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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜陽の差す方へ〜
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本日は2話投稿です。



 カーラの情報を元に探したタマラ国とパール国との契約書は、簡単に見つかった。


 タマラ国で探すよりパール国で探したほうが早い。暗愚な国王は机の中に契約書はそのままおいてある、と言うルークの読みが当たった。姿を消してパール城に潜り込んだルークの配下の者があっさりと見つけて帰って来たのだ。


 契約書には堂々と、スカーレット国を乗っ取って山分けする…という内容が書いてあった。


 契約書さえ手に入ればためらう必要もない。


 まず、自衛軍の兵士全員に鋼の鎧兜を纏わせタマラ国に攻め入った。鋼を纏った兵士達の前にタマラ国はなす術もなく崩れ去った。


 国王、王族を捕まえて胸から魔石を取り去り、連合軍で取り調べをする事になった。


 しかし、タマラ城の北塔にあるはずの魔石はどんなに探しても見つからなかったが、第2王子の言葉で隠したのが誰かわかった。


 …父の側にヒューイットが付きまとっていた。






 タマラ国との戦いで、ダニエル コペルは愛するフローラと息子カイセルの元にさっさと帰るため、阿修羅の如くに戦い、あっという間に数々の武功を挙げた。


 その内の1つがヒューイットの捕獲だった。


 ヒューイットはタマラ王に面白がられてタマラ城に滞在し、幻術の修行をしてはいたが、まだ何も出来ない小者だった。


 ダニエルは手こずることもなくヒューイットを連れて来た。




 俺達の前に引き据えられたヒューイットはデヘデヘと笑っていた。


「ダニエル コペル。こいつをどこで見つけた?」


「厨房の保冷庫の中で、ガタガタ震えておりました。」


 ふ〜ん。


「ヒューイット。

 俺を見ろ!」


 デヘデヘ…。

 デヘデヘ…。


「結構わかりやすい所にいたな。」


 デヘデヘ…デヘデヘ…。


「ふ〜ん。」


 俺はヒューイットを蹴り上げた。


「痛いよぉ〜。」

 

 デヘデヘ…。


 ヒューイットの顔をまじまじと見て俺は笑ってやった。


「タマラの王族から何か盗んだろ?」


デヘデヘデヘデヘデヘデヘ…へへへ…デヘデヘ


「当たりかぁ。」


 俺はニタっと笑った。


「お前だけは許せない。

 ルーク、こいつをカーラのいた部屋に閉じ込めておけ。飯とトイレだけはよろしく頼む。

 城の中が臭くなるのは嫌だから。」



 俺がその部屋に様子を見に行くと、ヒューイットはいつもデヘデヘしていた。だが、あの部屋に取り付けたマジックミラーの事をヒューイットは知らなかった。1人の時のヒューイットは俺達の目がないと思って、デヘデヘ顔をやめ唇を噛み締めていたのだ。




 タマラ国の事が一段落した時、俺はルーク、ジェイク、ローリーとヒューイットのいる部屋を訪ねた。


 ヒューイットは相変わらずのデヘデヘ顔で俺を見た。


「お前、すごい奴だな。ここにこんなに長くいて平気なんだから。

 もしかして…まだタマラ国が助けてくれるとか思って、待ってるのか?

 残念!

 タマラ国はもう滅んだ。

 タマラ一族の幻術はもう使えない。」


 デヘ……?


「お前がタマラ城から持ち出した物がどこにあるか、素直に吐け。そうすれば、これからの事をちょっと考えてやる。


 じゃあ、一度だけ聞く。二度目はない。

 痛い目にあう前に、全部吐け!」


 ルークもジェイクもローリーもニタニタと笑って頷いた。

 

「魔石をどこに隠した?」


 ヒューイットの顔はデヘデヘのままだ。

 

「10、9、8、7…、0!

 こいつを例の場所に連れて行け!」


 

 

 城の地下深くには拷問部屋がある。もう2~300年使われていないジメジメした暗い部屋だ。


 そこには年老いた男が縄に繋がれ、血だらけで床に転がされていた。


 デヘデヘ…と拷問部屋に入ったヒューイットの顔が、一気に引き攣った。


「お…親父!」


 ヒューイットは怒りに溢れた目を俺に向けた。


「親父は何も知らねえ。関係もない親父に何をするんだ!」


「ほほう…。

 普通に話せるじゃないか?」


 俺は右の人差し指をついっと動かして、ヒューイットを父親の前にある椅子に括り付けた。

 

「お前は父親を大事に思ってるよな。…真面目な父親を尊敬してるはずだ。

 子供の頃は父親の言うことだけは聞いていたそうじゃないか。」


 俺はヒューイットの父親の周りをぐるりと歩いた。


「ヒューイット、もう一度だけチャンスを与える。

 魔石をどこに隠した?」

 

