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いいね、ポイントを入れてくださった皆様、ありがとうございます。心からお礼を申し上げます。
これからもセオドラとソフィアの物語を応援していただけたら、幸いです。
ソフィア妃殿下はヒューイットという名前を聞いても、最初は誰の事なのかも分からない様子だった。
じっとテーブルを見つめた後でソフィア様は呟いた。
あの、ヒューイット?
コペルの屋敷にいた?
ソフィア様の記憶の中のヒューイットは朧だった。
小さい頃には一緒に遊んだ。
少し大きくなってからは遊ばなくなった。
時折り見かけると、ヒューイットがじっと見ているので怖かった。
そして、突然、屋敷からヒューイットもその家族もいなくなった。
どこに行ったの?と聞くと、父親もアリスも知らなくて良い事です、としか言わなかった。
それだけだった。
その後は一度も会っていない。
見てもいない。
「ヒューイットがセオドラ様を恨んでいるのですか?
わたくしではなくて?
コペル男爵家でもなくて、セオドラ様を?
…わたくしのせいで、セオドラ様はあの様な事になっておられる…。」
ソフィア妃殿下はしばらく黙り込んだ。そして、ゆっくりと顔をあげた。
「わたくしがヒューイットと直接話します。
セオドラ様に目覚めていただき、ヒューイットをおびき寄せましょう。」
ですが…とルークはかなり渋い顔をしたが、トルディオン王子は、いいと思いますと言った。
「私もいつまでもはここにいられない。
時折、パール国に帰って状況を確認していますが、パール国はタマラ兵が増えています。暗愚な義兄達は、自分の国がタマラに乗っ取られる可能性を考えてもいない。
ローリー殿も探索を続けていますが、これ以上は危ない。もう戻って来た方が良いと伝えてあります。」
その時、部屋の外が騒がしくなった。
シールドを解き、ルーク殿が部屋から出るとスカーレット自衛軍のダニエル コペル司令官が立っているのが見えた。
ダニエルは声を潜めなかった。
「ローリー殿が屋敷に戻られた、と報告がありました。フィル殿も一緒です。
ですが…
ローリー殿は……。
…………亡くなられました。
フィル殿もかなりの重体だということです。」
えっ?と言うが早いかルーク殿はローリーの屋敷に飛んでいった。
わたくしも参ります、というソフィア様を落ち着かせ、ジュエルとカーラを呼んで自室で待機していただいた。
状況を確認し必ずご報告しますから、と何度も言ってから、私はローリーの屋敷に飛んだ。
ローリーはきれいに体を清められ、ベッドの上に寝かされていた。青白い顔から、出血が酷かったのだろうと想像された。
ローリーが抱き抱えていたフィルは、直ちに王立病院に運ばれた、という。
ベラさんのいる部屋に案内してもらうと、双子を両手に抱えて青白い顔で座っているベラさんの前で、ルーク殿は頭を下げ続けていた。
私が部屋に入ると、ベラさんは私を見て言った。
「ルーク様はさっきからずっとそうしているのです。大丈夫です、と言っても頭を上げてくださらないの。
ほら、ルーク様。頭を上げて下さい。
ローリーの言葉を伝えようとジェイク様をお待ちしておりました。」
双子を侍女に預けるとベラさんは、シールドをと私に頼んだ。
何重にも掛けたシールドの下でベラさんは話し始めた。
ローリーはフィルが狙われていると知り、隠れ家に戻ったがもうフィル達は襲われた後だった。瀕死のフィルを見つけてスカーレットに戻ろうとした所をタマラ兵士の攻撃を受けた。
シールドも効かない、反撃は跳ね返される。
そして、突然目の前にタマラ兵が何人も現れ、やられた。
かろうじて、ここまで飛んできたのだ、とローリーは言ったのだそうだ。
「皆に伝えて欲しい。
タマラ兵士は幻で皆の心を惑わせ、その隙をついてくる。幻術を解く方法を探せ。」
「それが、皆への言葉です。」
ベラさんには?
私は余計な事を聞いてしまった。
「私には、小さな手紙を胸ポケットから出して渡してくれました。
娘の名前は、ローズ
息子の名前は、ローリー
そう書いてありました。
後は…私だけの秘密です。
さあ、ルーク様、ジェイク様。
時間がありません。ここは大丈夫です。
城にもどり、対策を!
セオドラ殿下とソフィア妃殿下に神のご加護が在らんことをお祈りしております。
さあ!急いで!」
すぐさま王立病院に飛び、フィルの容体を確認したが、もう持たないだろうとマリアンヌさんの父、王立病院の院長ロクシー バーロンド医師が言った。
トルディオン王子は、ベッドに横たわるフィルの口元に耳を寄せ、フィルの小さな声を聞いていた。
「フィル、謝るな。
お前の魔力がスカーレット最強だと誰もが知っている。お前のせいではないぞ。
今までよくやってくれた。心から感謝している。
お願いだ。謝るな。謝らないでくれ。
頼むから…。」
しばらくフィルに感謝の言葉を伝えていたトルディオン王子は、フィルの手を強く握りしめ続けていたが、突然眼を大きく見開いた。
「…えっ?」
トルディオン王子がそう言った時、フィルは眼を閉じた。王子はフィルの手を握り、肩を振るわせた。
フィルの両親がやって来たのはその直後で、フィルの両親に頭を下げ続けるトルディオン王子の眼からは、いつまでもいつまでも涙が溢れていた。
フィルが両親とともに屋敷に戻った後、トルディオン王子はルークと私に目配せをして城の小部屋に入った。
そしてシールドを厳重に張り、小さな声で言った。
「2日前、ウィリアム王子がパール国に捕まり、牢に入れられた、とフィルが最後に言いました。助けに行こうとした所をやられたらしいです。」
えっ?
「今日、ここに来るウィリアム王子は…
誰なのでしょう?」
私達の心を読んだトルディアン王子は頷いた。
「それしかないですね。ヒューイットでしょう。
ルーク殿、これからどうしますか?指示を下さい。」
ルーク殿はソフィア妃殿下と協力して、ヒューイットと対峙する事を選んだ。
「殿下に目覚めていただきましょう。
明日皆が揃った時に、ジェイクが殿下を目覚めさせる。魔力を使ったジェイクにしか解けないからね。
ソフィア妃殿下には演技をしていただく。マリアンヌが暴言を吐いた時にセオドラ殿下は頭を打って、1週間眠っていたと。
トルディオン王子はヒューイットが化けているウィリアム王子に貼り付いていただき、本当にヒューイットなのか見極めていただきたい。協力者の洗い出しもしましょう。
とりあえず、ウィリアム王子を迎えましょう。
あとは、臨機応変にするしかありません。
私はこれから幻術を解く方法を探します。
必ず、探し出します」
沈みそうになる心を奮い立たせ、私達3人は部屋を出た。
この後も不定期更新となります。
よろしくお願いいたします。




