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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜涙が涸れても〜
64/73

7

 2日後の午後。


ソフィア、来たよ…とセオドラ殿下の病室に、黒い鎧兜に身を包んだ2人の護衛を連れたヒューイットが現れた。


 ソフィア妃殿下の側には護衛のジュエルとカーラ、後ろにルーク殿が立った。私はセオドラ殿下の護衛として、殿下のベッドの側に立っていた。


「えらいね、ソフィア。ちゃんと約束を守れて。」


 にっこりと笑ったヒューイットは、そう言いながら妃殿下の方に歩き出した。

 妃殿下は小刻みに体を震わせながらも、にっこりと笑ってヒューイットを見た。


「屋敷に白い蛇を置いてくれたのでしょう?

 おかげでわたくしは子供の頃の約束を思い出しました。

 でも、お父様もお母様、お姉様もいなくなってしまって…。

 あ、あの…座ってお話ししたいのだけれど、いいかしら?わたくしは、まだあまり体力がないのです。」


 いいねぇ、と言ったヒューイットはソフィア妃殿下を見つめたまま、右手を少し上げて人差し指を動かした。

 すると、病室が丸ごとソフィア妃殿下の実家、コペル男爵家の庭になった。


 これは幻術によるもの、今いるのは病室だと分かっていても惑わされる。

 暖かな日差し、春の風、花の香り、鳥の鳴き声、ゆらゆらと舞う蝶…。全てが本物にしか感じられない。2人の目の前にあるのは椅子とテーブル。


「ソフィアお嬢様と一緒に座るなんて、昔のオレには許されなかったけど…。一緒に座ろう。」


 ヒューイットはソフィア妃殿下の隣に座った。

 

「ねぇ、ヒューイットは私の前からいなくなった後、何をしていたの?苦労したのでしょう?」


 ヒューイットの顔を覗き込む様にしてソフィア妃殿下は聞いた。


「その顔…グッとくる。

 好きだよ、そんな顔してるソフィア。

 ほんとに、かわいいねえ。

 俺の事、知りたいのかい?じゃあ聞かせてあげるね。」

 

 ヒューイットはにっこりと笑った。



 

 ソフィア妃殿下がヒューイットに微笑む事で、ヒューイットは油断して自分の事をベラベラと話すだろう。その言葉の中から、幻術を解く何かを見つけられるかもしれない。協力者も割り出せるかもしれない。

 ソフィア妃殿下は私達にそう言っていた。



 


「白い蛇を見つけたオレはソフィアの婚約者だ、って親父に言ったらさ、親父にボコボコにされたよ。白い蛇も取り上げられて、散々だったよ。

 ソフィアお嬢様には近づくなと言われてさ。悲しかったなぁ。

 でもさ、オレはソフィアの事はいつもちゃんと見てたんだぜ。気がついただろ?

 それで、ソフィアが13歳ぐらいの時にさ…」


 

 我慢できなくなったヒューイットはソフィアの部屋に忍び込んだ。ソフィアは体調が悪く眠っていた。



「ソフィアは俺の婚約者だから一緒に寝てやろうと思ったんだ。オレがキスすればさ、すぐに調子も良くなるはずだからな。」


 だが、ヒューイットはダニエル コペル男爵に殴られた上に屋敷から追い出された。父達も皆、屋敷から出された。しばらくは何もせずゴロゴロとして過ごしていたヒューイットだったが、金儲けの話はあちこちから舞い込んだ。



「オレは金儲けの才能があったんだな。面白いように金が入って来たんだ。だから、金を貯めてソフィアを迎えに行こうって決めた。

 会えなくなったけど、オレの気持ちは変わらないし、ソフィアだってオレのことを愛してるの、分かってたからね。頑張れた。」


「ど、どんな事をしたの?」


「聞きたいのかい?

 貴族や金持ちの家を借金地獄に落とし込んでさ、借金のカタに娘を売ったんだよ。貴族の娘はね、高値がつくんだ。

 それでさ、金が貯まったんでソフィアを迎えに行ったんだよ。」


 だが、コペル男爵はヒューイットとソフィアは婚約なんかしてないという。ソフィアに会わせようともしなかった。


「ソフィアとセオドラが婚約したって噂は聞いたけど、ソフィアはオレのモノだからね。皆、いい加減な事言ってるなって思ってた。

 なのにさ、お前のオヤジったらさ、金と地位に目が眩んじまって、セオドラなんかにソフィアをくれてやるって決めてたんだ。

 腹が立った。それじゃあソフィアが可哀想じゃないか。ソフィアはオレを愛してるのにさ。オレのモノなのに。


 だから、オレは決めたのさ。

 セオドラよりも強い力を身につけて、かわいそうなソフィアをこの手に取り戻すってね。


 それで、オレはタマラ国に行ったんだよ。」


「まあ!タマラ国に?

