37.魔力遮断の魔道具
「潜り込ませた影の報告によると、あの女の影響がほとんどないといっていい状態になったそうだ。よくやってくれた」
「……その代わりに、良くも悪くも自身に作用する魔法が一切効かない状態になってしまいましたが」
自白させる魔法なども遮断できるのは良かったかもしれないが、やはり力の底上げや治療の魔法も効かなくなってしまったのは残念であったレオノアは苦々しいとでも言うような表情をしている。
「薬にだって副作用があるものだ。それと何ら変わらない」
カイルはそう言って手を組んだ。カイルからすれば、マリアにのめり込んでこの国の情報を垂れ流そうとするならば、どちらにせよ処分しなければならないのだ。その害がなくなることを考えればむしろ、人が死ぬことは減るはずだ。
とはいえ、現状仮にも王家に守られた彼女を暗殺する手段はそう多くはない。他者からすれば異常ともとれる状況を、マリアは謳歌している。逃げたいとも思わず、むしろもっともっと、と貪欲に手を伸ばそうとしている。
「褒美に爵位などどうだ?」
カイルが冗談めかしてそう問うと、「研究時間が減りそうなので別にいらないです」とレオノアは真面目に返した。
「私は、サミュエルとずっと一緒にいることができて、好きな研究と読書ができればそれでいいのですが」
「お前はそう言うよな」
カイルからすれば、国に縛り付けておきたいことや、これからも側近として採用したいこともあって、爵位を与えて永住させたい。しかし、やってしまえば、彼らはさっさと見限って違う国に去ってしまうことが予想される。
欲しい人材が一番、そういったものに無頓着なのだ。
「まぁ、金銭なり希少素材なり、ある程度なら用意できるぞ」
とりあえず、ある程度の好感度は保っておかなければならない。縛り付けるのは悪手ならば、「庇護者としてカイルがいるから、ここで生活してもいいかな」と思われる程度の暮らしを用意するくらいしかできないだろう。
「本当ですか!?それなら、私、金属に詳しい鍛冶師を紹介してほしくって」
「待て。お前、何を作ろうとしている」
「少し大きめの魔道具を作りたいって少し前から思っていたんです」
キラキラした目で見てくるレオノアを見て、カイルは少しだけ大変なことになる気配を感じた。ただでさえ、改良型の馬車で軽い騒ぎを起こした部下だ。何を作ろうとしてもおかしくはない。
「まずは企画書を出せ。私だって、無制限で金を出せるわけではないからな。概要は知っておく必要がある」
「そういうものですか?」
「当たり前だろう。私たちが使う金の出どころは民からの税だぞ」
呆れたようなカイルの返答に、少し冷静になったレオノアが「確かに……」という顔の後、背筋を伸ばして真顔になった。
「それでは、明日にまた企画書をお持ちします」
「いや、今日はまだ仕事もあると言っていただろう。数日開けても構わないぞ」
「いえ、鉄は熱いうちに打てといいます。殿下の気が変わらないうちにご相談して予算をつけてもらわなくては」
レオノアがまだ何を作りたいかを知らないカイルだが、やたらと燃えている彼女の圧に負けて、「そうか、頑張れよ」と送り出した。
「一晩でそんなに大掛かりな魔道具の企画書を持ってくることはないだろう」
考えすぎか、と温くなった茶を飲んだカイルは少しほっとした顔をした。
そんな彼がレオノアの持ってきた『自動魔導車』の企画書を見て泡を吹いて倒れそうになるのはしっかり翌日の話である。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
サミュエルはウキウキと企画書を抱きしめて執務室に向かうレオノアを見ながら、「アレ、金かかるだろうな」と思ったという。