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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜陽の差す方へ〜
68/73

3


ジェイクのリベンジストーリー

パート1です。




 1週間後、俺の執務室に4人で集まった。


 ジェイクはカーラがタマラ国の第三王女であるという証拠は見つからなかった、と言った。


「でも、大丈夫です。私が直接カーラに吐かせます。」


 大丈夫か、と俺が聞くとジェイクは顔を歪めた。


「私は…カーラの事を全てと言っていいほど知っています。それこそ、背中の黒子の位置も、内腿の傷跡もね。」


 えっ?


「深くは聞かないでください。

 あいつは私達を苦しめてスカーレットの王になったのです。ですから、どんな手を使ってでも吐かせてやる。あの女がタマラ国の王女で、この国を乗っ取ろうとしているのだとね。タマラ王の弱点と解術の方法も聞き出しましょう。

 

 手強い奴だから時間がかかりますけど、俺はやりますよ。ただ、私1人だと抑えが効かなくなりそうなので、皆さんに立ち会ってもらいたいです。」


 辛い思いをしたのであろうジェイクは、それ以上の事は言わなかった。






 早くしないと皆タマラ国の術に嵌ってしまう、とジェイクは言った。そうならない様に急がねばなりませんといろいろな準備をして2週間後、ジェイクはカーラを城の小部屋に呼び出した。 


 ジェイクは窓からソフィアの庭を眺めていた。庭には雪がまだ残り、窓ガラスからは冷気が伝わって来ている。唇を噛み締めているその横顔には怒りが溢れていた。


 王太子の準正装に身を包んだ俺は、部屋の片隅で椅子に座り、入ってきたカーラを睨みつけた。カーラはそういう圧が苦手だとジェイクが言ったからだ。


 ルークは俺の斜め後ろに控えた。カーラの入って来たドアの前にはローリーが立った。


「な、なんでございましょうか?

 私に特別の任務があるというお話でしたが…。」


 カーラは少し驚いた顔でジェイクを見た。


 部屋の真ん中にぽつんとおいてある椅子を手で差したジェイクは、まあ、座りなさい、と言った。



 失礼します、と座ったカーラにジェイクはにっこりと微笑んだ。


「タマラ国のカーラ第三王女。

 今日のご機嫌はいかがですかな?」


 何をおっしゃるのですと言うカーラの側にジェイクは近寄って行った。


「あなたはご機嫌が悪いと凶暴になる。

 だから…。」


 パチン!

 

 ジェイクが指を鳴らすとカーラは動けなくなった。口を動かす事も、瞬きさえも出来ない。


「カーラ王女は瞬きでも幻術を掛けますからね。お辛いでしょうが、仕方ありませんねぇ。」


 ジェイクは笑った。


「誰かを呼ぼうと心で念じるのも無駄ですよ。」


 ジェイクはまたパチンと指を鳴らした。すると、部屋は壁、窓、床、天井、全てが鋼で覆われていた。天井に小さな灯が灯っている。


「あなたは鋼を嫌っていた。自分の力を吸い取るからと言ってね。でも、それだけじゃないですよね。鋼に囲まれると幻術が掛けられない。

 そうですよね?


 あぁ、それと…。

 あなたの魔力はもう使えません。私が取り上げましたからね。」


 ジェイクはゆっくりとカーラの周りを回り、その赤い髪を手に取った。


「カーラ王女。

 私はね、知ってるんですよ。

 あなたはソフィア様みたいになりたかったんだよね。白銀の髪。折れそうなほどに細い体。柔らかな笑顔。

 誰もがソフィア様の事を心配する。大事にされる。ソフィア様は皆から愛される。


 そうなりたかった。


 なのに、あなたは全く違う人生を強いられた。

 子供の頃から国王である父親の命令で鍛えられで、騎士ではなくて殺人鬼に仕立て上げられた。


 本当はそんなの嫌だったんでしょう?


