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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
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冬 4

いいね!とポイントを入れて応援してくださっている皆様、ありがとうございます。


これからもセオドラとソフィアの物語をよろしくお願いいたします。

 数日後の昼下がり。

 外は雨だった。


 ビュービューという北風が吹き荒れるソフィアの庭は鼠色一色で、横殴りの雨が葉を落とした木々を打ち付け、枝がワサワサと揺れていた。


 俺は薄寒く感じる執務室で仕事も手に付かず悶々とし、窓から外を眺めていた。


 ソフィア、なんで帰って来ないんだよ。

 俺、ずっと待ってるのに…。

 カイセルの側がそんなにいいのかい?

 

 ピシッピシッという音がして、気がつくと雨は霙まじりになっていた。


 …ソフィア……





 そんな俺の所にベラ ハーウィック公爵が訪ねて来た。


「ご機嫌よう。セオドラ王太子殿下。

 人払いを願いますわ!」


 ベラは扇子で口元を隠し、俺に挨拶する隙も与えずにそう言った。

 さらに、シールドを!と言いますます不穏な感じになった。


 シールドが張られた執務室に俺とベラの2人…。

 ベラは軽く俺を睨み、パチンと扇子を閉じて言った。


「なんと情けないお顔をしてらっしゃるの?」


「へっ?」


「へっ?ではございませんでしょう?

 私、ソフィア妃殿下に会って参りましたのよ。」


 ん…っと。何が言いたい?


「お可哀想に…。泣いておられました!」


「体の調子が…悪んだよ。」


 きっ!と俺を睨みつけ、ベラは扇子をピシッと俺に向けた。


「女心の分からない、野暮な男ですことっ!!」


 そして、扇子をパチン、パチンと鳴らしながら、俺の周りをゆっくりと歩き出した。


「ソフィア妃殿下は引っ込みがつかなくなっているのです。それが分からないのですか?

 カイセル坊ちゃんが可愛くてもう一泊と言い、更に仮病を使ってマリアンヌさんを呼び寄せ、滞在を伸ばした…。」


 うん、それは分かってるさ。


「もう引っ込みがつかなくなっているのです!」


「ん?」


「初めから仮病ですから、良くなったから帰ると言えなくなってしまったのです!」


「えっ?」


「えっ?ではございません!

 あぁ、もう!イライラしますこと!!」


 ベラはパッチンと一際大きな音で扇子を閉じ、俺の前に立った。


「でも、マリアンヌがしばらく様子を見るのが良いと「それで2週間ですか!マリアンヌさんはこんなに長く様子を見ろとは言ってませんよ。」」


「ソフィアは自分も子が欲し「こんなに離れていては子は出来ませんっ!そうでしょう!!!」」


 はい…そうです。


「すぐに迎えにお行きなさい!

 妃殿下のお好きなクリームパフを私が買って参りました。それを見せて、城で一緒に食べようとお誘いなさい。

 よろしいですか?殿下がご自分で買った、と言うのです!」


 ベラはそう言って帰って行ったが、小さな声でボヤくのが聞こえてしまった。


 全く!

 ローリーなら3日でお迎えに行っておりますのに!



 はい、すみません…野暮な男で…。




 俺は残っている仕事をさっさと片付け、ビクターとアランにソフィアが帰って来る準備を頼んだ。

 そして、ベラから渡されたクリームパフを持ってコペル男爵家に飛んだ。


 

 カイセルのびぇ〜びぇ〜という泣き声が微かに聞こえる中、男爵夫妻がニコニコと俺を出迎えた。俺が、迎えに来たと言うと男爵夫妻はありがとうございますと深々と頭を下げた。


 家令がこちらですと案内して、トントントンと部屋をノックするとソフィアのどうぞと言う小さな声が聞こえた。


 ソフィアは窓辺に腰掛けて、外を眺めていた。


「迎えに参った。帰るぞ!」


 ソフィアが振り向き、セオドラさまぁ!と俺に飛びついて来た。


「泣いているのか?」


「わたくしは、…泣いてなどおりません。」


「じゃあ…これは何かな?」


 涙を指で拭うと、ソフィアはべぇ〜と可愛らしく舌を出した。


「セオドラ様は意地悪です。」


 そう言うソフィアに、ふ〜ん、そうなんだ。と言いながら手に持っていたクリームパフの入った紙箱を見せた。


「俺は意地悪だからね、買って来たこれは1人で食べる事にする。」


「…本当に、意地悪ですっ!」


 

 ソフィアはちゃっちゃと部屋を片付けて、帰り支度を終えた。


「お父様、お母様。

 セオドラ殿下がわたくしと城に戻り、一緒にクリームパフを召し上がりたいと仰っていますので、そうする事にします。

 お義兄様、お姉様、ご機嫌よう。

 カイセル、良い子にしているのですよ。叔母さまは帰りますからね。

 さあさあ、アリス、ジュエル、カーラ。

 参りましょう!」


 皆が苦笑する中、ソフィアは俺にしがみついた。


 

