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35.二人の距離


 恋人同士になった二人の距離感は、というとあまり変わることはなかった。元から距離が近いのだ。正式にそういう関係になったが、元からそういう関係だと学園で出会った人たちは考えていたし、サミュエルの家族もカイルたちも「いずれはそうなるだろうな」と思っていたので、報告したところで「ああ、そうか。おめでとう」くらいの反応である。

 唯一、ゲイリーだけはショックを受けていたが。



「あまり驚かれなかったな」



 サミュエルは意外そうにしていたが、レオノアは「そうでしょうね」と返しながら、本のページを捲っていた。



「私があなたを好きなことなんて、あなた以外のほとんどが知っていたわ。人のことを言えないのよ、サミュエルは」



 レオノアのそんな言葉に、サミュエルは大変ショックを受けたような顔をしていた。「え、いつから……いつからだ?」と小さな声で呟く彼に、「いつからでもいいのではない?」とさらりと返した。

 その間にも、本を見ていたレオノアは探していた記述を見つけてノートに書き入れる。次に、必要な実験道具や懸念点の書き出しに移る。



「サミュエル、そちらの記述はどうだったかしら?リリスの花に関するもので想定していた効果はあった?」

「……あったよ。花を煮詰めて高濃度化させることで効果が高まるとされているようだ」



 あまりにも態度の変わらないレオノアを見ながら、サミュエルは溜息を吐く。



(まぁ、俺たちが別人になったわけでもないし、いきなりいろんなものが変わるわけがないか)



 そこから切り替えて、いつも通りに資料の用意や必要な道具の発注などの作業に向かう。レオノアの書いたノートに記載されている物品の確認をしていると、見られていることに気が付いた。



「どうかしたか?」

「いえ……いつも通りって案外難しいのねって思っただけよ」

「君はいつも通りに見えるけれど」



 サミュエルの言葉に、レオノアは瞬きをして不思議そうに首を傾げる。



「好きな人と一緒にいるのだもの。ここがドキドキするわ」



 胸に手を当てて、真っすぐにサミュエルを見つめるレオノア。薄紅に色づいた頬と耳から、彼女が照れていることがわかる。

 一瞬、脳が処理落ちしそうになったサミュエルだが、言われたことを理解すると、彼の方も顔を真っ赤にした。狼狽えるサミュエルを見て、レオノアは「ふふ」と笑う。



「あなたもそうであると、嬉しいけれど」

「き、君ってやつは……!」



 真っ赤な顔を隠すように手のひらで覆うサミュエルが、レオノアにはどこか愛らしくも見える。



「……俺だって、ずっと君のことが好きなんだ。一緒だよ」

「なら、いいの。ずっと、私だけを見ていて?」



 そう言って、サミュエルを見るレオノアの瞳に、彼は己と同じ執着にも似た感情を見つけた。

 赤い瞳に、魅入られるように彼はしばらく彼女から目を逸らすことができなかった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


元々が「婚約者に執着し、ヒロインと敵対することで破滅に向かう悪役令嬢」であり、その要素はレオノアの中にも残っているんだからある程度無理もない話かもしれない。

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