〜幽霊ならどれだけ相手が強くても勝てますよね?〜
私は幽霊になった。
死んだ時の記憶は残っていないけど、少なくとも充実した人生は遅れていなかったんだと私は思う。なんせ、幽霊になるくらいなんだから。
でも、数えるくらいしかない生前の思い出に、こんな幻想的な世界は無かったと思う。
「あ、あれ?」
大粒の涙が頬を伝う。目頭が熱い。
大きな黄金の木が遠くに生えていた。私の周りには青々と草原が見渡す限りに芽ざしている。
そこは見渡す限りの星の海があり、今にも落ちてきそうな大きな星が空にあった。
こんな綺麗な景色、はじめてかもしれない。景色を見て涙を流すなんて、初めてだ。
で、私の体は浮いていた。
「あれ、これって動けるの?」
腕を思いっきり振っても、あるようで無い足の微かな感覚を頼りにしても、全く動けない。
「え、このまま動けないで人生終了!?いや、もう終わってるんだけど……」
次の瞬間、強風が私の体を吹き付けてきた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!成仏しゅるぅぅぅ!!って、あれぇ?」
物理耐性100%でした。実体が無ければなにも効かないよな、そりゃ。
「ねぇ、あなただあれ?」
この声はどこから!?
「え、だ、誰?」
「ここだよっ!」
草むらからちょこん、と顔を覗かせたのは、可愛らしい少女だった。
「君かわいいね。このあとホテルにでもどうかな?」
「ホテル?は分からないけど、かわいいのは認めるよ」
ちっ、生意気なガキが。
「図に乗りやがって。こちとら……あれ、私って何歳なんだろう」
少女はこちらに近づき、顔を覗き込んだ。
「記憶が無いの?」
「うーん、覚えていることはあるんだけど……って、アンタ誰よ?」
「私はミミ。あなたは誰なの?それと、なんで一人で喋ってたの?他にも仲間がいるの?」
ずっと聞かれてたのか……
「私は違う世界で死んで、この世界で幽霊になって転生したみたい。仲間はいないよ。」
転生というより、なんていうんだろうね?
「動けないー、って言ってたけど、もしかして今、困ってる?」
「そう!そうなんだよー!急にここにいてさー。綺麗な景色が見れたのはいいけど、歩き方が分からないんだよ!」
「へー。じゃあ力を貸してあげようか?」
「え!私を動かせるの!?言っとくけど、重いよ?」
そう。私は重い女なのだ。
「大丈夫。ちょっと危険だけど」
「ちょ、危険って……」
最後まで喋る暇も無く、私に向かいあい、ボクシング選手みたいにファイティングポーズを決め、って、まさか……
「なにするつもり!?」
「"ストレイトフィスト"!」
少女が拳を突くと同時に、空気が揺れる。拳は私の体を貫通している。
なんてパワーだ。草原がざわめく音がしばらく続いた。
「あっれー、なんにも効いてないみたい」
「殺す気!?って言っても、予想はついてたけどね」
「うーん、じゃあ、お姉ちゃんはずっとそのままだね。じゃあ!また明日!気が向いたらくるよ!」
「え、ちょっとちょっと!……あ、そうだ!」
幽霊といえば、なんか能力があるんちゃうか?
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「ちょ~っとさ、私の体と重なるようにしてくれないかな」
「え?なんで?」
「いいから、ね?」
あんまり気乗りしてないようだが、来てくれた。
「ムムムム……」
乗り移れ……乗り移れ……。
「何してるの?」
乗り移れ……。
「ねえ、もう帰っていい?」
……!
「え、なに、なんか変なんだけど」
憑依できたぜ!
「って、あれ?お姉ちゃんどこに行ったの?」
『ここだよ〜』
「わっ!私の中にいるの……?」
『フフ、お前の体は俺のもんだぜ』
「えーい!でてけ!乗っ取らないで!」
『嘘だよ。っていうか、声出す必要ないんじゃない?』
『……聞こえる?』
『バッチリだぜ』
『何したの?』
『憑依っていってなぁ。俺の7つある能力の1番弱い能力だぜ。おっと、ビビって小便漏らさないでくれよな』
……適当だけど。
『え、お姉ちゃん見た目より強いんだね。そんなヒョロいのに』
『失礼な!これでも一般的な日本人女性よりは健康的な体してんだぞ!』
『にほんじん?』
『まあ、話は後にしない?とりあえず君の家に行こうよ』
『……あの』
『どうしたんだい?嬢ちゃん』
『お母さんにばれたらお姉ちゃん死んじゃうかもよ?』
え、まじかよ。幽霊の私、異世界で最初に会う人が除霊師の娘だった……?。不運すぎ。
『まあ、一度死んでる体だし、その時はその時ってことで』
『後悔しても知らないからね〜』
そう言うと、少女は走り出す。
『うぉぉぉぉ!!ちょ、ちょっとーー!!』
なんやこの女の子!?電車並に速いぞ!?景色が全然見えん!
『どうしたの?』
『速い!速いって!幽体離脱しちゃうって!』
『速いって、どこが?こんなの普通だと思うけど。お姉ちゃんの言ってること、たまに分からない』
普通だと!?異世界の普通は信用できない。
『あばばばば……』
なんか気持ち悪くなってきた……。