 

 その夜。

 ソフィアは俺の腕の中にいた。


「今日の午前中に、ベラがわたくしを訪ねて来てくれました。

 ベラは落ち込んでるわたくしを見て、言ったのです。カイセル坊ちゃんを見て、ソフィア様も早く子が欲しいと思ったのですね、って。


 わたくし…正直に言いました。


 わたくし、セオドラ様のお子が欲しいです。でも、わたくしの体は…と、そんな事を考えていたら悲しくなってしまいました。


 そうしたら、ベラはわたくしの手を取って教えてくれました。

 

 悲しくなったり、辛かったり、悩んだり…。

 それは、ソフィア様だけの事ではありません。

 女は、いえ、人生は色々です。

 辛い思い、悲しい思いをし、苦しんでいる者もたくさんいます。それでも、皆、前を向いて進んでいるのです。


 ソフィア様。

 何もかもが思い通りになるとは限りません。

 お子が産まれても産まれなくても、ソフィア様はソフィア様。なんの変わりもございませんでしょう?


 私、その通りだと気がつきました。」


 ソフィアは俺の唇に柔らかな人差し指をそっと這わせた。


「わたくしはもう悩んだりいたしません。

 わたくしは、わたくしですもの。」


 それから、俺にキスをしてソフィアは言った。


「今日は迎えに来てくださって、ありがとうございました。

 わたくし、セオドラ様が大好きです。

 ずっと大好きです。」



 ……♡





 一夜明けると嵐は去っていて、窓の外には青空が広がっていた。昼でも輝く赤い月と青い月が、目に眩しいほどだった。


 執務室にルークがやって来た。


「殿下、トラビスから一通りの事は聞き出しました。」


 …おっ!仕事が早いじゃないか!



 トラビスはスラスラと白状したと言う。

 ルーク曰く、あの手の奴は暴力は振るうが、その逆には弱い…のだそうだ。


 お、お前!何をやったんだよ!と聞く俺に、ルークは澄まし顔で言う。


「非合法なことは致しておりませんよ。

 こんな事は、サッサと片付けるに限りますからね。ちょっとばかり、気合を入れてみただけの事です。

 勝手に逃げ出したあの男が、街で誰かにやられていた所をローリーが見つけた…のです。まあ、何度も勝手に逃げましたのでねぇ。酷い事になったようです。

 残念ながら、あの男を痛めつけた犯人は見つかっておりません…ですね。」


 エリを含む多くの女を売買したと認めたので、これからさらに合法的な手段で、優しく話を聞くことにするようだ。


 パール国との繋がりも話した、という。

 女性騎士を増やし殺人鬼に育て上げ、ソフィアとハンナを拐うという計画で、魔力の強い女性騎士達を金で集める仕事をトラビスが請け負った、という。その女騎士達がどこに送られたのかは知らされていない。


 パール国とタマラ国は手を組んでいたが、トラビスからはこれ以上は聞き出せないようだ。


 

「殿下。後はお任せください。

 パール国とはなるべく穏便にケリをつけます。腹立たしいですが、トルディオン王子が大人になるまで待ちましょう。

 タマラ国には食糧支援を申し出て、優しく言い聞かせます。

 サワナタ国とも交渉いたします。サワナタの新王とは良好な関係ですので、トラビスの引き渡しと引き換えにエリ殿の実家の再興を交渉いたします。

 そして、エリ殿の名誉回復のために何ができるか、話し合っていこうと思います。

 トラビスは永久に牢から出られないでしょう。待遇の良い牢だといいのですがねぇ…。無理でしょうな。」


 ケラケラと笑うルークを見て俺は思わず言った。


「おまえって、恐ろしい男だな。」


 するとルークはニヤッとした。


「お褒めの言葉、ありがとうございます。

 これからもセオドラ王太子殿下のために、誠心誠意お仕え致します。


 あぁ、そうだ。

 トラビスは酔って自分の事を、トルディオン王子のおじいさまだ、と言っていましたが、それもパールの第二王子から聞いたのだそうですよ。第二王子はどこでそのネタを仕入れていたのやら…。ご心配なく、調べておきますので。

 トラビスは、あの3人をメチャメチャにしたら褒美をやる、とけしかけられていたようです。


 あとでエリ殿にこの数日で分かったことを話しましょう。殿下もご一緒に…。」


 そう言ってルークは帰って行った。




 今日はソフィアの刺繍の会の日だ。朝からソフィアは張り切っていた。

 当然、シェフ達もパティシエ達も、なぜか俺の親衛隊員までもが元気よく張り切っている。


 俺は窓から色のない庭を見て、ソフィアが言っていた事を思い出していた。


 冬の寂しいお庭に花を咲かせることができたら、皆嬉しくて、幸せを感じることが出来ると思うのです。


 どうにかして、可愛い妻のその願いを叶えよう。

 俺はちょっと拳を握って、考えを巡らせていた。冬は始まったばかりだ。

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