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愛のお話はクリスマスイブに完結したい!
そんな思いがいっぱいで、本日は2回投稿させていただきます。今回が本日の1回目となります。
次回の投稿が最終回となります。
よろしくお願いいたします。
俺はアルコール依存を専門にする病院を訪ね治療を開始し、勇気を出して自分の依存症を国民に公表した。
「私は…弱い男です。辛い出来事が忘れられず、酒に溺れました。そして、酒浸りになり荒れた暮らしをしていました。
でも、私は弱い自分を受け入れ、前に向かって一歩を踏み出そうと決めました。そのために、きちんと治療を受けることにしました。
これから私は、王太子として皆さんに受け入れてもらえる様に生活を改めて参ります。」
それからは俺が親衛隊と共に騎馬で街に出ると、皆が笑顔で俺を見る様になった。頑張ってください、応援してますと声を掛けてくれるようにもなった。
隠さず、ちゃんと公表してよかった。
皆が温かく俺を見守ってくれているのを肌で感じる。それが俺が前に進んでいくための力になった。
世話係のビクターとアランには、以前手を挙げてしまった事をきちんと詫び、これからもよろしく頼むと頭を下げた。2人は、滅相もない事でございます、とただただ恐縮し、うっすらと涙を浮かべていた。
本当にごめんね。心配かけた…。
これからも気づいた事は言っておくれよ。至らない所は直すからね。
最後に2人の手を取ってそう言うと、2人とも大泣きしてしまい、俺の方が狼狽えた。
王太子としての執務もこなせる様になってきたが、調子に乗り過ぎると酒を思い出しそうで怖かった。でも皆が支えてくれた。
本当に有難い事だと思う。前はそんな事にも気づかなかった。酒に飲まれた経験は悪いことばかりじゃなかったのかもしれない。
それから、気になっていたローリー達の事をどうにかしたいと、切れ者と言われるロッシュ宰相に相談をしてみた。
ローリー達を罰するのは簡単だが何かが違うと俺は思ったんだ。
「ローリー達だけでなく、生きる目的がなくなっている貴族の子息達のこれからの事を考えたいんだよ。知恵を貸して欲しい。」
そう俺が言うと、ロッシュはにっこりと笑った。
「貴族の次男、三男…彼等はやりたい事もないし、何かを自分で切り開く強い気持ちも、その知恵もない者が多いですね。何をどうすればいいのか分からないのですよ。そういう教育は受けていないですからね。
殿下はそんな彼等に生きていく手段を与えたいと?
分かりました。
一緒に考えてみましょうか。何か妙案が出てくるやもしれませんからな。」
それから何度も父上、ロッシュ、俺の3人で話し合った。
案がまとまった時、俺はローリー達を城の職務室に呼び寄せた。
ローリーは部屋に入るなり俺を睨み、私達を罰するために呼んだのですか、と言った。護衛をしていたジェイクが、ついっと前に出たが、俺はそれを手で押さえ首を左右に振った。
「俺はね、ローリー達を処罰するつもりなんかないよ。本当だ。悪いのは俺自身だからね。
痛い目にもあったけど、そんな事も全て含めていい経験をしたと今は思っているよ。
いや、その経験を生かさなくてはいけない、と思っている。」
そして、皆を見て気がついた。いつものメンバーの内、2人がいない。
「おい、2人足りないじゃないか…。マイクとナックはどうしたんだ?」
ローリーは、ふん、という顔をした。
「あの2人は街の男達と喧嘩し、殴り殺されたよ。2人揃って酷い死に様だったらしい。相手が誰かは分からずじまいさ。」
「…間に合わなかったか…!」
俺は唇を噛み締めた。
男達は、なんなんだよ、という顔をして俺を見た。
「今日、皆をここに呼んだのは、俺への貸を返してもらう為だ。」
ローリーは俺をまた睨んだが、俺は無視した。
「全員、新しく作る準騎士団に入団だ。
そしてローリー、お前を新しく結成する準騎士団の副団長に任命する。いずれは団長として皆をまとめてもらうが、とりあえずはここにいるジェイク パーカーが団長だ。ジェイクのそばで団長のあり方などを学んでくれ。」
「…準騎士団…ですか?」
俺は父上、ロッシュと話し合って、爵位を継げない、騎士になれない、職につけない…そんな貴族の子息で準騎士団を作る事に決めたんだ。
騎士や町役人だけではなかなか目が行き届かない下町や、王都以外の街の警備をしてもらう。守備範囲は広い。かなり忙しくなるだろう。
騎士に向かない、または、騎士は嫌だと言う者達には、準文官職を作り、忙しすぎる文官達の補佐をしてもらう。やる事は山のようにある、とロッシュは言っていた。
応募して来た者は全員採用する。しかし、強制ではないから、嫌なら応募しなければいい。
給料は騎士や文官よりほんの少しだけ安くなってしまう。だけど、暮らしていける金額は出せる。そして、有能な者はどんどん上に取り立てる。騎士団に入れるかもしれないし、文官になれるかもしれない。可能性は広がっていくだろう。
やる気を見せない奴は切り捨てる。出来るか、出来ないかではなく、やる気があるかどうかで判断する。やる気さえあればそれぞれの能力に合った仕事は必ず見つかると、ロッシュ宰相は断言していた。
「どうだろう…皆やってくれないか?
