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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜
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8

 病室の控えの間で待っていたコペル男爵に、2人きりで話したいと俺は言った。


 城はすぐそこだから少し歩きたいのだが、いいだろうか?


 コペル男爵が頷いたので俺達は城まで歩き、更に四阿まで行って腰掛けた。


 ぞろぞろと付いてきた者たちは声の聞こえない所まで下がらせ、暗くなった四阿に俺とコペル男爵の2人になった。

 

「ここで私はソフィアと3日毎に会っていたんだ…。」


 俺はコペル男爵にそう言ったが、後の言葉が出て来なかった。あの体でソフィアは病院からここまで歩いたのか…と胸が痛くなってしまったのだ。


 コペル男爵は立ち上がり、俺に頭を下げた。


「セオドラ王太子殿下。娘が大変無礼な事を…。申し訳ございません。コペル家にどんな沙汰があっても受け入れます。ただ、ソフィアだけは許していただけないでしょうか…。まだ夢見がちな子供でございます。」


「まぁ、待て…」


 俺はコペル男爵を座らせ、大声でジェイクをそばに呼んだ。ジェイクは俺の前で片膝を付き畏まり、何かご用でございましょうか、と白々しく言った。


「お前だろ?こんな事を考えたのは…。」


 バレましたね?とジェイクはひどく真面目な顔をして俺を見上げた。


「こんな事を考えたのはソフィア嬢で、私はちょっとばかり手助けをしたのです。先程、侍女のアリス殿が言っていた通りなのですけど…。」


 とても不審な手紙が国王陛下に届きましてね、とジェイクは笑いを堪えるように言った。


「あれは何ヶ月前でしたか…。」



 国王陛下に宛てた一通の手紙が届いた。


 コペル男爵家からの手紙で、正式な蝋印鑑がされてはいる。しかし、書き方が正式なものではない。何かおかしい。ニセ手紙にしか見えない。

 

 不審に思った担当の事務官が封を開けると、セオドラ王太子殿下との見合いを受ける、と書いてある。


 どうしたものか、と困った事務官は、仲の良いジェイクにこっそりと相談をし、ジェイクは任せておけとその手紙を受け取った。


 コペル男爵家からはすでに正式に見合いを断る書状が届いている。そして新たに届いた、いかにもニセモノなその手紙が事件になるというほどの事もない。


 放っておいてもいいのだが、なんとなく気になったジェイクはこっそりと魔力を使ってコペル男爵家に入り探ってみた。


 すると、こんな会話が聞こえた。


「国王陛下からのお返事はまだかしら?

 ねぇ、アリス。どうしたんだと思う?」


「ソフィアお嬢様、焦ってはいけませんよ。その内、きっとお返事が参りますからね。」

 

 少し調べてみると、ソフィア嬢は体が弱く入退院を繰り返していている事がわかった。


 きっと他の同じ年頃の女の子のような楽しみがないのだろう…。


 そう思ったジェイクは国王陛下の許可を得て、病気がちな少女に小さなプレゼントのつもりで返事を出した。場所と日時を指定して、俺に会えるようにしたのだ。


 まあ、それでどうなるという事もないだろう。ソフィア嬢が喜んでくれればいいのだが…。

 でもなぁ、セオドラ殿はあんなだから、会ってもガックリするだろうな。

 これでこの騒動も終わりだろ。


 そう思っていた、とジェイクは少しだけ肩をすくめた。


 その上、指定した日の前にソフィア嬢は体調を崩して入院してしまった。だから、残念だが会いには来れないだろうとジェイクは思っていたという。


 ところが、ソフィアは四阿で待っていた。


 それどころか…。

 俺とソフィアは何回も会っているし、話も弾んでいる。


「まあ、ここはひとつ、暖かく見守ろうと思っていたのです。

 ここ最近、ソフィア嬢の容体が良くないのは知っていましたが、セオドラ王太子殿下が何も言い出さないので、どうしたものかと考えておりました…。」


 しらっと言うジェイクをひと睨みしてから、俺はコペル男爵に言った。


「と、いう事だ。コペル家に何か罰を与えるなら、この男には厳罰を与えねばならん。それはちょっとばかり面倒だし、この男がいないと困る事も多い。

 まぁ、コペル男爵家にはなんの罪もないよ。心配はいらない。」


 それよりも…。


「コペル殿。許しを得たいことがある。

 これからも私がソフィアと会う事を許可してもらえないだろうか…。」


「…えっ?」

 

 コペル男爵が思わずといった感じで声を出した。

 

「私の最近の暮らしぶりは知っているだろう?

