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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜暗闇の向こうに〜
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ポイントといいねをつけてくださった皆様、ありがとうございます。感謝いたします。


これからもセオドラとソフィアの物語をよろしくお願い致します。



そんなある日、パール国からトルディオン王子に帰国の要請が来た。


 今までも何度か同じような要請が来ていたが、トルディオン王子は帰らない、とキッパリ言い続けていた。


「…私は人質です。

 帰れるわけないのに…。

 お父様とお義兄様たちになかなか会えなくて…

 すこし、寂しい…。」


 トルディオンはいつも、思ってもいない事を真剣な顔で言っては、ニタっと笑うのだ。


 だが、今回は違った。

 ルークが調べさせると、トルディオン王子の父、パール国王が危篤の状態になっていると言う。




 6年ほど前、パール国からの攻撃を受けた後、賠償金の支払いと人質を要求し、やって来たのが当時10歳のトルディオン第3王子だった。


 人の心を読む魔力を秘めた聡明なこの少年に、俺達は賭けた。

 愚鈍な王と王太子達が牛耳っているパール国の行く末とスカーレット国との真の友好のために、トルディオン王子をスカーレット国で見守り続ける事を決めたんだ。


 そして、16歳になった燃えるような赤眼を持つ少年は、強い魔力と判断力を備え、人を惹きつける行動力を身につけた立派な青年に成長した。



 ルークは、機は熟しましたな、と俺に言った。




 執務室にやって来たトルディオン王子は、俺を見てニヤリと笑った。


「義兄達の考えることなど、手に取るようです。」


 トルディオン王子はこの数年、姿を消して何度もフィルと共にパール国の現状を見てきたと言う。


 金のないパール国の街は荒れ、民は疲弊し、強い魔力を持つ騎士の半数は国外に逃げ、処刑された者も多い、とトルディオン王子は眉を顰めた。


「パール国に戻ったら、今は閉じている人の心を読む魔力で敵と味方を篩い分けて味方を集め、義兄達そしてその取り巻き達と戦います。

 必ず、勝利をこの手に。

 国民のために、パール国を幸せ溢れる国にして見せます。」


 そして、トルディオン王子は俺に頭を下げつつ言った。


「フィルは来るなと言っても私に付いて来るでしょう。フィルのご家族には申し訳ない事です。


 パール国が落ち着くまで母をお願いします。一緒に帰らずとも問題はありません。

 それと、ひたすら自分の出自を隠している私のおばば様、エリの事も、よろしくお願いします。


 我が手が血に塗れても、パール国の民の事を思えば前に進めます。

 明日、国に戻ります。

 幸運を祈ってください。」



 トルディオン王子はフィルを連れて、翌日、実にあっさりとパール国に帰って行った。




 ルークの放っている手下達からの報告では、それからすぐ、パール国王が逝去された。


 程なく、軍の若い将校達がクーデターを起こしたという話が伝わって来た。将校達の反乱軍と王太子の率いる軍は激しい戦いを繰り広げている、とルークの手下は言ってきた。


 第3王子トルディオンの名は全く出てこない。

 


 俺達、スカーレット国は今、内政干渉と取られないようにパール国と表面的には距離を置いている。どんなに心配していても手は出せない。情報を集めるだけだ。



 

 トルディオンが帰国してしまい心細いであろうハンナ妃を慰めるのだ、とソフィア達がお茶の会を開くという。


 俺やルーク、ジェイク、ローリーにも来て欲しい、とソフィアに誘われて皆で刺繍の会の部屋に行ってみた。


 すると、大きなお腹のベラが、ふう〜っと息をしながらやって来た。ローリーは落ち着かない風情で、座っているベラの汗を拭いてあげたり、水を渡したりと、実に甲斐甲斐しい。


 ハンナ妃がベラのお腹を見て、すぐにも産まれそうな感じ…楽しみですね、と言うと、ベラは顔をキリッとさせた。


「私、考えられる本は全て読み、知識は充分に頭に入れました。ほぼ、完璧です。

 あとは、実践あるのみ!

 頑張りますわっ!」


 エリは笑いながら言った。


「ベラさん、肩の力は抜かないと…。子育ては長い道のりですよ。最初から頑張りすぎないでくださいませ。」


 もちろんですわ!エリさん、とベラは言う。


「ローリーがおりますもの。頼りにしているのです。」


 ハンナ妃は寂しそうな表情も見せず、皆と楽しそうにお茶を飲み、お菓子を食べた。皆もハンナ妃を中心に、あれやこれやと話してお茶を飲んだ。


 誰かが何かを言って皆を笑わせた。

 ソフィアは可愛らしいその顔に、輝く様な微笑みを浮かべている。


 俺はソフィアの微笑みをいつまでも見ていたい、と思った。こんな時間を持つ事が出来る俺は、本当に幸せ者だ、と。

 


 すると、どこからともなく声が聞こえて来た。


 セオドラ…。

 幸せになんぞ、なれねぇよ。


 誰だ?誰が言ってる?

 立ち上がり、皆を見ると、皆が口々に言っているのが分かる。

 気がつくと、部屋の中は黒い闇が広がっていた。



 幸せ?セオドラ、お前にか?

 お前に幸せなんか、くるものか。

 落ちて行け!

 どん底まで。

 落ちていきやがれ!



 俺は両手で耳を塞ぎ、叫んだ。


「や、め、て、く、れぇ!」


 そして一目散に部屋を出て、自室に入り、鍵をかけた。

 

 


 とんとんとん…セオドラ様。

 ノックの音と、ソフィアの声がする。


「セオドラ様、入れてくださいませ。

 わたくし、入れません。」


 そっとドアを開けて、ソフィアの腕を掴み、部屋の中に引っ張り込む。


 ソフィアを抱きしめて、俺はソフィアの耳元で囁いた。


「ソフィア。

 皆が俺に幸せは来ないと言うんだ。

 でも、違う。違うんだ。

 俺は…俺は今、幸せなんだ。だって、ソフィアがいてくれる。ソフィアは俺の側にいてくれる。

 俺は幸せだよ。ソフィア。

 ソフィアも幸せだろう?

 そうだよな?」


 ソフィアが俺の手をぎゅっと握った。 





 その後も皆は何も言わず、いつも通りに俺に接している。

 でも、俺は皆を信じる事が出来なくなった。


 こいつらは普通の顔をしてここにいるが、心の中で何を考えているのか…。

 信じるな…。

 もう、誰も信じるな。

 ソフィアだけ、俺の側にいればいい。 

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