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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
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冬 5

今回はトルディオンとフィルの話です。


2人の少年は前に前にと進んでいきます。

お楽しみください。

トルディオン王子とルークの甥っ子フィルの修行が始まってしばらく経った。


 気になった俺は付き添いに行った親衛隊員に、リリウ殿と王子達はどんな様子だったのか?と聞いてみた。


 隊員はちょっと首を傾げてこう言った。


「はいっ。元気に…遊んでおられました。」


 ん?

 遊んでた…のか?


「リリウ殿はニコニコとして見ておられまして…時折…教えていらっしゃいました。」


 何を?と聞くと…


「皆で凍った川に行きまして…。

 リリウ殿は、河原で魔力を使わずに火を起こす方法を教えておられました。

 それから、凍っている川での魚の取り方、捌き方、じゃがいもの皮の剥き方なども教えておられました。」


 ふむ、それで…?


「私は護衛ですので、そばで見ていたのですが…。一緒にやってみようよ、とトルディオン王子に言われまして…芋の皮を生まれて初めて剥きました。

 それから、皆で焼いた魚と茹でた芋を美味しくいただきました。塩が効いており、美味しかったです。王子もフィル殿もそれはそれはたくさん召し上がっておられました。


 あああ!…す、すみません!

 護衛なのに…楽しんでおりました。

 申し訳ございません!!」


「楽しいならよかったよ。辛い修行ならどうしようかと思ってたんだ。」

 

 俺はそう言って、頭を下げ続ける親衛隊員の肩をポンポンとした。



 トルディオンとフィルがこれから進んでいく道は、そう容易い道ではないはずだ。でも、今はまだ2人で楽しみながら進んで行って欲しい。


 俺に出来る事は、援助を惜しまない事ぐらいだ。


 トルディオン王子がどこまでやれるのか。

 フィルはどこまで王子についていくのか。


 これからが楽しみであるが、ほんの少し心も痛い。


 俺達はトルディオン王子にパール国での主導権を握ってもらいたい、と思っている。はっきり言えば、次期国王に…と。


 パール国の愚鈍な王や王太子、第2王子ではなく、第3王子のトルディオンが王になり、我スカーレット国との真に友好的な関係を築いてほしい…それが俺達の考えている事だ。勝手にそう考えているんだけど。


 そのためには辛い経験もするだろう。

 やりたくない事もやらねばならなくなるだろう。

 父や義兄達、その取り巻き達を倒して進んでいかなければならなくなるのだから。


 王子とフィルが、そんな大人の考えている事を知る由もない。



 しかし…。


 1月ほど経った頃、リリウが俺達に会いたいと連絡をして来た。


 執務室に俺とルーク、リリウの3人になり、二重にシールドを張ったリリウは、あの2人をどうするつもりだ、と聞いた。


「しばらくあの2人を見ていたが、フィルはかなり強い魔力を秘めている。鍛えればこの国を背負うほどの力となる。

 トルディオンの力については、お二人とも知っているのであろう?人の心を読める様になる。その上、フィルほどではないが魔力も強い。


 あの2人をわしに預けて、これからどうしたい?

 聞かせて欲しい。」


 俺とルークはトルディオンを取り巻く現状と、ゆくゆくはトルディオンをパール国の王に…と考えていると話した。


「トルディオン自身はどう考えている?

 フィルは?トルディオンと共に進むつもりでいるのだろうか?


 これから修行は少しずつ厳しくなる。自分の進む道に迷いがあっては辛いだけだ。

 あの2人はまだ10歳だが、これからの道を考えて、自分で結論を出す頭は持っている。


 2人にきちんと話をしておくのがよかろう。

 どの様に2人が決めても、わしは協力を惜しまないつもりである。

 なに…2人といると、この爺様も楽しいのでな。


 では、話は以上だ。

 決めたら教えて欲しい。」




 リリウが消えて、しんと静まり返った執務室で、ルークがぽつりと言った。


「そうでしたね。

 本人達の意見はまだ聞いていませんでした。

 まだ子供だと思っておりましたので。


 フィルの方は本人の考え次第ですね。義兄、姉も交えて話し合ってみます。

 トルディオン王子の方は殿下に対応していただいてもよろしいですか。


 あの2人に幸せな未来が来るように、手助けをしたいですな。」


 


 そう言って消えていったルークが翌日の早朝、慌てふためいて執務室に現れた。


「殿下!まだ何も聞いておられませんか?