「親父を解放しろ。そっちが先だ!」


 俺は父親の腹に蹴りを入れた。2回、3回…。父親の口からゴボッという音がして血が溢れ出た。


「可哀想な親父殿だな。大事に育てたはずの息子のせいで、こんな目に遭う。」


 俺が人差し指を動かすと、父親は拷問機に乗せられた。


「ヒ…ヒ…ヒュー…イット。助けて…くれ…。」


 父親の絶叫が拷問部屋に響いた。

 父親は意識を失っては水をかけられ、容赦なく拷問を受け続けた。



 ヒューイットは体を震わせて俺を睨んでいたが、がくりと項垂れた。


「やめてくれ。

 親父をこれ以上…痛めつけないでくれ。話すから…。」


 ヒューイットは魔石の隠し場所を吐いた。


 直ちにルークとジェイクがその場所に飛び、魔石を持って戻ってきた。そして、ヒューイットの目の前で魔石を叩き割った。


 拘束を解かれて立ち上がったヒューイットは、父親の元に駆け寄った。


「親父!親父!しっかりしろ!親父!

 …お…親父?」


 ヒューイットが抱きあげたのは、人形だった。


「ヒューイット。俺達が罪もないお前の父親を痛めつけると思ったのか?自分がそんな事をする人間だから、周りの奴も同じだと思ったんだろ?」


 拷問部屋に1人の男が連れてこられた。タマラ国の第2王子だった男だ。


 第2王子は取引に応じて、タマラ国の陰謀を全て吐き、ヒューイットに幻術を掛けた。代わりに俺は妻と生まれたばかりの子は逃してやると約束した。


 このやろう!


 第2王子はヒューイットに飛びかかり、殴りつけた。ヒューイットの顔が腫れ上がっても止めなかった。


「俺の親父はバカだ。お前みたいな奴を面白がるからこんな事になった。

 魔石があのまま、あそこにあれば、こんな事にはならなかったんだ。お前が勝手に持ち出すから…!

 

 あの場所は古からの力で魔石を守っていたんだぞ!なのに、お前は!馬鹿なお前はっ!

 あそこにあったのは魔石の原石だったんだ。あの原石を北塔から動かしたら、俺達の幻術の威力も失せてしまうのを、お前は知らなかったのか!

 お前のせいだぞ!

 お前のせいで、タマラ国は滅んでしまった。」


 第二王子はヒューイットを強く殴り続けた。


「地獄に行きやがれ!」



 

 ヒューイットは、北塔の魔石さえあればこの星の王者になれる、というタマラ王の言葉を信じていた。

 

「この星の王になって、俺の事を待っているソフィアを迎えに行くつもりだったんだ。

 俺の婚約者だったソフィアは俺を待ってるのに、かわいそうに、セオドラなんかと結婚させられてよぉ!

 俺の妻になりたいって言ってたんだぞ!」


 …俺の妻…ね。


 もう、話しても無駄だ。

 ヒューイットの処罰については、好きにして良いと父上の許可ももらった。


 ヒューイットの罪状は国家反逆罪。クリムドールと同じだが、ヒューイットはさらに貴族の娘たちを借金のカタに売り飛ばした、人身売買の罪も加わった。


 暴言を吐き続けるヒューイットは、話せないように喉を潰した。そして、額に星の刺青を入れた上に、王都を馬で引きずられるように歩かせた。


 そして、北の辺境にある古城の塔に送った。


 収監先はクリムドール達よりももっと過酷な、塔の1番上の小部屋。


 完全に窓を閉め切り、天井の小さな穴から糸のような光が差すだけ。水とわずかな食料が魔力で3日に1度届く。そんな暗闇の中で、残りの人生を過ごすだけだ。


 だが、これではまだ足りない。俺達が未来で味わったあの苦しみを思うと、まだまだ足りない。


 ヒューイットが狂ってしまわないように、時折魔力で正気に戻らせ、永遠の暗闇で生きていくようにした。


 だってそうしたいじゃないか!

 俺は暗闇の中を走り続けたんだぞ。

 ヒューイット、お前のせいで!

 

 ローリーも、ルークも…

 ジェイクも!

 お前のせいで!


 お前が…!!


 俺はヒューイットに言った。


「ヒューイット。

 お前に、惨めな最後を!」



 


 俺はジェイクに尋ねた。


「気が済んだか?」


 ジェイクは首を左右に振り、殿下は?と言った。俺も首を振った。


「でもさ、もう、これでいいかと思うんだ。

 あんな奴のために時間を使うのも馬鹿らしい。反省する事もないだろうから、放っておこう。」 


「ですね。俺達はやらなくてはならない事がまだまだありますからね。」


 俺とジェイクは青空に浮かぶ赤い月と青い月を見た。俺達の後ろにはルークとローリーがいる。


「さぁ、パール国に行ったトルディオン王子の様子を見にいこう!」


 俺はそう言って、ルーク、ジェイク、ローリーの顔を見た。



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