 私はどうしょうもない飲んだくれになってしまった。その理由もコペル男爵なら分かっていると思う。私は自分の辛い気持ちを酒で紛らわし、酒に浸かってしまった。私は本当に弱い、どうしようもない男だ。


 でも、ソフィアに出会ってから、私の心が少しづつ軽くなってきた。ソフィアといると自分を取り戻せる、前を向いて進んでいける…そう思えるんだ。


 でも、今の私のままではソフィアに…相応しくない。


 だから、もう少し、もう少しだけ時間が欲しい。

 飲んだくれの私が、まともに戻れるまで待っていて欲しいんだ。

 こんな男では、そう願う事すら叶わないだろうか…。」


 何を待てと?

 という顔をするソフィアの父親に、俺は立ち上がりは頭を下げた。


「私がまともな王太子に戻ったら、ソフィアと結婚を前提とした交際をする事を許して欲しい。」


 ソフィアの父は大きく息を吐いた。


「セオドラ殿下…」


 頭を上げてお座りください、とコペル男爵は俺を見た。


「ソフィアはまだ15歳ですし、本人の気持ちもわかりません。」


「それはわかってる。だから、ソフィアが大人になるまで待つ。

 大人になって、ソフィアが私と一緒にいるのは嫌だ、結婚するのは嫌だと言ったなら、私はそれだけの男だったという事だ。きっぱりと諦める。無理強いはしない。それは誓う。

 私はソフィアに幸せなって欲しい。

 2人で一緒に幸せになりたい。

 どうだろう…許してもらえないだろうか?」


 コペル男爵はしばらく黙っていた。


「ソフィアが17歳になるまで待つ、という事でよろしいですか?婚約をするとか、そういう事ではなく…。

 そして、ソフィアが17歳になった後にあの子の気持ち、そしてセオドラ殿の気持ちがどうなのかで決めてはいかがでしょう?

 

 あの子の体があと2年も持つのか…それも心配です。病状は思わしくありません。


 私はソフィアにも家人にもこの事は何も申しません。

 あとは殿下とソフィアの問題です。」


 俺はコペル男爵に深々と頭を下げて言った。


「私はソフィアに相応しい男になる努力をします。

 誓います!」




 それから俺は父上である国王陛下にすぐに会いに行った。


 今までの自分の愚行を詫び、心を入れ替えると話した。今回の事を説明し、ソフィアが自分を目覚めさせてくれたと言うと父上は、うんうんと頷いて、よかった…とおっしゃった。




 俺がソフィアに直接してあげられる事はあまりない。

 

 それはわかっているが、俺はソフィアに会いに毎日病院に行った。顔を見るだけしかできない時も多かったが、毎日行った。


 病室は花を絶やさないようにした。ソフィアが楽しく過ごせるように。

 新しい本もたくさん部屋に持っていった。いつでも好きな時に読めるように。


 ソフィアが、わたくしなどのために無理はなさらないで下さいませ、と何回も言うので '幸せを感じるやりたい事' に大きな字で書いた。


 ソフィアに毎日会う事

 ソフィアの手を毎日握る事

 ソフィアに元気になってもらう事

 ソフィアとずっと一緒にいる事


 そして、小さな字で付け加えた。

 …早く大人になってくれ。子供にはキスもできん!


 ソフィアはそれを読んで真っ赤になった。そして、わたくし…と言ったまま泣き出してしまった。




 あとは…俺自身の問題だった。前に進むために、やらなければならない事が沢山あった。

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