によって迫害され、たどり着いたのが邪竜ファフニールに支配されたロンゴディアという地だった。そのうち、女神の加護を得た聖女の浄化魔法により邪竜を弱らせることに成功。男神に力を借りた六人が協力して倒し、これを封じた。そして、そのうちの一人が国を興した。これがロンゴディア王国の始まりである。ここまではいい?」
「そうですね。俺が先代から聞いた話とおおよそ違いない」
サミュエルの同意にライアンは楽しそうに笑った。
「で、その聖女だけど……邪竜を倒した後からやたらと異性に好かれることになったんだって。そのうち、なんか恋人だった男性もおかしくなっていっちゃったみたい。熱狂していく信者、変わっていく周囲……精神を病んでいくのはまぁ、仕方のない話ではないのかな。そんな彼女は、最後に赤の魔法使いを訪ねて姿を消した」
急に名前の出てきた『赤』にレオノアは怪訝そうな顔をする。
「なんか、装飾物を一式渡されたみたいだよ。それで、姿を消した聖女の血筋はひっそりと続いて……ねぇ?最後の子がどこにいるか、君たちはよく知っているよね」
「マリア・ハーバー……」
レオノアは、あの桃色の少女がどこかで嗤っている気がした。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
レオノア「でも、あの子。聖女って性格ではなかったわ!?」
せやな。