 フィルが…!」


「どうした?」


「消えました!

 書き置きには、トルディオン王子と修行に専念したいので家を出ると!」


 えええ〜っ!!


 そこへ慌てふためいたジェイクがやって来た。


「殿下!トルディオン王子が…!

 修行に専念したいから、家を出ると騒いでいるそうで…。そこにフィルも現れて、行かせてくれと2人で騒ぐので、必死で取り押さえていると連絡が!」


 なんということ!

 あの2人は、俺達の考えの斜め上を行く少年達であった!


 


 トルディオンとフィルを俺の執務室に呼び入れて、まずは薬草茶を飲ませて落ち着かせた。


 それぞれの親と話をしなさい、という俺にトルディオンが、先に殿下に話を聞いていただきたいのです、と言った。


「殿下なら私達の話をちゃんと聞いて、私達の気持ちを理解しようとして下さると思うのです。」


 なるほど!

 では、聞くとしよう…。


 トルディオンは、パール国の現状から将来の展望、自分の求められるであろう役割について話した。自分は国民の未来を背負っているのだ、と。


 フィルは、トルディオンの片腕として、苦難が待ち受けるであろうトルディオンを支えたいと話した。自分ならできる、と。


 そして、2人は時間がもったいないとも言った。


「学院での勉強は無意味です。

 それよりもリリウ先生の元で修行をして力を付けたいのです。誰にも負けない強い力と強靭な心、それが大事だと私達は「!!ばかものっ!!」」


 突然の大音量の喝に、俺まで腰が抜けそうになった。

  

 目の前にはリリウが立っていて、トルディオンとフィルを睨みつけていた。その姿はまるで炎をまとった雷神の様で、…怖かった。

 そして、たったったっ…と2人の胸ぐらを掴み、立ち上がらせた。


「大馬鹿者!今、なんと言った!

 国を背負っているだと?自分なら支えられるだと?

 思い上がるのもいい加減にしろ!

 お前達の様なマセたガキに何が出来るのだ!力も考えもまだないくせに、妙な自信ばかり。

 そんな奴が闇に堕ちて行くのだ!

 闇堕ちして、苦しみたいのかっ!」


 リリウは2人の胸ぐらを掴んだまま、俺に言った。


「この2人、1週間預からせていただく。性根を叩き直して送り返すと親御に伝えてもらいたい。」


 俺の返事も聞かぬ間に、リリウと少年2人は消えていた。


 執務室に俺とルーク、ジェイクの3人。

 なんとも言えない空気が広がって、俺達はため息をつき咳払いをして、お互いの顔を見た。


「とりあえず…解散だな。俺はハンナ殿に話してくる。ロークはフィルの両親に。」


 やれやれ、家出をするとは思わなかった。




 

 落ち着かない1週間だった。

 

 ハンナ妃はオロオロとし、涙ぐんだ。


「セオドラ王太子殿下、私達はどうすれば良いのでしょう。」


 小さく震えるハンナ妃の背中をトントンとするエリの顔も強張っていた。


「ご心配でしょうが、リリウ殿を信じましょう。2人の師ですから、悪いようにはしませんよ。」



 フィルの父親は眉根を寄せて何も言わず、母親は背中を丸めて泣き続けだと、ルークが言っていた。



 1週間後、2人はそれぞれの家に戻って来た。


 2人はまず最初に自分たちの親に謝った。

 それから真摯に自分の親と向き合い、自分の夢や希望などを話した。

 そして、きちんと学院は卒業すると約束した上で、週末と休みにはリリウ先生の元で修行を続けさせて欲しい、と頭を下げた。



 