 大変だったでしょう?」


「仕事で知り合ったパール国の奴から秘密の方法を教えてもらってタマラに入ったんだよ。地獄の沙汰も金次第。入るのは簡単だったんだよね。」


 だけど、タマラの兵に捕まってボコボコにされ、何しに来たと聞かれたヒューイットはこう言った。


 スカーレット国に復讐するための力を付けに来た。


 すると城に連れて行かれ、タマラ王の前に引き据えられた。


 王に、何のための復讐だと聞かれ、セオドラ王太子に女を取られたからだと答えると王は爆笑した。


 気に入った!

 タマラの幻術を教えてやろう。

 お前はセオドラをいたぶり、女をとりかえせ。

 タマラはスカーレット国を頂く。

 


「それから何年もかけて修行してねぇ。やっと独り立ちしたんだよ。

 タマラの王はオレのこと気に入ってさ、今日もこうして護衛もつけてくれてさ。

 すごいだろ。

 まあ、俺の話はこんな所かな。」




 ヒューイットはにっこりと笑った。

 ソフィア妃殿下も笑ったが、その顔が少しずつ歪み体がガタガタと震えて、椅子から転げ落ちそうになった。


「おい、ソフィア。大丈夫かよ?」


 ルーク殿がヒューイットを睨みつけ、ジュエルとカーラがソフィア妃殿下を慌てて支えた。


「貴様!ソフィア様に何をした!」


 ジュエルが大声を出すと、ヒューイットは口をへの字に曲げた。


「ちっ!

 オレはなんもしてねぇよ。」


 何もしてない?そんなわけなかろう、というジュエルにヒューイットはめんどくさそうな目を向けた。


「こいつ、うざっ!

 消えろ!」


 音もなくジュエルが消え、後には何も残っていなかった。それを見ていたソフィア妃殿下の目から涙が溢れた。


「やめて…。

 ヒューイット。もうやめて。」


 ヒューイットが勝ち誇ったような顔でソフィア妃殿下を見た。


「やめて欲しいの?だったらオレと一緒に来いよ。オレと一緒に暮らしてさ…楽しく過ごすんだ。一生可愛がってやるよ。」


 だめです

 できません

 だって…わたくしはセオドラ様の妻ですから

 わたくしの愛しているのは、セオドラ様だけです


「ヒューイット。

 あなたはわたくしのために白い蛇を見つけてくれた。でも、わたくしは白い蛇をあなたからもらっていません。お父さんが捨ててしまったのでしょう?

 あなたとわたくしの婚約なんて、最初からありません。」


「そんな事言って!」


「あなたは…6歳の子供の戯言を信じ続けて、たくさんの人を殺した!

 白い蛇の話など、子供の御伽話です!」


「うるせ「これでも食らえ!」」


 その時、病室が壊れた。

 ルーク殿がヒューイットに向けて雷を落としたのと、カーラがルーク殿に向けて火玉を落としたのは、同時だった。


「ヒューイットの協力者はお前か…。

 でも、ヒューイットが死ねば幻術も解ける。セオドラ殿下も元通りだ。

 こっちの勝ちだ。」


 カーラは高笑いをしてルーク殿を見た。


「ばかね。セオドラに術をかけたヒューイットが死んじゃったら、もう解術できないのにさっ!」


 ヒューイットは雷に撃たれて息絶えていた。


「だからね、セオドラはずっとあのままよ。残念でした。

 スカーレット国はもらったわ。

 さようなら、ルーク殿!」


 カーラはルーク殿に投げキッスを贈った。

 ルーク殿は一瞬で消えた。

 

 ソフィア妃殿下は気を失い、倒れていた。


 カーラは私を見てにっこりと笑った。

 

「セオドラの親衛隊のジェイク殿。

 私はね、タマラ第三王女なの。

 ここまで長かったわ。

 お父様がヒューイットなんて気に入っちゃったから、ほんと、めんどくさかった。さっさとやっちゃえば良かったのにね。

 

 ソフィアは大丈夫よ。私がちょっと眠らせたの。

 

 セオドラとソフィアを隣の部屋に寝かせておきなさい。一応、この国の王太子夫妻だからね、丁重に扱いなさい。」


 カーラはヒューイットに付いていた2人の護衛、キトとミトにそう命じると、右手の人差し指をくいくいっと曲げて私を呼んだ。


「で、どうする?ジェイク殿?

 ここで消える?それとも…?」


 私はにやっと笑ってカーラに言った。


「逆らったりしませんよ。セオドラもあのままなんでしょう?もう、お仕えする意味もない。」


 ふん、とカーラは私を見て鼻でせせら笑った。

 

「私の部下になるか?それとも、魔力を取り上げられて普通の男になるか?

 お前の道は2つに1つだ。」


 普通の男になる。それもいいじゃないか!

 私はヘラヘラと笑ってカーラを見た。

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