というか、嫌とは言わせないよ。役に立つ人間になれ。そして俺への貸をこの国に返してくれ。
マイクやナックのような犠牲者を出したくない。皆、そう思うだろ?」
皆はローリーを見た。
「なんで、私が副団長なのですか?」
「お前さ、みんなの事上手くまとめてたじゃないかよ。暴力は振るわないし、面倒見もいい。皆、お前の言う事はちゃんと聞いてただろ?お前、そういう才能があるんだよ。
チャンスは活かせ。」
ローリーはしばらく呆然とした後、俺の前に片膝をついて頭を下げた。他の男達も慌ててローリーに倣った。
「こういう時、俺達はなんて言えばいいんですかね。
ずっと昔に習いましたけど…忘れてしまいました。」
「これからまた1から習えばいいさ。
まだまだ俺達の前には道が続いて行くのだから、みんなで少しづつ前に進んでいこうよ。
まずは、身体を鍛えようか?」
そう言って、俺はローリーの肩をポンポンと叩いた。
まずは見た目からカッコよくするといい、とロッシュ宰相が言ったので、制服には力を入れてしまった…。
「かっこよく目立つのがいいのですよ。皆に見られてるという気持ちが行動にいい影響を与えますからね。」
ロッシュ宰相の言葉に、俺はなるほどと頷いた。
デザイナーに考えてもらって出来上がったのは、黒い制服に黒いベレー帽、思いっきり目立つ赤い羽。試しにローリーに着てもらったら、ものすごくかっこよかった。
ローリーはいいですねぇ、とうれしそうに笑っていた。
1年もすると、準騎士団はしっかりとした組織になった。
街の治安は良くなって、安心して日々を過ごせると言われるようになった。特に地方都市からは感謝の言葉がたくさん寄せられている。
多くの準騎士や準文官が人柄を見込まれて、貴族や豪族に婿入りしたり、養子として家を継ぐ事になったりした。
嫌われ者に等しかった貴族の子息達にも少しづつ笑顔が見られるようになった。
ローリーは準騎士団の団長になり、あちこち飛び回って忙しく働いている。
なかなかに厳しいが面倒見はいい団長だ、と補佐をしているジェイクが言っていて、俺に仕事の報告をしに来るローリーは以前とは違う逞しさを感じるようになった。
最近、俺はゾーイの事を考えるようになった。
昔みたいに、何故俺を捨てたんだ…みたいな事ではなくて、本当の理由を客観的に考えるようになったんだ。
そして、やっと気がついた。
俺はゾーイの事を知ろうとしてなかったんだな…ってね。寂しそうにしているゾーイと話す事もあまりなかったし、護衛がついてるから大丈夫だと思い込んでいた。時間がなかったなんて、言い訳だ。
思いはちゃんと言わなければ、相手には伝わらない…。
こんな簡単な事すら俺はわかってなかったんだな。
そして、以前ならそれに気がついても後ろ向きにしか考えられなかったけど、今は違う。俺は今からどうすればいいのかと考えられるようになってきたんだ。
少しはマシな人間になった、のかな?
こうして、コペル男爵と約束した2年が過ぎ、15歳だったソフィアも17歳になった。
次回が最終話。本日2回投稿です。