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本日、2話目の投稿となります。
今までパール国に対して、俺達がずっと堪えていたのは、まだ少年のトルディアン王子が成人するまで待つためだったが、もう容赦はしない。
そう決めてトルディアン王子と話し合ったのは、タマラ国との戦いが始まった時だった。
もうすぐ13歳になるトルディオン王子は、父と義兄達を倒す事にはなんのためらいもない、とキッパリと言い切った。
「スカーレット国とタマラ国が戦さを始めた理由など、父と義兄達が考えているとは思えません。あの人達の頭の中は、自分の欲望を叶える事しかないのですから。
側近達は分かっていて何もしない。今頃、城の中にある財宝などを持って逃げる手筈を整えている事でしょう。
ですが、軍の司令官達は違います。パール国の行く末を本当に危惧しています。私がまだパールにいた頃、司令官達がそういう話をしているのを聞いた事があります。
ですから、まず、私は軍の司令官に会ってみます。
私はまだ修行中の身ですが、人の心を読む力はコントロール出来るようになってきました。この力を使って、パール国の立て直しをします。」
そう言った後で、トルディオンは頭を下げた。
「セオドラ殿下、お願いがあります。
事が成った後、私に助言をしてくださる方を1人、1年だけお貸し下さい。毎日パールにいなくても構わないのです。まだ未熟な私には友好国スカーレットの後ろ盾がある、その事実が国民に安心を与えるでしょうから。
フィルは来るなと言っても私に付いて来るでしょう。フィルのご家族には申し訳ない事です。
パール国が落ち着くまで母をお願いします。一緒に帰らずとも問題はありません。
それと、ひたすら自分の出自を隠している私のおばば様、エリの事も、よろしくお願いします。
我が手が血に塗れても、パール国の民の事を思えば前に進めます。
明日、国に戻ります。
幸運を祈ってください。」
あぁ、その言葉。前にも聞いた。
トルディオン王子は、本当に聡明な少年、いや、もう青年になっていた。
俺はトルディオンとフィルに魔力を込めた剣を贈り、武運を祈った。
あとは早かった。
トルディアン王子は軍の司令官と会い、パール国内の勢力関係を把握すると、現国王の政治に心の中で異議を唱えている有力貴族と手を組んだ。軍もトルディオン王子に味方した。
程なく、パール国はトルディアン王子が唯一の王位継承者となった。
愚鈍な王と王子達に絶望していたパールの国民は、トルディアンを受け入れた。スカーレット国が後ろ盾になると分かったからだ。
フィルがトルディアンの命を受けてスカーレット城に飛んで来たのは、トルディオン王子がパール城に凱旋する日が決まったと報告するためだった。
「皆様に私達の姿をみていただけないだろうかと、トルディオン殿下が仰せです。」
その日、俺達はソフィア、ハンナとエリと共に、服装を変えて凱旋の様子を見に行った。フィルの両親も一緒だった。
パール国の城門に続く道は人で溢れかえっていて、皆パールの国旗を手に、歓喜の声を上げていた。
トルディオンとフィルは俺達に気づき、微笑んで片手を上げた。
鎧に身を包んだトルディオンは馬に跨り、片手に兜を持っていた。その指には、正当な王位後継者の印である王家の紋章の入った指輪が輝いていた。
トルディオン王子の燃えるように赤い瞳は爛々と輝いて、その身に赤いオーラを纏っているようだった。
フィルはその後ろに馬で従っていた。澄み渡る様な青い瞳で辺りを警戒し、トルディオンを護る立派な騎士の姿だった。
それを見て、もうこの国は大丈夫だ、と俺は確信した。
クリムドールがパール国と結託して起こした事件から、もう3年近く経つ。
パール国の人質としてスカーレット国にやって来たトルディオン王子ではあったが、誠実で暖かな人柄や聡明さは、皆の心を捉えた。
パール国はトルディオン王子の元で、平和な国作りが進むことだろう。
俺の隣ではソフィアがポロポロと泣いているハンナの手を握りしめていた。エリは両手で顔を覆い、声をあげて泣いていた。
辛い思いを重ねて来たハンナとエリにとって、来るはずはない、と思っていた喜びの日だった。
いずれ、トンディオン王子の戴冠式が行われる。その日には、ハンナもエリも晴れがましい顔で参列するだろう。
トルディオン王子の後見として、1年だけルークがパール国とスカーレット国を行ったり来たりすることになった。
ルークは、パール国の軍人や文官の反発を予想していたが、意外な程に友好的だったという。これもトルディオンの完璧な根回しのおかげだろうと、ルークは言っていた。
リリウはしばらくの間パール国に滞在することに決めたようだ。トルディオンとフィルの強い希望だと聞いた。
…じい様は新しい国に興味があるのでな。
そんな事を言って、リリウはこれからも若い2人を見守っていくのだろう。
ハンナとエリはしばらくスカーレットに残りたいと俺に言った。
「私達に、パール国には帰らないという選択肢はあるでしょうか?」
2人にとってパール城は辛い記憶しかないだろう。そんな所には住まなくてもいい。スカーレット国のハンナの館は優しさで一杯なのだから、ずっとずっとここで穏やかな日々を過ごせばいい。
「もちろんですよ。いつまでも、いたいだけここにいて下さい。」
ソフィアはハンナの手を握って、嬉しそうにブンブンと振った。
戦いが終わり、スカーレット城にまた静かな日々が訪れた。
それは、俺とソフィアの小さな幸せを探す暮らしが、また始まる、ということだった。
皆のリベンジが終わりました。
これからもセオドラとソフィア、仲間達をよろしくお願い致します。




