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38.才能を逃がさないためにできること


「……国家事業になった」

「そうでしょうね」

「わかっていたなら、事前に少しくらいは相談してほしかったものだがな……!」



 神妙に頷くサミュエルに少しばかり恨み言を言ってしまうのは仕方のないことだろう。当のレオノアは「私は気軽に家族に会える手段を作り出したかっただけなのに、なんだかすごく大事(おおごと)になってしまったわ?」などと、少し困惑した顔をしていた。馬車の改良から何も進歩していない。彼女としては、本当に家族と気軽に会う以外の意図はないのだが、用途を間違えば大きな事件を引き起こしかねない代物でもあったため、開発にあたっても白熱した議論が交わされた。

 結果として、国家事業として見張り付きで開発が許された。



「錬金術師というのはみんなそうなのか?未知の魔道具の開発を楽しみにしすぎてすでに設計図案を作っている者たちもいるぞ」

「探求心が強いから錬金術師をやっているのかもしれませんね」



 ゲイリーが苦笑しながらそう言うと、カイルは深々と溜息を吐いた。



「……時折、レオノアたちが逃走先に我が国を選んでくれたことを心から感謝するよ。他国にこんなものが流れていたことを考えるとゾッとする」

「ただの移動手段ではありませんか」

「移動手段が変われば、戦争も変わるのだ。たわけ」



 そんなことを考えたこともないレオノアは不思議そうな顔をしている。

 カイルは彼女の発明を妨げることが現時点で国家の損失になることだろうとそれ以上を口に出すことをやめた。



(とりあえず、逃がさないためにはレオノア(こいつ)のための研究室が必要か)



 気分よく研究するための施設と身分さえ用意すれば、レオノアは長くこの国にいることを考えてくれるかもしれない。そんなことを考えながら、資料に目を落とす。

 自覚なく、これだけの素晴らしい案を出してくるのだから末恐ろしい。



「ロンゴディア王国のやつらの気が知れない」

「全くです」



 本当ならば、かの国が享受できていたはずの技術。天性の才能。それは今、このエデルヴァード帝国にある。



「他にも何か作ろうとしていないだろうな」

「あ」

「レオノア」



 何か思いついたようなレオノアに、カイルはにっこりと笑顔を見せた。



「全てだ。今思いついているものを全て書き出せ」

「でも、そうしたら同時進行で私が携われないものも出ませんか?」

「小出しにして、全部に関われるようにしてやる。……いきなり此度のようなことになると、私の心臓に悪い」



 レオノアはそんなに特殊なものを作りたいというわけではなかったものの、あまりにもカイルの目が本気だったので、言われた通りに書き出した。

 レオノアは「個別の状態異常に対応するポーションの改良案」「今のポーションを安価にし、平民でも買いやすくする方法」などを考えていた。単純に「身近な人々が健康に長く生きるために必要なもの」を、と考えた結果だった。



「まだ薬草の種類や選別もできていませんし、そもそもできるかどうかもわからない段階ですけど……」

「大丈夫だ。やることがわかっていれば、少しずつ根回しを行えるからな」

「ライアンなど、そういったずっと動き回らなくてはいけない案件が大好きですよ」



 現在、伝承について調べ回っている同僚の名前を聞いて、レオノアとサミュエルは微妙そうな顔をした。

 ライアンなら、テンションぶち上げで並行して仕事をするのが目に見えている。高位貴族の令息が、なぜまだ十代にもかかわらず、あそこまで働くのが大好きなのかがわからない。



「ライアンな……。あいつ、休みを取らせたはずなのに、嬉々として何かを調べているらしい。いっそのこと、謹慎させた方がいいか?」

「クローヒ侯爵夫人が嫌がりそうですね」

「しかし、倒れるまで働くだろう?あいつ」



 呆れた顔のカイルに、レオノアは「殿下も大変ねぇ」なんて思っていたが、彼女もまた原因の一端であることを考えもしていなかった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


カイルがレオノアの心が読めたら「お前が言うな」って言うと思う。

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