 なのに、何も言えなかった。いやだと言うと折檻されて、小部屋に閉じ込められ、何日もそのままにされた。


 お可哀想なカーラ王女。」


 ジェイクはカーラの前に跪いた。


「カーラ。

 今の私はあなたの事をなんでも知っている。

 だってあなたは私と…。

 あなたと私はそういう関係だったんだ。私は嫌だったんだけどね。生き延びるために仕方なかったんだ。だって、あなたがこの国を支配して、王となったんだから。私に他の道はなかったんだよ。


 おや?なんの事だって顔をしてるじゃないか。

 わからないのかい?

 今の俺は未来から戻ってきたんだよ。


 だから、あなたの…お前の事はなんでも知っているよ。お前がこの先どうなるのか。お前のかわいそうな人生を知ってる。

 まあ、それはおいおい話して聞かせてやるよ。


 それに、お前がこれからこの国にしようとしている事も、知っている。

 お前ったら、トラビスの事をチクって、俺達の信頼を得ようとしたろ?わかってるって。パール国とつるんでたんだもんね。


 今すぐお前を消し去ってもいいんだ。

 でもねぇ、証拠がないからね。タマラ国を滅ぼすには他国が納得する理由がいるんだ。それはお前でもわかるだろ?

 だからさ、お前に全部話してもらう事にしたんだよ。」


 ジェイクは仁王立ちになり、カーラを見下ろした。


「お前は人を嬲るのが好きだよね。でもその反対は耐えられない。

 俺達がお前をじっくりと嬲ってやる。

 お前が自分の口から全てを白状するまでな。

 覚悟しろ。


 1日に1度食事を届ける。

 シャワーもトイレはないけど我慢するんだね。1日に1回、俺がきれいにしてやるから、ありがたく思え。


 あぁ、それから。

 この壁は少しずつ狭くなる。部屋の明かりはこの半分になるかな?

 嫌だねえ…。

 お前ってさ、狭い所も暗い所も怖いからさ、耐えられないね。子供の頃に閉じ込められた小部屋が余程怖かったんだね。


 さてさて、タマラ国のカーラ第三王女様。

 お前はいつ全てを白状するだろうね。」


 では…とジェイクはぱちんと指を鳴らし、カーラの拘束を解いた。


 カーラはジェイクに襲いかかったが、魔力も無くなったカーラはジェイクにあっさりと押さえられた。


「だからさ、ムダだって!」


 また明日来てやるよ、とジェイクはカーラの顔を見て鼻でせせら笑った。


 


 小部屋から出た俺達は、かける言葉もなくジェイクを見た。


「皆さんにいてもらって良かった。自分を抑える事が出来ました。じゃなかったら、私はあいつの首をへし折ってました。

 そんな事したら、あいつの口から何も聞き出せなくなりますからね。」


 と、ジェイクは言った。


 それから毎日、ジェイクはルークかローリーと共にカーラの小部屋に食事を届け、魔力で体を清めた。ジェイクは罵声を浴びせるカーラを睨み、鼻でせせら笑うだけで何も言わなかったと聞いた。


 



 1週間後、俺達は4人でカーラのいる小部屋に行った。


 俺達を見るなり、憎しみで眼をぎらつかせてカーラは言った。

 

「図に乗るなよ。タマラが私のことをこのままにしておくわけがかなろう。」


 ジェイクはふんっと笑ってカーラを見た。


「お前ってさ、自分が人気ないの、知らないんだね。残念な奴!」


 ぱちんと指を鳴らし椅子を出したジェイクは俺に、ゆっくりご覧くださいと言って座る様にと手で指した。


「セオドラ王太子殿下の前でこんな事したくなかったんだけどさ…。」


 ジェイクが右手の人差し指をさっと振ると、カーラの左の太腿が露わになり、ゆっくりと足を開かせた。


「なにをする!」


 カーラは怒りで顔をどす黒くしたが、ジェイクはケラっと笑った。


「お前の左の太腿に刀疵があるんだよね。おれ、知ってるんだ。

 ほら、これだよ。」


 ジェイクはそう言って、軍靴の先で傷を突いた。


「だってさぁ、俺、毎晩の様にその傷を舐めさせられたからね。傷が疼くんだろ?

