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ジェイクのリベンジストーリー
パート1です。
1週間後、俺の執務室に4人で集まった。
ジェイクはカーラがタマラ国の第三王女であるという証拠は見つからなかった、と言った。
「でも、大丈夫です。私が直接カーラに吐かせます。」
大丈夫か、と俺が聞くとジェイクは顔を歪めた。
「私は…カーラの事を全てと言っていいほど知っています。それこそ、背中の黒子の位置も、内腿の傷跡もね。」
えっ?
「深くは聞かないでください。
あいつは私達を苦しめてスカーレットの王になったのです。ですから、どんな手を使ってでも吐かせてやる。あの女がタマラ国の王女で、この国を乗っ取ろうとしているのだとね。タマラ王の弱点と解術の方法も聞き出しましょう。
手強い奴だから時間がかかりますけど、俺はやりますよ。ただ、私1人だと抑えが効かなくなりそうなので、皆さんに立ち会ってもらいたいです。」
辛い思いをしたのであろうジェイクは、それ以上の事は言わなかった。
早くしないと皆タマラ国の術に嵌ってしまう、とジェイクは言った。そうならない様に急がねばなりませんといろいろな準備をして2週間後、ジェイクはカーラを城の小部屋に呼び出した。
ジェイクは窓からソフィアの庭を眺めていた。庭には雪がまだ残り、窓ガラスからは冷気が伝わって来ている。唇を噛み締めているその横顔には怒りが溢れていた。
王太子の準正装に身を包んだ俺は、部屋の片隅で椅子に座り、入ってきたカーラを睨みつけた。カーラはそういう圧が苦手だとジェイクが言ったからだ。
ルークは俺の斜め後ろに控えた。カーラの入って来たドアの前にはローリーが立った。
「な、なんでございましょうか?
私に特別の任務があるというお話でしたが…。」
カーラは少し驚いた顔でジェイクを見た。
部屋の真ん中にぽつんとおいてある椅子を手で差したジェイクは、まあ、座りなさい、と言った。
失礼します、と座ったカーラにジェイクはにっこりと微笑んだ。
「タマラ国のカーラ第三王女。
今日のご機嫌はいかがですかな?」
何をおっしゃるのですと言うカーラの側にジェイクは近寄って行った。
「あなたはご機嫌が悪いと凶暴になる。
だから…。」
パチン!
ジェイクが指を鳴らすとカーラは動けなくなった。口を動かす事も、瞬きさえも出来ない。
「カーラ王女は瞬きでも幻術を掛けますからね。お辛いでしょうが、仕方ありませんねぇ。」
ジェイクは笑った。
「誰かを呼ぼうと心で念じるのも無駄ですよ。」
ジェイクはまたパチンと指を鳴らした。すると、部屋は壁、窓、床、天井、全てが鋼で覆われていた。天井に小さな灯が灯っている。
「あなたは鋼を嫌っていた。自分の力を吸い取るからと言ってね。でも、それだけじゃないですよね。鋼に囲まれると幻術が掛けられない。
そうですよね?
あぁ、それと…。
あなたの魔力はもう使えません。私が取り上げましたからね。」
ジェイクはゆっくりとカーラの周りを回り、その赤い髪を手に取った。
「カーラ王女。
私はね、知ってるんですよ。
あなたはソフィア様みたいになりたかったんだよね。白銀の髪。折れそうなほどに細い体。柔らかな笑顔。
誰もがソフィア様の事を心配する。大事にされる。ソフィア様は皆から愛される。
そうなりたかった。
なのに、あなたは全く違う人生を強いられた。
子供の頃から国王である父親の命令で鍛えられで、騎士ではなくて殺人鬼に仕立て上げられた。
本当はそんなの嫌だったんでしょう?
なのに、何も言えなかった。いやだと言うと折檻されて、小部屋に閉じ込められ、何日もそのままにされた。
お可哀想なカーラ王女。」
ジェイクはカーラの前に跪いた。
「カーラ。
今の私はあなたの事をなんでも知っている。
だってあなたは私と…。
あなたと私はそういう関係だったんだ。私は嫌だったんだけどね。生き延びるために仕方なかったんだ。だって、あなたがこの国を支配して、王となったんだから。私に他の道はなかったんだよ。
おや?なんの事だって顔をしてるじゃないか。
わからないのかい?
今の俺は未来から戻ってきたんだよ。
だから、あなたの…お前の事はなんでも知っているよ。お前がこの先どうなるのか。お前のかわいそうな人生を知ってる。
まあ、それはおいおい話して聞かせてやるよ。
それに、お前がこれからこの国にしようとしている事も、知っている。
お前ったら、トラビスの事をチクって、俺達の信頼を得ようとしたろ?わかってるって。パール国とつるんでたんだもんね。
今すぐお前を消し去ってもいいんだ。
でもねぇ、証拠がないからね。タマラ国を滅ぼすには他国が納得する理由がいるんだ。それはお前でもわかるだろ?
だからさ、お前に全部話してもらう事にしたんだよ。」
ジェイクは仁王立ちになり、カーラを見下ろした。
「お前は人を嬲るのが好きだよね。でもその反対は耐えられない。
俺達がお前をじっくりと嬲ってやる。
お前が自分の口から全てを白状するまでな。
覚悟しろ。
1日に1度食事を届ける。
シャワーもトイレはないけど我慢するんだね。1日に1回、俺がきれいにしてやるから、ありがたく思え。
あぁ、それから。
この壁は少しずつ狭くなる。部屋の明かりはこの半分になるかな?