 後日、お礼を言いに来たハンナ妃はこう言った。


「リリウ様は息子に、焦るな、と言ったそうです。

 学院は視野を広げる場でもある。広い視野が前に進む時に必要となるのだ。自分しか見えない奴に、誰も付いては来ない。今は焦らずに一歩一歩進んでいけ、と言われたのだと申しておりました。

 

 妙に大人で、変な所がまだ子供なのですね。

 私達は見守り続けます。それしかできませんもの。」


 フィルの両親も礼を言いにやって来た。


「息子はリリウ殿にこう言われたのだそうです。

 誰かを支えるためには、支える事ができる程の知識がいるのだ。物事を広く知らねばそれは出来ない。トルディオンを支える者になりたいなら、学べ。トルディオンを超えるほどに知識を増やせ。トルディオンを守り切れるほどに力を付けろと。


 息子にそれができるように、私達は見守ります。やりたい事を見つけたのだから、がんばれ、と言ってやりました。」


 


 それからも、2人の修行は続いた。


 しばらくたったある日。

 気になった俺は付き添いに行った親衛隊員に、リリウ殿と王子達はどんな様子だったのか?と聞いてみた。 

 

 隊員はちょっと首を傾げてこう言った。


「はいっ。元気に…遊んでおられました。」


 ん?まだ遊んでる…のか?


「リリウ殿はニコニコとして見ておられまして…時折、声をかけておられます。」


 ほう、どんな風に?と聞くと…


「昨日は雪山の山頂まで歩きました。飛んだ方が良いのでは、とリリウ殿に尋ねました所、それではダメなんだ、と言われました。」


 風の強さ、方向、匂い。

 雪の深さ、下に隠れている地面の形。

 それらを見極めなければ、いざという時に判断を間違う。


「が、お二人は雪山を転がったり、雪玉を投げて遊んだり、と楽しんでおられました。

 私にも雪玉が飛んできましたので投げ返しました所、2人で共同戦線を組まれまして、最後はリリウ殿に、勝負あった!と声をかけられ、私は夕食に使う玉葱のみじん切りなるものを生まれて初めて作る羽目になりました。涙が溢れて止まりませんでした。

 

 私が涙を流している間に、お2人はリリウ殿と勉強会のような事をされていました。

 

 トルディオン王子が、あの山に砦は築けません、なぜなら****というと、フィル殿が、でも***を**すればできます。

 するとリリウ殿が、あの山の北側に何があるかわかったか、と聞いておられまして、非常に興味が沸いたのですが、私は目が痛くて涙が止まらず、それどころではありませんでした。


 すみません。護衛なのに泣いてばかりでした。」


 俺は笑いを堪えて、ご苦労だったな、と肩をぽんぽんとした。



 それから、更にしばらくたったある日。


 執務室にトルディオンとフィルが報告があるとやって来た。

 

「王太子殿下、私達は今日からリリウ先生と魔力を鍛える訓練を始めます。

 ご心配をかけた王太子殿下にはきちんと報告をしようと思いまして、今日はここに参りました。」


 どうだ、修行は楽しいかい?と聞くと、2人は顔を見合わせて言った。


「はい!

 知らなかった事を知り、出来なかった事が出来るようになるのは、本当に楽しいです。」


 ほほう…。


「でも、先生がこれからは楽しいだけではないと仰いました。ですが2人で励まし合って前に進んで参ります。」


 キラキラとした血のように赤い眼と、澄み渡る空のように青い眼を輝かせ、2人は笑った。


 励めよ、と言う俺の言葉にありがとうございます、と力強く返して2人は消えて行った。


 窓の外には赤い月と青い月が輝き、2人の少年の行く末を明るく照らしている様に俺には思えた。


誰がトルディオンとフィルの家出未遂をリリウに知らせたのか…。

状況から、多分、ジェイクなんだろうと思います。


がんばれ、少年達!

応援してるぞ!


次話からお話はセオドラとソフィアに戻ります。

お楽しみください。


不定期更新です。

よろしくお願いいたします。


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