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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜涙が涸れても〜
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3

 ソフィア妃殿下の容体が急変したあの日に病室に出入りした男、ヒューイット。だがなぜか、今まで名前すら出て来なかった。

 

 ルーク殿はエイダム コペル男爵から話を聞いて、直ちにヒューイットを調べ始めた。


 コペル家を出てからの足取り、ソフィア様が婚約した頃のヒューイットの様子とその後…。


 マリアンヌさんからの情報ではソフィア妃殿下の病室に出入りした者の身元は分かっているが、下働きの名前の中にヒューイットは入っていなかった。


 ルーク殿は、ヒューイットに協力者がいるのだろうという。


 しかし、調べても何も出てこない。

 今どこにいるのかも分からない。





 何も情報がない中、ルーク殿はある仮説を立てた。


 ヒューイットは魔力を持たない。だが、後から学んで身につける事ができる '幻術' を身につけたのではないか…と。


 幻術はスカーレット国やほとんどの国で、人を惑わす邪悪な術として全面的に禁止されていて、かなり厳しい罰則もある。


 だが、1つだけ密かに幻術を今でも使っている国がある。


 タマラ国だ。

 

 タマラ国と手を組んでいるパール国もこの件に関わっていると考えるとなんとなく辻褄が合う、とルーク殿は言った。


「この国の要となっているセオドラ王太子を酒で陥れて、この国を弱体化させ、乗っ取る。

 あいつらの考えそうな事だ!」


 

 だが、どうすればいいのか…と考えていると、ローリーが、私が…と言った。


「私が…トルディオン王子と会って来ます。会ってセオドラ殿下の事を伝え、ヒューイットの協力者を探すのを手伝って頂きましょう。人の心を読める王子ならできるのではと思います。」


「だけど、トルディオン王子は今、姿を隠してパール国を改革する仲間を集めているはずだ。簡単には見つからないだろうし、こっちにも来れないだろう。」


 ルーク殿がそう言うと、ローリーはしばらく考えた。


「でも、他に手はない…ですよね。


 ベラの出産は直ぐです。明日か明後日にはお産が始まるとマリアンヌさんが言っていました。生まれた後、私は2週間の休みを取る事になっていますから、秘密裏にパール国へ行けます。

 

 行かせて下さい。

 私はセオドラ殿下に救われた男です。セオドラ殿下のために私が出来ることは、何でもしたいのです。

 ベラも反対はしません。」


 ルーク殿はローリーを見つめた。


「ローリー、出産の時はベラさんの側にいて、ベラさんの手を握っていろよ。子供の顔もちゃんと見てから行くんだ。」


 ルーク殿は、いいな?とローリーに何度も念を押した。






 2日後、ベラさんは男の子と女の子の双子を産んだ。

 私が後から聞いた話では、ローリーは生まれて来た双子を1晩中眺めていたと言う。

 そして、ローリーがパール国に行く時、ベラさんにキスして、必ず帰ると言って消えていったそうだ。





 3日後、トルディオン王子がスカーレット国の城に現れた。


「ローリー殿から詳細は聞きました。

 私の魔力で周りにいる人々の心を読みます。そして、セオドラ殿下を悪しく考える奴を見つけます。

 それが、1番早くて、確実です。」


 パール国は今、戦乱とも言える状況になっていて、トルディオン王子の義兄達はタマラ国の兵士をパール国に招き入れ、攻勢を強めているという。


 そんな時期に来てくださって…とルーク殿が言うと、トルディオン王子は笑った。


「私と母、祖母が受けたご恩を思えば…。

 フィルが残って取り仕切っていますから、大丈夫です。」


 トルディオン王子は内密に国王陛下とロッシュ宰相にも会い、日頃の援助に対してお礼をしたり、ハンナの館を訪ねてハンナ妃とエリにも会ったりしていたが、その間も人の心を読み続けた。


