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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜涙が涸れても〜
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2

 私とセオドラ殿下は子供の頃からの親友で、私達はなんでも言い合える仲だと思っている。

 

 王立学院でもずっと同じクラスだった。魔力を鍛える特別クラスも一緒だった。2人でよく城を抜け出して、ちょっとだけ悪い遊び…もした。

 

 私の希望が通って殿下の親衛隊に入る事ができた時は、殿下はとても喜んでくださった。

 早く俺の専属になれよ、と言って下さったのを励みに、日々の鍛錬を怠らずに努力して、親衛隊副隊長になった。


 私はかなりの時間をセオドラ殿下と共に過ごしてきた。

 殿下が飲んだくれていた頃も、ソフィア様と知り合った頃も、私は殿下の側にずっといた。

 

 ずっと…側にいて、殿下を見てきた。お護りして来た。


 なのに、なぜ、あんな事が起きているのに私は気がつかなかったのだろう。




 自分が情けなかった。




 非番の今日は屋敷で領地経営の報告を受けることになっているが、私の頭はセオドラ殿下の事で一杯だ。


 父上はそろそろ引退したいらしく、私に少しずつパーカー伯爵家の事や領地の事を引き継ごうとしている様だが、私はそれどころではない。


 親不孝な息子である自覚はある。


 せめて、結婚でも…。


 だが、今の所、その相手も見つからない。





 午後になり、ルーク殿と約束の時間になった。


 何重にもシールドを張った城の小部屋でローリーと私で昨夜の話をすると、ルーク殿は唸った。


 私もこの目で確認したい、というルーク殿とローリー、私の3人はその夜も街の酒場へと行った。


 やって来たテディは、いつもと同じ様に賑やかに、そして豪快に私達3人と酒を飲んだ。


 夜中を過ぎた頃に帰ろうとするテディに皆で掴まって、私達は城に戻った。


 そして、またあの光景を目にした。


 


 ルーク殿の屋敷に3人で戻ると、ルーク殿は大きく息を吐き、私とローリーを見た。

 だが、何か言おうとしても、何も言えないようだった。


 帰りが遅いので心配して待っていたマリアンヌさんは、まずはゆっくりとお茶を飲んで…と私達に言った。


 4人でしばらく無言で暖かいお茶を飲んだ後、部屋に戻ろうとするマリアンヌさんをルーク殿は引き留めた。


 そして、人払いをして部屋にシールドを何重にも張った後で話し始めたのは、セオドラ殿下が毎晩夢で見るという '黒い闇' の話だった。


 そして…。


「殿下は…この所、何やら黒い物をよく見るようだ。

 黒い染み、黒い花…

 会議の時にはポトリと落とした黒インクが 'ソフィア' の文字になったのだ、と言っていた。


 私は、誰かに殿下達が狙われてるのかもしれないと思って、殿下にとりあえず気をつける様に、ソフィア様もしばらくは自室の近くにいた方がいい、と言ったんだけど…。


 考えられないことが起きている事だけははっきりしているが…。

 

 マリアンヌ、医学的な知識を持っている君の意見を聞きたいんだけど、いいかな?」


 先程みた光景を詳しく話すと、マリアンヌさんはしばらく黙り込んだ。

 そして、言葉を選ぶかのように、ゆっくりと話し出した。


「今回の出来事との関係性は不明ですが…。

 実は…私と父はある事を調べているのです。」


 二月ほど前、ソフィア妃殿下の病状が急に悪化し、最悪の事態になった。もうこれ以上、出来ることはない、静かに見送りましょう、とセオドラ殿下にも告げた。

 ところが、突然ソフィア妃殿下は回復された…。何もしていないのに。


「あんな事、普通ではありえません。誰かが何かを仕掛けたに違いない。そう考えて、父と2人で調べているのです。この事はルークにも少し話しましたが…証拠が何も出てこないのです。」