嫌だねえ…。
お前ってさ、狭い所も暗い所も怖いからさ、耐えられないね。子供の頃に閉じ込められた小部屋が余程怖かったんだね。
さてさて、タマラ国のカーラ第三王女様。
お前はいつ全てを白状するだろうね。」
では…とジェイクはぱちんと指を鳴らし、カーラの拘束を解いた。
カーラはジェイクに襲いかかったが、魔力も無くなったカーラはジェイクにあっさりと押さえられた。
「だからさ、ムダだって!」
また明日来てやるよ、とジェイクはカーラの顔を見て鼻でせせら笑った。
小部屋から出た俺達は、かける言葉もなくジェイクを見た。
「皆さんにいてもらって良かった。自分を抑える事が出来ました。じゃなかったら、私はあいつの首をへし折ってました。
そんな事したら、あいつの口から何も聞き出せなくなりますからね。」
と、ジェイクは言った。
それから毎日、ジェイクはルークかローリーと共にカーラの小部屋に食事を届け、魔力で体を清めた。ジェイクは罵声を浴びせるカーラを睨み、鼻でせせら笑うだけで何も言わなかったと聞いた。
1週間後、俺達は4人でカーラのいる小部屋に行った。
俺達を見るなり、憎しみで眼をぎらつかせてカーラは言った。
「図に乗るなよ。タマラが私のことをこのままにしておくわけがかなろう。」
ジェイクはふんっと笑ってカーラを見た。
「お前ってさ、自分が人気ないの、知らないんだね。残念な奴!」
ぱちんと指を鳴らし椅子を出したジェイクは俺に、ゆっくりご覧くださいと言って座る様にと手で指した。
「セオドラ王太子殿下の前でこんな事したくなかったんだけどさ…。」
ジェイクが右手の人差し指をさっと振ると、カーラの左の太腿が露わになり、ゆっくりと足を開かせた。
「なにをする!」
カーラは怒りで顔をどす黒くしたが、ジェイクはケラっと笑った。
「お前の左の太腿に刀疵があるんだよね。おれ、知ってるんだ。
ほら、これだよ。」
ジェイクはそう言って、軍靴の先で傷を突いた。
「だってさぁ、俺、毎晩の様にその傷を舐めさせられたからね。傷が疼くんだろ?
弟と喧嘩してやられたんだ。その仕返しに、お前ったら弟の寝首を取ろうとしたのに、失敗したんだよね。失敗して弟の顔に傷を付けた。
お前の父親は大笑いして終わりで、お前も弟も怒られなかった。お前の父親は子供を愛してはいなかったんだな。
でもな、お前の弟はお前の事、怨んでるんだぜ。あんなきれいな顔に生まれたのにさ、斜めに大きな傷が着いて…怨んで当然だよな。
だから、お前、弟に殺られるんだ。
お前の国王としての天下は、あっという間に終わりさ。ほんと、かわいそうだね、お前って。
ちゃんと弟を消しておけば良かったね。
いま、心の中でキトとミトが助けに来る、って思ったろ?
残念!お前の愛人達は、お前に忠誠なんか誓ってないよ。弟をお前の寝所に手引きしたのは、キトとミトだ。睦みごとの最中で、お前は弟の兵達が来た事に気づくのが遅れたんだ。
おまえ、人気ないんだよ。
お前みたいな性格のやつ、誰も助けになんか来ない。いい加減、気付けよ。
ほんと、残念な奴!
どう?話す気になった?
ならないの?やれやれ…。
じゃあ、おまえ、もっとここにいようか?」
更に1週間後。
また4人でカーラを閉じ込めている小部屋に行った。部屋はどんどんと狭くなり、なんとも言えない匂いが立ち込めていた。
部屋に入るなり、ルークが言った。
「くさっ!
カーラ第三王女様、かなり臭い!」
カーラは顔を背けた。
「ルーク殿、そう言ってはいけませんよ。私だって一応毎日来て、カーラ王女を綺麗にしてるんですけどね。本人が暴れたりするし。
あぁ、でも、私は昨日はちょっとお出かけしていて…ここに来れなかったんですよ。
仕方ないですね。王太子殿下に失礼ですから…」
ジェイクは人差し指を振ってカーラ王女をきれいにした。
ローリーがクスッと笑って、ありがたく思うんだねと言うと、カーラはローリーを睨みつけた。
「おやおや?まだローリーを睨みつける元気が残っていますか。しぶといね。
仕方ない。このまま帰りましょう。」
こうして、1ヶ月が過ぎたある日。
4人で小部屋を訪ねると、カーラが倒れていた。
ジェイクは足でツンツンとカーラを小突いて言った。
「そんな事したって、ムダムダ。
お前さ、こんなことぐらいじゃ死なないだろ?
ほれ、起こしてやるよ。
起きろ!」
ぐったりとしていたカーラは、近付いたジェイクの腕を取り押さえ込もうとしたが、反対に投げ飛ばされた。
床に蹲るカーラの前に仁王立ちしてジェイクは言った。
「なんだ!元気だね。
いい知らせを聞かせてやろう。」
カーラの眼が少しだけ動いた。
「お前の国からは何にも言ってこない。
何の反応もない。誰も助けに来ない。
かわいそうに…見捨てられた。いや、忘れられてる。
な!いい知らせだろ?
このまま、お前は1人で壁に潰されるのかねぇ。
だって、ほら見てみろよ。部屋がこんなに狭くなった。苦しいねぇ。
どう?話して楽になりなよ。
お前が誰なのか。何をしようとしているのか。
話せばいいさ。だって、タマラ国の誰もお前のことなんか覚えてもいないんだぜ。
ちゃんと話せば色々と考えてやってもいい。
どうする?
ふ〜ん。まだ頑張るんだ。
じゃあ、仕方ないね。また皆で来る。」
俺達はカーラをそのままに部屋から出た。
カーラは何かを叫んでいたが、ジェイクは鋼の扉をバタンと閉めた。