 ルーク殿が、ローリーは?と尋ねると、トルディオン王子は少し顔を曇らせた。


「パールの城にタマラ国の兵士の宿舎ができています。ローリー殿はヒューイットの事を知っている者がいないか、その宿舎の近くで姿を消して調べているのです。

 フィルが側にいるのですが、今の状況ではずっとは側にいて差し上げられない。それに、幻術、という物に接した事がないので不安なのですが…。

 深入りはしない様に、2人には何度も言ってきました。良い結果を待ちたいと思います。」


 トルディオン王子は燃えるような赤い瞳で、ルーク殿を見つめた。



 

 


 次の日、ベラさんの産後の様子をマリアンヌさんが、セオドラ殿下とソフィア妃殿下に報告に行った。

 

 すると、突然、セオドラ殿下がマリアンヌさんの胸ぐらを掴んで、大声をあげた。

 姿を消してセオドラ殿下を護衛していた私は、咄嗟にセオドラ殿下の意識を消した。これ以上暴れないようにするには、そうするしかないと思ったからだが…辛かった。

 

 何が起きたのか、と狼狽えるソフィア妃殿下をマリアンヌさんが落ち着かせ、別室へと移って行った。


 とりあえず、セオドラ殿下を寝室のベッドに寝かせ、ルーク殿に来てもらった。

 殿下の姿を見たルーク殿は眉間に皺を寄せた。

 眠っている殿下がかなりやつれていたからだ。


 ルーク殿はセオドラ殿下を王立病院に移す事に決めた。やつれたれた殿下を見た目だけでも元に戻して差し上げたいと、とルーク殿は少し鼻声で言った。



 ルーク殿は国王陛下に報告し、対策を練った。


 国王陛下はウィリアム王子をアズール国から呼び戻したい、と仰った。


「今のままでは、セオドラは仕事につけない。体調が回復するまでウィリアムに代行をさせたいと思う。回復したら、またセオドラが頑張ってくれるだろうからな。それまではウィリアムに。


 わしは…後のことはお前達に任せたいと思う。自分の息子の事だ。正しい判断が出来そうもないのだよ。歳を取ったせいとは思いたくないが…。」


 国王陛下の顔は歪み、ロッシュ宰相は何も言わなかったとルーク殿が言っていた。




 ウィリアム王子は明日の午後に帰国する事が決まった。

 



 翌朝、ルーク殿、私、トルディオン王子の3人で城の小部屋に集まった時の事だ。


 トントントンと小さなノックの音がしてドアが開き、ソフィア妃殿下が共も連れずに1人で現れた。

 

「ソフィア妃殿下…ここは大事な会議の場所ですぞ!」

 

 ルーク殿が声を少し荒げると、ソフィア妃殿下は、知っておりますと言って、ずんずんと中に入って来た。


「わたくしも会議に加わります。

 これはお願いではありません。わたくしからの命令と受け取って下さい。」


 ルーク殿は更に声を荒げた。


「妃殿下、何をおっしゃるのです!妃殿下は「そうです。わたくしは、王太子妃です。」」


 そう言ってソフィア妃殿下は椅子に座り、皆を見た。


「わたくしはこの国で3番目に力を持っていると、ベラに習いました。私の命に従わなくてよいのは、国王陛下であるお義父様とセオドラ様だけだと。

 先程、わたくしはお義父様に皆と共に戦う許可を戴いて参りました。

 誰にも、文句は言わせません。」


 そして、ソフィア様は言った。


「わたくしの体では無理はしたくても出来ません。

 ですが、わたくしにしか出来ないことが、きっとあるはずです。

 わたくしに隠し事はせず、全てを話して下さい。」


 ソフィア妃殿下はにっこりと笑った。



「さぁ、会議を始めて下さい。

 皆の力でセオドラ様を元のセオドラ様に戻してさしあげましょう。」



 私の目の前に座っていたのは、可憐で柔らかなソフィア様ではなかった。愛する人を自分の手で取り戻そうという強い意思を持った1人の女性だった。


 

 

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