 そもそも、あの場所は王族専用の病室で、出入りは厳重に管理されている。医療スタッフ、病院の出入りの者まで調べたが、怪しい者はいなかった。

 何も出てこない。


「最初に言ったように、関連性は不明ですが…。

 もし、同じ時期から殿下の夢が始まっていたのなら、二つの事は繋がっているのではないかと思います。

 そして、セオドラ殿下がその頃からずっと浴びるように呑んでいるのだとしたら…。殿下の精神に影響が出てもおかしくありません。

 ただ、体が2つに分かれるなんて、私には説明できません。

 2つに別れた片方が飲み続けて、もう片方にどのように影響が出てくるのでしょう。

 怖いです。早くなんとかして殿下を助けないと…。」



 助けないと、どうなるんだ?


「早く助けて差し上げないと、考える力もなくなり、動く事もできなくなる可能性があります。

 アルコール中毒は本当に怖しいのです。」


 しばらく誰も何も言えず、無言で冷えた茶をすすった。


 ルーク殿が、では…と掠れた声を出した。


「とりあえず、この事はこの4人だけの話としよう。

 何をどうすればよいのか、まるで分からない。

 私は自分の配下の者に殿下の事を調べさせるが…何を調べさせれば良いのやら…。

 ジェイクは殿下と妃殿下の護衛の強化、ローリーは街で何か情報がないか拾ってくれ。

 マリアンヌは義父上と引き続き調査を。

 今夜は、もう解散しよう。

 …なんだか、ひどく疲れた。」


 皆、ぐったりとして解散した。





 今思えば、なぜあの時、ソフィア様の事も調べようとしなかったのだろう?

 エイダム コペル男爵と最初から連絡を取り合っていれば、最悪の事態は回避出来たのではないか…。


 いや、後からなら、何とでも言える。

 その時に思い付かなかった自分が悔しい。

 




 そんなある日、私は事件を目撃した。


 庭の四阿でお茶を楽しんでいるソフィア妃殿下とハンナ妃の姿を窓から見ていたセオドラ殿下が、突然四阿に飛んだ。

 そして、護衛のジュエルに、ソフィアに何をしようとした!と詰め寄ったのだ。


 私はその場を誤魔化そうとして、殿下の悪ふざけだと言ったが、殿下は幻覚を見ているのだと分かり、内心はかなり狼狽えていた。



 その後もルーク殿、ローリーと話しあっているが、相変わらず何も情報は出てこない。

 

 相変わらず、テディは毎晩酒場に現れ、浴びる様に飲んで帰って行く。


 ローリーは適当な理由をつけて、テディが行く酒場の警備を私服の準騎士達にさせ、揉め事に巻き込まれない様にしている。


 誰もテディが酒場に現れるのを止められない。止め方も分からない。


 ソフィア妃殿下もセオドラ殿下の異常に、少しずつ気付き始めているに違いない。だが、妃殿下は何も仰らない。



 私は、ただ、ただ、酒を飲むセオドラ殿下の姿を見護る事しかできなかった。


 セオドラ殿下の状態だけがどんどんと悪化して行く。

 




 トルディオン王子とフィルがパール国へと旅立って行った頃には、セオドラ殿の幻覚はますます酷くなっていき、皆に隠すのも限界となってしまった。



 ルーク殿は国王陛下とロッシュ宰相に、セオドラ殿下の現状を報告せざるを得なくなった。

 お二人とも黙り込んでしまった、と聞いた。





 エイダム コペル男爵が話があると言って来たのは、それからまもなくの事だった。

 ソフィアからセオドラ殿下の具合が悪いと聞いたのですが…と。


「セオドラ殿下の体の事を知らなかったので…話しに来るのが遅くなってしまいました。

 役に立つ情報なのかは分かりません。でも、可能性の1つとしてお聞きいただいた方が良いと思います。」



 私達は、あの悪魔の様な男、ヒューイットの名前を、その時初めて聞いた。

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