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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜陽の差す方へ〜
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 俺とソフィアが結婚して5年たった頃の話だ。 


 俺とジェイクが未来から戻ってきてから3年経ち、俺とジェイクが知っていた '過去の未来' とは少し違う世界になっていた。



 病院と男爵家の自室を行ったり来たりする、病弱だった17歳のソフィアは、22才。ずっと体の調子が良かった。


 なのに一時期、ソフィアの調子が悪く起き上がれなくない朝が続いて、俺はとても心配した。以前なら、このまま入院する事も多かったから。


 そんな状態が続いたある昼下がり。

 何日か起き上がれなかったソフィアが、お話があるのですと俺を四阿に誘った。その手には、幸せを感じるやりたい事を書き溜めているノートがあった。


 四阿のある庭には今年もたくさんの赤いチューリップが咲き、皆の眼を楽しませてくれていた。


 椅子に座ったソフィアの膝にそっとブランケットを掛けたアリスは、温かい薬草茶とクッキーを置いて、ソフィアの顔を見た。


「ありがとう、アリス。わたくしは大丈夫よ。」


 にっこりと微笑んだアリスは、お辞儀をして下がって行った。少し離れた所では、ジェイクとジュエルが俺達の護衛についていた。


 ソフィアは、何年か前の古いノートのページをパラパラとめくり、そっと俺に見せた。


 そこにはこう書いてあった。

 


 セオドラ様のお子を産む。

 お子を2人で育てる。



 ん?

 えっ?


「セオドラ様。

 わたくしの、幸せを感じるやりたい事が…1つ、叶いそうです。」


 ソフィアはそう言って、お腹をそっと撫でた。


 えっ?

 

 口が乾いて、はっきりと言葉にならなかった。


「…こども?…ソフィアの…おなか…に?」


 にっこりと微笑んで頷くソフィアを、俺は抱きしめた。


 ありがとう、とか、嬉しい、と繰り返した。

 体は大丈夫か、こんなにきつく抱いたらダメだな、とかも言ったと思う。

 そして、たくさん食べなきゃいかんだろ、などと言ってクッキーをソフィアの口に入れ…。


 拳を握り締め、立ち上がって叫んだ。


「うおぉぉぉ〜っ!」


 ジェイクとジュエルが臨戦体制ですっ飛んで来た。


「殿下!」「ソフィア様!!」


 腰を低く構えて辺りを見渡した2人は、異変はないと確認して、何事か…という顔で俺を見た。


「ソ、ソフィアのお腹に、…お、俺の子が……!」


 俺は泣きそうになっていて、ソフィアはそんな俺を見て微笑んでいた。


「セオドラ様。

 昨日、わたくしはマリアンヌに付き添ってもらって、産科医の診察を受けたのです。生まれるのは冬の初め頃だそうです。

 ちゃんと産科医に診てもらうまで話さない方が良いと思ったので…。

 お父様になるセオドラ様にご報告が遅れました。」


「お、お父様って…俺が…?」


 俺だよ。俺はお父様になるんだよ!

 

 ジェイクもジュエルも護衛である事を一瞬忘れて喜んでくれた。




 その日の午後、俺は舞い上がり、ほとんど仕事も手につかなかった。早々に自室に戻り、ソフィアをずっと抱きしめていた。


「ソフィア、大事にしなきゃ行かんだろ?

 辛くないかい?あまり動かんほうがいい。」


 そんな事をいう俺をソフィアは笑った。


「過保護にしてはよくないのです!適度に体を動かすのが良いのだと言われました。」


 次の日にルークとマリアンヌがやって来て、俺の顔をまじまじと見て言った。


「殿下…。デレっとしておられますな。無理もない…。」

 とルークが言い、マリアンヌはやれやれ…といった顔だった。


「セオドラ殿下。」


 マリアンヌが俺の顔を見た。


「今日は殿下に妊娠出産の勉強会を勧めに参りました。子が生まれる前の勉強会に参加し、出産に立ち会うのでございます。」


 えっ?お産に立ち会うの?

 なんだか、ワクワクする。


「セオドラ様、勉強してくださったら、わたくしも、心強いと思うのです!」


 ソフィアは俺に抱きついて、そう言った。

 

 そこまで言われてはね、と俺はソフィアと2人で勉強会に参加した。


 妊娠中の話を聞いて、なるほど、じっとしててはいけないのか、とか、食べる物も気をつけねば…などと学んだ。

 そして、赤ちゃん人形でオムツを替えたり、抱っこしたりしたが、結構苦戦した。ソフィアはそんな俺を見てなんだか嬉しそうだった。


 

 勉強会にはジェイクとジュリアも来ていてた。


 ジェイクは庭の四阿でジュリアに結婚を申し込み、無事に愛を実らせた。そしてジェイクにも、もう直ぐ子が生まれるのだ。


 ローリーはすでにローズとローリーJr. という名の双子の父親になっていて、俺とジェイクの先生となり、色々と教えてくれた。


 色々…というのは勉強会で教えてくれるような事ではなくて…。もう少し、男としての心構えのようなもので、大事なことなのですぞ、とローリーはひどく真面目な顔で教えてくれた。




 俺とソフィアは幸せを感じるやりたい事のノートに、たくさんやりたい事を書いた。


 子供が生まれたら…

 その子が大きくなったら…


 俺達のやりたい事はどんどん膨らんでいった。




 そして、ソフィアと俺は男の子を授かった。

 体も弱く、細いソフィアなので心配した通り、ものすごく難産だった。出産に立ち会った俺は、ハラハラしてソフィアの手を握り締め続けた。


「セオドラ様、大丈夫です。ちゃんと産めますから。産んでみせますから!

 だって、わたくしはお母様になるのですもの。」


 

 長い時間を掛けて生まれてきた子はとても小さかったが、大きな大きな声で泣いて、生まれてきた喜びを体で表していた。

 その生まれたばかりの息子を抱いて、俺は大泣きした。


「ソフィア、頑張ってくれてありがとう。

 アルバート、生まれてきてくれてありがとう。」

 

 男の子ならアルバートと名付ける、と俺達は決めていた。


 我が子を腕に抱き、俺は心を新たにした。

 アルバート達が幸せな日々を過ごせる国、スカーレットを守って行く。


 俺はまた1つ…やりたいことを見つけた。



 アルバートはムニムニと手を伸ばし、大きな欠伸をした。平和なその顔を見ていると、辛かった昔の話はどうでもよくなってしまった。


 今を大事に生きていこう。ソフィアとアルバートと共に、幸せを見つけていこう。

 俺は、そう思った。




次話が、王太子の結婚の最終話となります。




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