 弟と喧嘩してやられたんだ。その仕返しに、お前ったら弟の寝首を取ろうとしたのに、失敗したんだよね。失敗して弟の顔に傷を付けた。


 お前の父親は大笑いして終わりで、お前も弟も怒られなかった。お前の父親は子供を愛してはいなかったんだな。


 でもな、お前の弟はお前の事、怨んでるんだぜ。あんなきれいな顔に生まれたのにさ、斜めに大きな傷が着いて…怨んで当然だよな。


 だから、お前、弟に殺られるんだ。

 お前の国王としての天下は、あっという間に終わりさ。ほんと、かわいそうだね、お前って。

 ちゃんと弟を消しておけば良かったね。


 いま、心の中でキトとミトが助けに来る、って思ったろ?

 残念!お前の愛人達は、お前に忠誠なんか誓ってないよ。弟をお前の寝所に手引きしたのは、キトとミトだ。睦みごとの最中で、お前は弟の兵達が来た事に気づくのが遅れたんだ。


 おまえ、人気ないんだよ。

 お前みたいな性格のやつ、誰も助けになんか来ない。いい加減、気付けよ。


 ほんと、残念な奴!


 どう?話す気になった?


 ならないの?やれやれ…。


 じゃあ、おまえ、もっとここにいようか?」




 更に1週間後。

 また4人でカーラを閉じ込めている小部屋に行った。部屋はどんどんと狭くなり、なんとも言えない匂いが立ち込めていた。


 部屋に入るなり、ルークが言った。


「くさっ!

 カーラ第三王女様、かなり臭い!」


 カーラは顔を背けた。


「ルーク殿、そう言ってはいけませんよ。私だって一応毎日来て、カーラ王女を綺麗にしてるんですけどね。本人が暴れたりするし。

 あぁ、でも、私は昨日はちょっとお出かけしていて…ここに来れなかったんですよ。


 仕方ないですね。王太子殿下に失礼ですから…」


 ジェイクは人差し指を振ってカーラ王女をきれいにした。


 ローリーがクスッと笑って、ありがたく思うんだねと言うと、カーラはローリーを睨みつけた。


「おやおや?まだローリーを睨みつける元気が残っていますか。しぶといね。

 仕方ない。このまま帰りましょう。」


 


 こうして、1ヶ月が過ぎたある日。

 4人で小部屋を訪ねると、カーラが倒れていた。


 ジェイクは足でツンツンとカーラを小突いて言った。


「そんな事したって、ムダムダ。

 お前さ、こんなことぐらいじゃ死なないだろ?

 ほれ、起こしてやるよ。

 起きろ!」


 ぐったりとしていたカーラは、近付いたジェイクの腕を取り押さえ込もうとしたが、反対に投げ飛ばされた。

 

 床に蹲るカーラの前に仁王立ちしてジェイクは言った。


「なんだ!元気だね。

 いい知らせを聞かせてやろう。」


 カーラの眼が少しだけ動いた。


「お前の国からは何にも言ってこない。

 何の反応もない。誰も助けに来ない。

 かわいそうに…見捨てられた。いや、忘れられてる。

 な!いい知らせだろ?


 このまま、お前は1人で壁に潰されるのかねぇ。

 だって、ほら見てみろよ。部屋がこんなに狭くなった。苦しいねぇ。


 どう?話して楽になりなよ。

 お前が誰なのか。何をしようとしているのか。

 話せばいいさ。だって、タマラ国の誰もお前のことなんか覚えてもいないんだぜ。


 ちゃんと話せば色々と考えてやってもいい。


 どうする?


 ふ〜ん。まだ頑張るんだ。


 じゃあ、仕方ないね。また皆で来る。」


 

 俺達はカーラをそのままに部屋から出た。


 カーラは何かを叫んでいたが、ジェイクは鋼の扉をバタンと閉めた。







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